米中貿易摩擦による経済リスクやサウジアラビアの油田襲撃による原油供給リスクなど、世界を震撼させるリスクが取りざたされています。
リーマンショックから約10年がたち、景気後退が視野に入ってきたこの時期に、それと逆行するようにぐんぐんと値を上げているのが金(ゴールド)です。
なぜ、リスクが高まると「安全資産」とされる金が値上がりするのか、金の過去の値動きから投資商品としての魅力にも触れたいと思います。

目次
歴史や過去の値動きから見る投資商品としての金の価値
金の価値は採掘量が有限であり、希少価値があることに収斂されます。
世界各国は自国の通貨を流通させていますが、世界中で変わらない価値を提供しているのが金であり、世界経済の混乱や戦乱が起きると金の価値が再認識されて上昇するのです。
これまでの歴史や過去の値動きから、投資商品としての金を解説していきましょう。
希少な「安全資産」金の価値
世界中の金を集めたらどれくらいの量になるでしょうか。
金は美しく、劣化せず、形を変えることができ、古代から希少価値を認められる商品でした。
その全量は「50メートルプール3つ分」しか存在しないと言われています。
この希少商品であった金が安全資産と呼ばれる「資産」となったのは、1816年イギリスが1ポンドと金を交換する「金本位制度」がスタートと言われています。
1971年までは「通貨の裏付け」だった金
1800年代のイギリスでは、産業革命が起き、同国が世界の中心でした。
そのイギリスが世界での貿易取引で得る通貨の価値を安定させるため、イギリスの通貨ポンドを金と連動させ、諸外国は自国の通貨価値をそのポンドに連動させることとなったのです。
その当時、金が1番集まっていたのはイギリスです。
しかし、その後の第1次・第2次世界大戦を経て、金が1番集まる国はアメリカに移りましたが、そのアメリカも戦後支援のため世界中に富を分け与えたため、米ドルと金を等価交換する通貨制度を諦めることになりました。
これがニクソンショックと呼ばれる、1971年の金本位制度の終焉でした。
この約150年の歴史が資産としての金の価値を高め、商品としての価値のみならず、投資商品としての一面を作り出しました。

円から見た金の値動きとは
金本位制度の最後の番人がアメリカだったこともあり、今でも金の取引基準は米ドルとなっており、米ドルが上がると金は下がる(米ドルが下がると金が上がる)というシーソーの関係が基本です。
この米ドルとのシーソー関係があるため、日本円から見た金の値動きは、円と米ドルの為替相場にほぼ連動するのです。
つまり、円から米ドルに交換し、その米ドルで金を購入するので、金が(米ドル建で)値上がりしても、円高と相殺して円建では金は値上がりしない相場が普通なのです。
しかも、金は銀行預金のように利息が付かないため、日本円で投資しても金では勝てないことが通常です。
東京市場における金の過去の値動き(1グラム当たり/円)
東京市場で金が取り引きされた1982年からの過去の値動きを、まとめてみました。
1982年当初
約3,000円でスタート、翌83年には4,000円を超えるが85年のプラザ合意(急激な円高シフト)で2,000円を切る水準
1990年代 – 2006年
約15年の間、継続して2,000円以下の水準
91年の湾岸戦争、2001年のアメリカ同時多発テロ、その後の03年イラク戦争など戦乱が続いた時には「金値上がり = ドル安 = 円高」となり円から見た金価格は値上がりしなかった。
2006年 – 2011年
2008年リーマンショック後の世界的な資金余剰が始まり、為替相場に関係なく金にも資金が流入
2,000円台から3,000円台まで円建の金価格が上昇
2011年 – 現在
2011年東日本大震災に伴う過去最大の円高(ドル安)後は為替相場が100円を超える水準を維持
その後のさらなる資金余剰もあり、12年には5,000円台へ
今年2019年に入り、5,600円を超える最高値水準
リスクが多発すると円建でも値上がりする金
過去には、円ドル為替相場と連動する値動きの中で、2回だけ為替相場に連動せず、金価格が上昇した局面がありました。
1回目は、2011年東日本大震災に伴う極端な円高となった時期です。
この時はドル安が理由ではなく、円高が理由の為替相場だったため、金相場とのギャップが生まれたと思われます。
2回目は、今年3月以降の米中貿易摩擦が過熱した時期です。
経済リスクが最高潮に高まったにもかかわらず、円ドル相場はドル安(円高)にならず、その結果円から見た金価格が最高値に上昇しました。
なぜ米ドルが下落しなかったかと言うと、世界中で景気が絶好調だったのがアメリカだけで、米ドルの対抗馬である欧州ユーロは景気低迷でユーロ安だったからです。
つまり、米ドルに代わる通貨がなかったため、金価格のみ上昇したという仕組みです。

投資商品としての金をどう考えるか
金の商品としての価値を疑う余地はないと考えます。
しかし、投資資産(円建)としての金をどう考えるかは難しいところです。
ご紹介したとおり、円建で見た金の価格は円ドル為替相場と連動することが基本であり、それであれば投資としては米ドル預金で済むからです。
また、2011年からの金値上がりの原因は資金余剰なので、金本来の値動きではなく、金融政策に左右されることとなります。
よって、私的な意見としては、投資資産としての金投資はおすすめしないスタンスを取っています。
金そのものの値動きが掴みにくく、金融政策の副産物としての値動きとなるためです。
ただし、
でしょう。
金の安全資産としての位置づけは変わらない
世界3大ゴールドとはその色と希少価値から、石油(ブラックゴールド)、水(ブルーゴールド)、そして金(イエローゴールド)を指します。
中でも流動性が高く、身近なものが金ですね。
これからも安全資産としての位置付けは変わらず、実物としての魅力は抜群の輝きを放つでしょう。(執筆者:中野 徹)