いわゆる「全世代型社会保障」と政権が名付けているもののうち、医療・年金の改正案について、2019年の後半にわりと頻繁に報道されています。

しかし報道を追ってみると、一旦提示された案が修正されて再度報道される案件もあります。

このため、よく報道を追ってみないと自分の聞いていた話と違う形で制度が実現していた、なんてこともありえます。

今回は厚生年金に関する在職老齢年金(働きながらもらう年金額の減額)とパートタイマーへの適用拡大、75歳以上の医療費負担割合の3点について取り上げます。

この3点とも、低所得者に対する配慮・高所得者優遇批判から修正されているように感じます。

2019年12月19日には、政府が全世代型社会保障検討会議の中間報告をまとめましたので、その時点までの情報を整理します。

迷走する医療費負担・年金制度の改正案3点

基準を巡って二転三転した在職老齢年金

2019年6月時点での政権(官邸)の方針では、高齢者の勤労意欲を高めるため在職老齢年金制度の見直しがうたわれていました。

廃止の展望もあったことから、近いうちに制度そのものが撤廃されるのでは? という憶測も呼びました。

しかし国会や有識者の審議を受け、省レベルで実際に検討された案は廃止ではなく、またいったん出された案も幾度となく修正されました。

給与(標準報酬月額)と年金月額をあわせて、60~64歳では28万円・65歳以上では47万円(年度によってこの金額から数万円変更)を超えると、老齢厚生年金の一部が支給停止となり将来取り戻すこともできません。

支給停止基準案が62万円→51万円→47万円と変遷

いきなり在職老齢年金制度の撤廃まではやりすぎなので、上記の基準額を当初62万円まで引き上げる案が浮上しました。

しかし高所得者優遇・将来世代の給付に悪影響との批判から51万円に引き下げられ、さらに47万円という案に変更されました。

47万円だと現状維持に見えますが、60~64歳も65歳以上と同じ基準にそろえられるので、60~64歳は緩和になります

在職老齢年金制度を緩和すると、60~64歳では就労促進効果があるという検証結果も後押ししました。

ただし、失業給付を受け取らず就業した60~64歳高齢者が受け取れる雇用保険の給付金(高年齢雇用継続給付)は、廃止も視野に縮小の方向で動いています

在職老齢年金制度は今後も緩和されるか?

在職老齢年金制度の基準引き上げが今後も進むかと言えば、今回の修正経緯から行くとこのままでは厳しいと考えられます。ましてや、撤廃は程遠い状況です。

なお在職老齢年金制度は、給与以外の所得が年金の支給停止に結び付かない問題点が指摘されております。

緩和が進むとすれば、高所得者に対する税制の強化とセットになると考えられますし、税制強化のほうが、公平性が高くなるのは確かです。

給与所得者・年金所得者に対する控除(必要経費に相当するもの)は今後も縮小が予定されており、控除縮小とワンセットでの緩和ならあり得る話です。

給与所得・年金所得両方ある場合は原則10万円の所得金額調整控除が受けられますが、この扱いが今後変わる可能性もあります。

「106万円の壁」を動かさず厚生年金の適用拡大へ

106万円の壁

厚生年金のパート適用拡大に関しては、2016年10月からできた「106万円の壁」(月収8.8万円)が定着してきました。

この収入のほか所定の要件を満たすと社会保険に加入することになり、手取りが年10万円以上ダウンしてしまいます

一時期はこの壁を引き下げることが検討され、話題になりました。

「82万円の壁」(月収6.8万円)は報道され検討課題になりましたし、2019年に公表された公的年金の財政検証では「70万円の壁」(月収5.8万円)となる制度を導入したケースもシミュレーションされました。

しかし最低賃金の上昇により自然と年収106万円を超えるパートが増えると見込まれることから、壁の引下げは見送られ、「501人以上の事業所」という勤務先の企業規模に焦点があたりました。

勤務先規模を段階的に引下げ

現行の「501人以上」という事業所の要件は、2022年から「101人以上」、2024年から「51人以上」と引き下げられる予定です。

事業所規模の引下げは、事業所側からの抵抗があります。社会保険料の会社負担分は従業員給与の15%にもおよび、企業側にとっては重い負担になります。

特に人手不足に悩まされる小売・飲食業界で顕著と言えます。

雇用期間2ヵ月超を適用要件へ

ここで述べる話はあまり話題になっていないのですが、全世代型社会保障検討会議の中間報告にも記載されているので、触れておきます。

パート労働者の加入要件にある1年以上の要件は、正社員の加入要件と同様2か月超と短縮する方向です。

こうなると、年収106万円というより月収8.8万円という数字を強く意識したほうがいいかもしれません

また個人の弁護士事務所・会計事務所など士業事務所は、社会保険加入義務がなかったのですが、常時5人以上を雇う事業所に加入義務を課す方向です。

75歳以上の医療費2割へ:2割の対象者を限定的に

高齢化社会により現役世代からの保険料による支援にも限界があるため、75歳以上高齢者の医療費負担割合を原則1割から2割に引き上げることが検討されています。

ある時期(考えられる時期として、例えば2022年4月1日)から75歳以上を一斉に2割にするか、75歳に到達した高齢者を順次2割にするかのいずれかが検討されていました。ただ与党内でも公明党に根強い反対論があり、

2割を原則とするものの低所得者を1割のまま据え置く例外を設定する
→1割を原則として所得の高い人を2割とする

と、徐々に2割の対象者を縮小する方向で改正案は変わってきました。2022年度より2割を導入する方向で動いています。

現行でも住民税課税所得145万円以上で、申告した年間世帯収入520万円(単身世帯は383万円)以上ですと、3割負担になります。

住民税課税所得・世帯年収基準を変更、もしくは新たな所得基準を設けて2割の対象者とすることが考えられます

なお介護サービス費に上限を設ける「高額介護サービス費」に関しても、住民税課税所得380万円以上690万円未満の方を対象に上限額を4万4,400円から9万3,000円に、690万円以上を対象に14万100円に引き上げることが予定されています(詳細は関連記事)。(執筆者:石谷 彰彦)