コロナウイルスの感染拡大に対する、政府の緊急経済対策の正式名称は
というものです。
参照:内閣府ホームページ(pdf)
記事作成のために内閣府ホームページを見ましたが、概要をまとめたはずの文章は正直なにをいっているのかわからない、むずかしいものでした。
目次
新型コロナウイルス感染症の緊急経済対策とは

事業をしている会社や個人事業主に対する対策もあります。
主な対策は以下の通りです。
1. 新型コロナウイルス感染症に関連する特別貸付の新設(公的融資)
2. 上記及び対象貸付の実質無利子・無担保化(公的融資)
3. 信用保証協会貸付の保証料減免及び実質無利子・無担保化(民間融資)
*2020年4月16日現在
参照:財務省、経済産業省作成パンフレット「新型コロナウイルス感染症の 影響を受けている事業者の皆様へ(pdf)」
緊急経済対策の概要
(1) と(2) は日本政策金融公庫など政府系金融機関による政策金融と呼ばれるもので、要は公的融資です。
もともと低利な公的融資ですが、新設された新型コロナウイルス関連特別融資はさらに低利、返済条件も緩やかで、無担保に加え「実質無利子」なのが最大の特徴です。
実質無利子とは、
融資の制度や事業者の規模により差はありますが、原則として「3,000万円を3年間無利息で借入できる」ものです。
(3) の民間融資は、銀行など民間金融機関で取り扱う、信用保証協会保証付きの新型コロナウイルス関連融資のことで、こちらも保証料の無料化(通常なら信用保証協会を利用するときには保証料が必要です)と、公的融資と同様に実質無利子化が実現されます。
実質無利子について(公的融資、民間融資共通)
文字にすると「へえ、そうなんだ」と流されそうですが、
のは、すごいことだと感じます。
正確な記録を調べたわけではありませんが、私の記憶する限りここまで大規模な無利子制度はなかったと思います。
例えば公的融資である日本政策公庫の「新型コロナウイルス感染症特別貸付(国民生活事業)」では3,000万円までの借入に対して、当初3年間の貸付利息は、基準金利-0.9%です。
基準金利は人により違いますが、最高でも1.65%で、ここから-0.9%ということは、最高でも3年間の利息は0.75%(1.65%-0.9%)であり、これだけでも低金利ですが、経済対策ではもともと低い3年間の利息がゼロになります。
もしこれが、政府の命令で「銀行は利息ゼロで貸しなさい」と言われていたら大変だったなあと思い、そこでふと、私は金融円滑化法の時代を思い出しました。
金融円滑化法
金融円滑化法の正式名称は「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律」、2009年(平成21年)民主党政権時に成立した法律です。
前年の平成20年に起きたいわゆる「リーマンショック」後に、中小企業の資金繰り対策として制定され、当初は2年間の時限立法でしたが、期限を迎えても中小企業の資金繰りが厳しいことから、その後2度にわたり延長され、2013年3月末に終了しました。
「円滑化法」「金融モラトリアム法」などとも呼ばれ、返済が苦しいと事業者から申し出があれば、最大限の対応では元金返済をゼロにする、しかも金利は据え置くというものでした。
また、同時期には企業だけでなくそこで働くサラリーマンの収入も激減したため、住宅ローン返済が困難な申し出があれば、やはり元金据え置きなどの対応をしてきました。
今と昔の類似点
金融円滑化法制定を主導したのは、当時の民主党鳩山連立内閣で内閣府特命担当大臣(金融担当)だった亀井静香氏です。
発言記録を見つけられず私の記憶なのですが、亀井大臣が「金融機関は困っているひとのために、借入の利息をゼロにしろ」と発言し、金融業界だけでなく経済界などからも「利息をゼロにしたら銀行がつぶれる、つぶされると知った銀行は円滑化法を実施できない」と猛反発を受けたはずです。
今回の緊急経済対策では、資金繰り支援策と同時に事業資金のリスケや住宅ローンリスケを、柔軟に対応するよう金融庁から要請(つまりモラトリアムせよという命令)があり、やはり金融円滑化のときと同じです。
金融円滑化法の「そのあと」
政府が金融機関に対して返済猶予(いわゆるリスケ、モラトリアムとも)せよ!と指示している点が同じなので、「そのあとも、あの頃と同じになるのでは?」と心配になります。
金融円滑化法では、まず政府から「とにかく貸せ!」とせっつかれて、普段なら貸さない(貸すことができない)相手にも銀行はどんどん融資しました。
返済が苦しくなった人は、利息払いだけになり、貸してもらったお金をあっという間に使ってしまい、返済できなくなった人が続出しました。
業況が苦しくて借金も多かったのに、ある日突然銀行が貸してくれたので、結局はもともとあった借金の返済に消えてしまったからです。
新しく融資を受けても、古い借金の返済に回していたら、売上増加にはつながらず、一時的な延命にしかなりません。
これは、金融円滑化法の弊害と言われ、こうした一時的な延命をした企業を俗に「ゾンビ企業」などと呼ぶこともありました。
住宅ローンの場合も同様です。
住宅ローンのリスケは、給料が減り返済が苦しくなったので、毎月返済はほぼ利息だけにしてもらったというものです。
その結果、住宅ローンの残高はほとんど減らなくなりました。
もちろんこうしたリスケをしのいで、給料がもとに戻り返済を再開できた人もいましたが、リスケが原因で借金が減らず、
・ 家を手放しても借金だけ残り返済を続ける人
・ 借金が大きすぎて家を売ることすらできず、代位弁済(ローンの保証会社が借金を立替えその代償に家は担保に取上げられる)などで家を失う人
も続出しました。
事業資金融資なら「あのとき借りなければ良かったのに」、そして事業資金や住宅ローンのリスケなら「リスケを頼まず、ムリしてでも返済を続ければ良かったのに」と後悔しても、もう時間は巻き戻せません。
コロナウイルスの緊急経済対策はダメなのか

コロナウイルスの緊急経済対策はダメなのでしょうか?
困っている人は、いろいろな施策に申込んではいけないのでしょうか?
もちろんそんなことはありません。
賛否両論ありますが、みんなが困っているときに何とかしようとする緊急対策なので、その意味では賛成です。
コロナウイルスの影響で大きな打撃を受け、売上も減少して支払や借金返済に困っているなら、特別融資の利用を検討し、返済についてはリスケ相談するべきです。
また、勤労者の人で住宅ローンなどの返済が大変な人も、やはりリスケの相談をすることを否定しません。
こうした、借金に関する政府の緊急経済対策はおおむね間違っていないと思います。
しかし、「このままではあのとき(円滑化法)と同じになってしまうのでは?」という気持ちもあるので
と言いたく、具体的にどうしたらよいかと考えました。
対策1:「事業資金特別融資」を全額使わない
5,000万円を10年で借りると、毎月返済は元利合計で45万円程度にもなります(金利0.75%として概算)。
毎月45万円は、それだけでも大きい返済ですが、借りたお金を全部使い切ってしまうと、いざという時の手元資金もなくなることになります。
もちろん事業資金は必要に応じ使うべきで、必要だから借りたわけですが、理想は
です。
緊急対策がなければ、借りられなかったお金なので、「借入できなかったつもり」で、手元に残しておけば借金返済にもまわせます。
対策2:ローンのリスケでも、少しは残す
ローンのリスケをした場合も、事業資金と似ています。
毎月5万円の返済がほぼ利息だけの1万円になったとしたら、差引の4万円全額はムリでも1万円、5,000円、あるいは1,000円でもいいので残しておいてください。
毎月にすればわずかでも、その積み重ねはあとできっと役に立ちます。
住宅ローンのリスケでは、多くの銀行で半年ごとに返済を見直し、その都度、手数料などの出費が必要になります。
そのときに、この積み立てたお金があれば役に立ちます。
住宅ローンをリスケしている銀行で積立預金などを作ろうとすると、銀行がリスケの代償に強要したと取られるケースもありますので、必ず相談してください。
収入が持ち直して返済をもとに戻したときに備えて家計をなるべく切り詰め、以前の返済額のペースに戻すリハビリが必要です。
金融円滑化法のときには、リスケした返済になれてしまい、戻った収入を「プラス」と感じで使い切ってしまい破綻する例もあります。
返すことを忘れなてはいけない
金融機関は、特別処置が経過してから5年ほどすると、この時処理した貸付の見直し期限となり、返済が厳しくなる傾向があります。
この時に破綻しては生き延びた意味がありません。
ローンでも事業資金でも、リスケをすればいつかは
ことを忘れないでください。
リスケしたあとで持ち直す見込みがないなら、家を売ってやり直すことも1つの決断です。
1度リスケすると、売却もやりにくくなります。
緊急経済策は「麻薬に似てる」
対策を使っている時は幸せですが、切れると地獄がやってきます。
それでも頑張ってやめられた人は立ち直れますが、抜けられない人には破綻が待っています。
みんなが大変な状況を打破するために打ち出した国の施策ですが、その先までしっかりと考えてから申請をしてください。(執筆者:加藤 隆二)