新型コロナウィルスの影響より、企業は事業活動を縮小せざるを得ない状況が続いております。

政府はそのような企業が、従業員を解雇せず、雇用の維持を図る場合に雇用調整助成金を支給することとしています。

今回の新型コロナウィルスによる場合は、特例措置として中小・零細企業の事業継続を迅速に支援するため、助成率の引き上げ、申請書類の簡素化などの措置を取っています。

しかし、未だに申請のハードルは高く、申請する企業数が伸びていない状況です。

雇用調整助成金の申請に悩む

本記事では、中小・零細企業の事業主の方が、外部に委託せず、雇用調整助成金の申請ができるように、わかりやすく解説していきます。

雇用調整助成金とは

雇用調整助成金の概念を見ていきましょう。

景気の変動、産業構造の変化その他の経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、一時的な雇用調整(休業、教育訓練または出向)を実施することによって、従業員の雇用を維持した場合に助成されます。厚生労働省

つまり景気の急激な悪化によって、店舗などを閉鎖することになり、その閉鎖した店舗の従業員を解雇するのではなく休業させ、その間支払った休業手当の一部を助成するという制度になります。

中小企業の定義

中小企業とは、以下の要件に該当する企業をいいます。

・ 小売業(飲食店を含む): 資本金5,000 万円以下 または従業員 50 人以下

・ サービス業: 資本金5,000 万円以下 または従業員 100 人以下

・ 卸売業: 資本金1億円以下 または従業員 100 人以下

・ その他の業種: 資本金3億円以下 または従業員 300 人以下

中小事業主が押さえておくべきポイント

雇調金を受給するための休業とは、次の4点の要件を満たしていないといけません。

1. 売上げが下がり、従業員を休業させる必要があること

本来の雇調金では、売上が直近3か月間の月平均が前年同月比と比べて、10%以上減少していることが条件となります。

売上げも下がっていないのに、人経費削減を目的とした休業は対象となりません。

2. 従業員を計画的に休業させること

休業に入る前に、しっかりとした計画を立てることが必要です。特定の従業員に休みが集中してしまうと、不公平感が生まれ職場の雰囲気も悪くなります。

また1月の休業日数の合計が少なすぎると助成金が支給されないこともあるので、注意が必要です。

休業時の賃金、期間又は対象者などを「休業協定書」にまとめ、従業員の代表者に合意を得るようにしましょう。

書式は任意なので、ネットのひな型などで問題ありません。

3. 休業させた従業員に法定以上の休業手当を支払うこと

休業中の賃金はいくらでもいいというわけではありません。労働基準法で平均賃金の60%以上と定められています。

なので「休業協定書」にこれを下回る賃金を記載してはいけません。

4. 休業日数が一定以上であること

休業延日数が、対象労働者の所定労働延日数の1/20以上である必要があります。

次の例題のように求められます。

【例】正社員30人 所定労働日数20日

30人 × 20日 × 1/20=30日

対象労働者全員の休業日数の合計が30日以上必要

雇調金(原則と緊急対応期間)

原則と緊急対応期間中(2020年4月1日~2020年6月30日)の中小事業主の主な制度内容を比較しましょう。

【原則と緊急対応期間中の比較表】

原則と緊急対応期間中の比較表

支給申請に係る重要なところを見ていきましょう。

また5/1以降に特例をさらに拡充していますので、そちらも解説します。

賃金相当額の助成率

中小企業の場合、賃金相当額の助成率は原則の2/3から4/5に引き上げられ、解雇等を行わない場合は、9/10に拡充されます。

さらに4/1~6/30の緊急対応期間中に限り、次の2パターンで助成率を引き上げました。

次の要件をすべて満たせば、休業手当全体の助成率を10/10とする(上限額は8,330円)

(1) 解雇等をしていないこと

(2) 都道府県からの要請で、休業又は営業短縮を求められた対象施設を運営する事業主で、これに協力して休業等を行っていること

(3) 労働者が休業した日に100%の休業手当を支払っているもしくは上限額8,330円の休業手当を支払っていること(平均賃金の60%以上でないといけません)

解雇等を行わない場合は、休業手当の支払率60%超の部分の助成率を10/10とする(上限額は8,330円)

例えば休業手当を100%支払った場合

(60% × 9/10)+(40% × 10/10)=計94%助成される

対象者

原則は、雇用保険被保険者しか対象となりませんが、今回は特例措置として、パートや学生アルバイトなどの雇用保険未加入者を休業させた場合でも対象とすることとしました。

そのため次の雇用保険の加入要件を満たしていなくても対象となり得ます。

・ 31日以上引き続き雇用されることが見込まれる者であること

・ 1週間の所定労働時間が20時間以上であること

生産指標要件

原則、売上や生産高等が申請した月の前月と前年同月を比較して、10%以上減少している必要がありましたが、新型コロナウィルス感染症が原因の場合は、緊急対応期間中に限り、5%以上の減少に緩和されました。

また確認期間も3か月から1か月に短縮されています。

事業所要件

事業所設置後1年以上という要件もなくなり、開業したばかりの事業主も対象となっています。

その際の生産指標要件は、申請した月の前月と令和元年12月を比較することになります。

令和元年12月の売上がない場合でも、比較できる月があれば支給対象となる可能性があるで、ハローワーク相談しましょう。

休業規模要件

休業規模要件も、原則の1/20以上から1/40以上に緩和されました。

「4.休業日数が一定以上であること」で解説した例題で置き換えてみましょう。

【例】正社員30人 所定労働日数20日

30 × 20 × 1/40=15日

対象労働者全員の休業日数の合計が15日以上必要

計画の事後提出可能

原則では、休業等計画書を事前にハローワークに提出してから休業を行う必要がありますが、緊急対応期間中は6/30までに計画書を提出すればいいことになりました。

その後さらに計画書の提出が不要となり、支給申請のみの手続きに簡素化されました。

受給までのフローチャート

受給までのフローチャート

休業手当と助成金

休業手当は労働基準法で、「平均賃金の60%以上」支払わないといけないと、規定されています。

平均賃金=基本給ではありません

では正しい休業手当の算出方法について見ていきましょう。

平均賃金の計算方法

平均賃金 = 休業の初日以前3か月間の賃金総額 × 期間の歴日数

休業初日の前日の直近の賃金締め日から遡って、3か月間の賃金総額を総日数(暦日数)で除することによって算出します。

また賃金総額には通勤手当・皆勤手当などの各種手当や残業代なども含まれることになります。

ただその期間内に、賞与などの3か月を超える期間ごとに支払われる賃金や臨時に支払われる賃金は、控除できます

休業手当の計算例

例題に沿って休業手当の計算方法を解説したいと思います。

まず平均賃金を算出しましょう。

対象者:正社員で月給のAさん(完全週休二日制)

休業日:15日間(土日・祝日などの所定休日は休業の対象となりません)

休業初日:緊急事態宣言を受けて、4/8から休業した

賃金締め日:毎月末日

3月分(3/1~3/31):基本給20万 通勤手当2万 残業代3万=計25万

2月分(2/1~2/29):基本給20万 通勤手当2万 残業代1万=計23万

1月分(1/1~1/31):基本給20万 通勤手当2万 残業代2万=計24万

平均賃金=(25万+23万+24万)×(31日+29日+31日)=7,912.08円

【Aさん4月の休業手当の最低補償】

7,912.08円(平均賃金)× 60%(支払率)× 15日(休業日)=7万1,209円(円未満四捨五入)

またこの最低補償の金額を超えていれば「支払い率を100%にする」、「基本給の80%を支払う」などの措置を取ることは問題ありません。

なお5月以降も継続して休業する場合でも、こちらの平均賃金を使用することになります。

4月分の賃金を含めて、平均賃金を再計算する訳ではないことにご注意ください。

助成金の計算方法

雇調金の助成金額は、原則として対象期間内の実績を1か月単位で判定(判定基礎期間)し、支給されることになります。

その判定基礎期間は、毎月の賃金の締め切り日の翌日から、その次の締め切り日までの1か月です。

また中小企業の雇調金の助成金額は、単純に労働者に支払った休業手当に助成率の9/10を乗じた額ではありません。

計算方法を詳しく見ていきましょう。

助成額の計算方法

「休業を実施した場合に支払った休業手当に相当する額」は、次の方法で計算します。

(1) 前年度1年間における雇用保険料の算定基礎となる賃金総額を、(2) 前年度1年間における1か月平均の雇用保険被保険者数及び(3) 年間所定労働日数で割った額に、(4) 休業手当の支払い率をかけた額

この計算は、直近の労働保険料確定保険料申告書を用いて行います。

(1) 前年度1年間における雇用保険料の算定基礎となる賃金総額

保険料・一般拠出金算定基礎額」欄の「雇用保険法適用者分」の額

(2) 前年度1年間における1か月平均の雇用保険被保険者数

各月末時点の雇用保険被保険者数を合計し、12で除して平均を算出

(3) 年間所定労働日数で割った額

年間所定労働日数 = 1年間の暦日数(365日)- 就業規則で定めた年間休日数

(4) 休業手当の支払い率

休業協定書で定めた支払い率

以上の数字を次の(A) ~(D) の計算式に当てはめていきます。

(A) 平均賃金 =(1) ÷((2) × (3))

(B) 基準賃金額 = (A) × (4)

(C) 1人日当たり助成額単価(上限8,330円)= (B) × 助成率(解雇してない場合は9/10か10/10)

(D) 判定基礎期間の助成額の合計 = (C) × 月間休業延日数

以上のように、中小企業の雇調金の助成額は、休業者一人一人に支払った休業手当に助成率を乗ずるのではなく、事業所全体の賃金総額から平均賃金を求め、その額に休業手当の支払い率を乗じた額が計算のベースとなります。

支給申請

【用意する書類一覧】

用意する書類一覧

【作成する書類一覧】

作成する書類一覧

1、2、5 は2回目以降提出する必要はありません。

ただし、1 は失効した場合、改めて提出が必要です。

このほか、審査に必要な書類の提出を求められる場合があります。

記入例やその他支給要件については、「雇用調整助成金ガイドブック(pdf)」を参照してください。

申請前のチェックリスト

申請前に必ず次の要件を満たしているか確認しましょう。

・ 新型コロナウィルスの影響により、売上が前年同月比から5%以上低下しているか

・ 中小企業に該当しているか

・ 休業の前に、労使間で書面による協定(休業協定書の締結)がなされ、その決定に沿って休業が実施されているか

・ 休業協定書で定めた額の休業手当を支払っており、その額が平均賃金の6割以上であるか

・ 一定以上の休業を行っているか(中小企業は、様式特第7号(6) が2.5以上必要)

・ 出勤簿またはタイムカードには、休業した日がわかるように明記されているか

・ 賃金台帳または給与明細には「休業手当」、「休業控除」の項目があるか

以上の要件を満たしていない場合は、雇調金が支給されない場合があります。

申請する際は、労働局に直接提出するのではなく、ハローワーク経由で提出することをオススメします。

申請手段

必要書類の用意および作成が完了し、申請前のチェックリストを見直したら、いよいよ申請しましょう。

申請方法は次の3つになります。

1. 窓口へ直接提出する

事業所の所在地を管轄する労働局またはハローワークの窓口に持っていく

2. 労働局またはハローワークに郵送する

トラブルにならないよう簡易書留など配達記録が残る方法で送る

3. オンラインで申請する

5/20の初回登録時のトラブルにより運用停止中

申請期限

支給対象期間の末日の翌日から2か月以内に、申請しなければなりません。

・ 特例により支給対象期間の初日が1/24~5/31にある場合は、8/31までが提出期限となります。

・ 休業手当の額が確定した書類がそろっていれば、賃金の支払い前であっても申請可能です。

労使一体で不況を乗り切る

労使一体で乗り越える

以上のことから

・ 原則の雇用調整助成金より対象者や助成額が拡充

・ 申請書類の簡素化などにより制度を活用できる幅が広がった

ということが、わかります。

また、緊急対応期間が9月末までに延長されることや助成額単価の上限が1万5,000円に引き上げられることも決定しています。

今後、新型コロナウィルスによる不況を乗り越えるためにも、労使が一体になることが必要不可欠です。(執筆者:社会保険労務士 須藤 直也)