東日本大震災以降、首都圏から地方に移住したいと考える人は継続して増え続けています。

2018年度には各自治体の移住相談窓口などでの相談件数は約29万8,000件となり、前年度より約3万8,000件増加しました。

首都圏から地方への移住を検討する人が気になるのは、地方と首都圏との生活コストの差ではないでしょうか。

この記事では、具体的な生活コストの比較として、交通の利便性、住宅コスト、子育て環境について解説します。

参照:認定NPO法人ふるさと回帰支援センター「ニュースリリース(pdf)

地方と首都圏の交通の便は大きく異なる

都内は交通の便がよい

地方では、政令市であっても「車がないと生活できない」都市がほとんどです。

東京23区内のように、バスや地下鉄、JRに私鉄が複数という利便性の高い交通網は望めません。

政令市であっても地域によってはバス路線が廃線になったところもあります。

JRの運行本数にも大きく差があります。

認定NPO法人ふるさと回帰支援センターの移住希望地ランキングで3年連続1位となっている長野県と、東京都の時刻表を比較してみましょう。

【図1 長野駅】

長野駅の時刻表

≪画像元:JR東日本 長野駅時刻表≫

【図2 東京駅(東海道本線)】

東海道本線の東京駅の時刻表

≪画像元:JR東日本 東京駅時刻表≫

JR長野駅の信越本線・篠ノ井線(上り)の時刻表では、通勤時間帯の8時台で4本の運行があります。

およそ10分~20分に1本の間隔です。

対してJR東京駅の東海道本線(下り)では8時台は17本の運行で、およそ3~5分に1本の間隔です。

JR長野駅のような電車の運行本数は地方では珍しくなく、これより少ない運行本数の路線の方がずっと多いのです。

駅から発着するバスの本数や路線も首都圏に比べて十分とはいえません。

このような状況下では電車の時刻に合わせてスケジュールを組むより、電車移動せず自分の車で移動したほうが効率的です。

移動手段の比較

首都圏では公共交通の運賃・定期券代だけで済んでいた交通費ですが、地方では自家用車を購入・保有するコストがかかります

【首都圏の交通費負担】

通勤者の定期代平均額は、月額1万5,170円です。

【地方の交通費負担】

車両購入費(最多19%):150万円以上200万円未満

年間維持費(地方圏で最多27%):20~30万円

交通の利便性の面では、地方の方が不便・費用も割高になると言えます。

参照:
通勤総研「プレスリリース(2017年11月20日)
パーク24株式会社「プレスリリース(2016年3月9日)
一般社団法人 日本自動車工業会「2019年度 乗用車市場動向調査(pdf)

地方と首都圏の住宅費用の相場

地方では首都圏に比べて家賃相場や住宅相場が低いことはよく知られていますが、具体的にはどのくらいの差があるのでしょうか。

地方の中でも利便性の高いエリアでは、それなりに相場が高くなっています。

しかし、いわゆる「田舎」と呼ばれる中山間地域では、庭つきの新築一戸建ても割安で手に入れられます

認定NPO法人ふるさと回帰支援センターの2019年移住希望地ランキング2位の広島県と、東京都心部で比較してみましょう。

【2LDKの賃貸マンション相場】

・ 東京都中央区:18.6万円

・ 広島市中区:8.9万円

【約45坪の土地+新築一戸建て相場】

・ 東京都心部:1億4,240万円

・ 広島県広島市:3,402万円

・ 広島県安芸高田市:2,365万円

参照:不動産・住宅サイトSUUMO(2020年6月17日調べ)

住まいに関しては、首都圏より地方の方が各段に安くなっています。

また、路線価から計算される固定資産税も田舎になるほど安くなります。

地方で持ち家志向が高いのは、住宅ローンの毎月返済額と賃貸住宅の家賃がほとんど変わらないことも理由の1つといえます。

地方と首都圏の子育て環境の違い

地方では車が必須になる

子育て世帯がもっとも気になるのが、地方の子育て環境ではないでしょうか。

地方は自然環境も豊かで、子供が遊べる公園も広々として余裕があります。

満員電車もなく、子連れで出かけても肩身の狭い思いをするのは少ないことでしょう。

子育てにはとても良い環境に思えますが、教育事情はどうでしょうか。

首都圏よりも格段に良いといえるのは、保育園の入園のしやすさです。

地方では子供の人数そのものが少ないため、東京都心部のように「第8希望まで申し込んでも全滅だった」というような事態はほぼありません。

しかし、移り住んできた子育て世帯の急激な増加に保育園の数が追い付かず、数十人規模で待機児童が発生している地域も一部にはあります

子連れで移住を考えている場合には、事前に調べておきましょう。

教育費の違い

公立高校の授業料は、首都圏と地方とで差はありません。

どちらも月額9,900円で、国の高等学校等就学支援金制度があるため、世帯年収が約910万円未満の世帯は実質的には無料です。

私立高校に進学を希望する場合はどうでしょうか。

【私立高校の授業料】

・ 東京都内の私立高校授業料平均額:46万1,000円

・ 全国の私立高校授業料平均額:39万6,000円

私立高校の授業料は、国の高等学校等就学支援金制度により、世帯年収が約590万円未満の世帯には全国平均額と同等の年間39万6,000円が支給されています。

さらに、東京都では国の就学支援金にプラスして東京都独自の「私⽴⾼等学校等特別奨学⾦」があり、世帯年収約910万円未満であれば都内平均額の46万1,000円までの支給が受けられます。

そのため、世帯年収が約590万円~約910万円の世帯に限ると、東京都内で私立高校に通う方が、地方より授業料の負担が軽くなると言えます。

注意したいのが、地方では小学校・中学校の「お受験」はとても珍しく、私立の小中学校の数も少ないという点です。

高等学校も交通の利便性によっては選択肢が限られてしまいます。

そのため、学力を伸ばしたい・特技を伸ばしたい子供や、周囲となじめずフリースクールを必要とするような子供にとっては、地方の学校の選択肢の少なさに不自由な思いをすることがあるかもしれません。

さらに地方在住の場合、子供が進学を希望する大学・専門学校が自宅の通学範囲内にない場合も少なくありません。

進学でひとり暮らしを始める子供も多く、仕送りの負担が増えるため親は金銭的な準備が必要になることでしょう。

参照:

文部科学省「私立高校実質無償化リーフレット(pdf)

ベネッセ 高校入試情報サイト

公益財団法人東京都私学財団

生活環境に何を求めるか

地方と首都圏の生活コストを比較してみましたが、どちらも一長一短があります。

首都圏は住宅費用が高額なものの、交通の利便性が高く車の維持費がかかりません。

さらに子供の進学先の選択肢が豊富です。

地方は住宅費が安く自然にも恵まれていますが、自家用車のコストがかかりますし、子供の進学先の選択肢も限られています。

移住後の生活を具体的に考えながら、自分と家族がどのような生活環境・教育環境を求めているのかを話し合ってみてください。(執筆者:久慈 桃子)