令和2年年金法改正がコロナ禍の最中、いつの間にか6月に成立しました。

かなり大きい改正を含んでおり、コロナがなければもっと大きく報道されていたことでしょう。

年金は老後資金の柱であり、死亡や傷病に備える保険の役割も果たしている私たちの生活に密着したものです。

今回の年金法改正について確認していきましょう。

1. 厚生年金・健康保険(社会保険)の加入者を拡大

今回の年金法改正で

令和6年10月に50人超の企業に適用範囲が拡大

されます。

厚生年金・健康保険(社会保険)に加入するパート労働者を増やすという改正です。

現在パート労働者で厚生年金・健康保険に入っている(1年以上勤務見込み、週30時間以上労働、給与月額8万8,000円以上、学生は除く、条件あり)のは、次の条件に該当する人です。

・ 500人超の厚生年金被保険者(常用労働者)がいる企業で働くパート労働者

・ 労使で厚生年金・健康保険加入に合意ができている企業で働くパート労働者

・ 国・地方公共団体勤務のパート労働者

今後は次のように順次、厚生年金・健康保険に加入するパート労働者が増やされる予定です。

令和4年10月

・ 常用労働者が100人超の企業で2か月以上勤務見込みのパート労働者

・ 今まで対象外だった弁護士、税理士、社労士等の法律系個人事務所で5人以上常用労働者がいるところで働くパート労働者

・ 国・自治体等で勤務する短時間労働者(厚生年金・健康保険適用)に対しては公務員共済の短期給付を適用する

令和6年10月

・ 常用労働者が50人超の企業で働くパート労働者

100人超の企業、50人超の企業のパート労働者が社会保険に入る条件として「週30時間以上労働」、「給与月額8万8000円以上」、「学生は除く」の条件は変わらず、「2か月以上勤務する見込み」という条件が加わります

厚生年金・健康保険に入る対象者が増えます
短時間労働者で厚生年金・健康保険に入る対象者が増えます。

パート労働者にとっても厚生年金・健康保険(社会保険)に入る(国民年金第2号被保険者)と給料の手取りが減ります。

特に、会社員に扶養されているパート労働者(国民年金第3号被保険者)は、扶養から出て自分で社会保険に加入すると家計では目先の手取りが減ります。

反対に配偶者が自営業の場合には、国民年金保険料(令和2年度:月額1万6,540円)より安く(厚生年金月額約8,000円)、職場で社会保険に入るメリットは大きいです。

厚生労働省年金局の調べ(P7)によると50人超の事業所は医療・介護で多く(7.6%)、パート労働者比率も高い(20.6%)です。

また、宿泊・飲食業もパート労働者が多く(43.6%)、コロナで経営悪化、パート従業員の厚生年金・健康保険加入で事業主の負担は増します。

苦しくなる病院、介護施設、飲食店などが増えないことを願っています。

2. 在職時定時改定の導入

現在は65歳で年金計算がされた後は、65歳以降厚生年金に加入していても退職後か70歳まで年金再計算がなされませんでした
 

65歳以降厚生年金に加入していても70歳まで再計算されない
65歳以降厚生年金に加入していても70歳まで再計算されませんでした。

令和4年4月以降は、

65歳以降厚生年金に加入していれば、毎年10月に年金が再計算される

ことになります。

毎年年金額が計算されます
65歳以降厚生年金に加入している場合、毎年年金額が計算されます。

3. 60歳から64歳までの在職老齢年金制度の見直し

令和4年4月より、

60歳から64歳までの在職老齢年金の支給停止基準額が28万円から47万円に変わります

現在は、年金月額と賃金(賞与込み月収)の合計が28万円までであれば年金は全額支給されます。

もし、年金月額10万円で賃金(賞与込み月収)30万円なら、年金月額は65歳になるまで4万円になってしまいます。

10万円 -{(10万円 + 30万円 – 28万円)÷ 2}= 4万円

在職老齢年金の支給停止基準額が47万円になると、

令和4年4月分の特別支給老齢厚生年金から、年金月額と賃金(賞与込み月収)の合計が47万円までなら年金は全額支給される

ことになります。

たとえば、年金月額10万円で賃金(賞与込み月収)30万円であれば年金は全額支給されます。

年金月額と給与月額が合計で47万円まで年金は全額支給
年金月額と給与月額が合計で47万円まで、年金は全額支給されます。

ちなみに、65歳以降の老齢年金は、年金月額(報酬比例部分の1/12)と賃金(賞与込み月収)の合計が47万円までなら全額支給される仕組みで、今回の年金法改正で変更はありません。

4. 老齢年金受給開始時期が60歳から75歳まで(現行70歳まで)に拡大

現在は65歳からもらう年金を60歳から繰り上げ受給(前倒しでもらうこと)でき、70歳まで繰り下げ受給(後倒してもらうこと)できますが、

令和4年4月より75歳まで繰り下げ受給できる

ようになります。

・ 令和4年4月より、60歳からの繰り上げ率は月0.4%(現行0.5%)と有利になる

・ 75歳まで(現行70歳まで)繰り下げ可能になり、増額率は月0.7%と変更なし

・ 老齢年金は70歳繰り下げで42%(月0.7%増)、75歳繰り下げは88%(月0.7%増)増になる
 

75歳まで繰り下げ年齢が拡大し
75歳まで繰り下げ年齢が拡大します。

5. 確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)の加入可能要件の見直し等

確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)の要件も見直しになりました。

・令和4年4月より、老齢年金の受給開始(繰り下げ)時期が75歳まで可能になることに併せ、企業型DC給付金の受給開始年齢も上限75歳に引き上げられます。

・令和4年5月より、企業型DCについて企業の高齢者雇用の状況に応じてDBとの整合性を図るため、厚生年金被保険者で70歳未満なら企業型DC加入者を続けられます。

・令和4年5月より、iDeCo(個人型確定拠出年金)について高齢期就労が拡大していることを踏まえ 、60歳過ぎても国民年金被保険者(任意加入被保険者)であれば加入可能となりました。

給付金の受給年齢も拡大
給付金の受給年齢も拡大します。

・ 令和2年6月より、企業の高齢者雇用の状況に応じて、確定給付企業年金(DB)の給付金支給開始時期の設定可能な年齢が70歳まで拡大されます。

・ 令和2年10月より、中小企業向け制度(簡易型DC・iDeCoプラス制度)を実施できる従業員規模が現行の100人以下から300人以下に拡大されます。

・ 令和4月10 月より、規約の定めや事業主掛金の上限の引下げがなくても、全体の拠出限度額から事業主掛金を控除した残額の範囲内でiDeCo月額2万円以内に加入できます。

6. 国民年金手帳から基礎年金番号、通知書に切替え

7. 脱退一時金制度の見直し

脱退一時金とは外国人(日本国籍を有しない)が、国民年金、または厚生年金保険の被保険者資格を喪失し、日本を出国した場合、日本に住所を有しなくなった日から2年以内に請求できる一時金です。

出入国管理法改正(平成31年4月施行)により、在留期間の期間更新上限が5年になる在留資格(特定技能1号)ができました。

脱退一時金制度が創設された当時と比べて3~5年滞在した者の割合が増加しています。

そのため、令和3年4月より、脱退一時金の支給上限年数が現行の3年から5年に引き上げられます。

脱退一時金の支給上限年数を現行の3年から5年に引き上げ
3年以上5年未満在籍の人が増えているため、令和3年4月より、5年以内なら支給されます。
外国人も脱退一時金を請求できます
3年超えて国民年金に加入していた外国人も脱退一時金を請求できます。

8. 年金生活者支援給付金制度における所得情報切り替え時期の変更(8月 → 10月)

年金生活者支援給付金とは、消費税率引き上げ分を活用し、公的年金等の収入金額やその他の所得が一定基準額以下の方に生活の支援を図ることために、年金に上乗せして支給する給付金のことです。

令和3年4月より、年金生活者支援給付金の所得情報の切替時期が10月~翌年9月に変更 (現行は8月から翌年7月)されます。

同一の所得情報を活用する20歳前障害基礎年金、特別障害給付金も同じく10月から翌年9月に変更されます。

本人からの年金生活者支援給付金の請求がなくても、施行年度と同様に市町村からの所得情報を基に要件判定を行って簡易なハガキを送付できるように所得情報の照会を「支給要件に該当する人」から「該当する可能性のある人」に広げられます。

9. 年金保険料の申請全額免除基準に未婚のひとり親等を追加

「え、今まで除外されていたの?」と感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

現在「寡婦控除」は、地方税法上の障害者や寡婦(配偶者と死別または離別)しか受けられず、未婚のひとり親は「寡婦控除」を受けられず、年金保険料の申請免除全額免除の基準にも該当していません(国民年金保険料の申請全額免除基準は個人住民税の非課税基準に準じている)。

自治体によっては、未婚のひとり親も「寡婦控除」を受けられるようになっていましたが、受けられない自治体もありました。

令和3年4月より、所得税や住民税で未婚のひとり親等が「寡婦控除」を受けられるのに対応し、年金保険料の申請免除全額免除の基準に「未婚のひとり親等も追加」されます。

10. 児童扶養手当と障害年金の併給調整の見直し

現行制度では、ひとり親の障害年金受給者は、障害年金額が児童扶養手当額を上回ると児童扶養手当を受給できないので、令和3年4月から児童扶養手当の額と障害年金の子の加算部分の額との差額を受給できるようになります。

加算部分と児童扶養手当の差額分を受給できます
ひとり親の障害年金受給者が障害年金子の加算部分と児童扶養手当の差額分を受給できます。

11. 厚生年金保険法における日本年金機構の調査権限の整備

現在は日本年金機構では厚生年金適用事業所の事業主に対してしか調査できません。

令和4年4月より、厚生年金適用でない事業所の事業主にも調査を行えるようになります。

「御社は、ホントは厚生年金に入らなければいけないのではないですか?」と日本年金機構が事業主に言いやすくなる、という意味でもあり、厚生年金に入っていない事業所に厳しくなる可能性がありますね。
 

12. 10年金担保貸付事業等の廃止

独立行政法人福祉医療機構は、令和4年4月以降、老齢、遺族、障害年金を担保または労災の年金給付を担保に新規貸し付けを行えなくなります。

会社員・起業家・退職世代に影響ある大改正

いつも間にか通っていた年金法改正ですが、会社員にも起業家にも引退を考える世代にも大きな影響のある改正です。

内容をしっかりとチェックして生活に役立てていきたいですね。(執筆者:社会保険労務士 拝野 洋子)