今年に入ってから民法の、とりわけ相続や遺言に関する大改正についていくつか記事にしました。
この民法大改正、実は他にも生活の「お金」に関わる部分で大きく変わった条文があります。
法定利率に関する第404条がそれです。

目次
大きく変わった「法定利率」
私たちが例えば住宅ローンを組んだり、いわゆる消費者金融でお金を借りたりすると、元金に加え、利息の支払いを求められます。
それらの利率は契約目的や期間などによって変わり、一定ではありません。
これは「契約自由の法則」に基づき、契約当事者同士が納得していれば利息の利率を自由に決めて良いからです。
もちろん非常識な契約にならないよう法律により一定の制限はあります。
時代に沿った変動制へ
契約で決めた利率は「約定利率」と呼ばれています。
民法第404条は、契約で利率を定めておかなかった場合に適用される「法定利率」を定めたもので、改正前は年5%でしたが、2020年4月にこれを当面3%に改正した条文が施行されました。
現在の超低金利時代を含め、利率というものは社会情勢により変化していくものなのに、民法制定以来延々と法定利率が5%のままなのはおかしいです。
今回の改正では、さらに法定利率を変動制とし、3年ごとに市場金利と連動して利率を見直すことも取り入れられ、時代に沿った柔軟な対応が可能になりました。
とは言え、私たちが普段交わす契約は上記のようにたいてい約定利率が用いられており、改正といってもピンと来ないかもしれません。
しかし、法定利率が用いられている、比較的身近なシチュエーションがあります。
交通事故の損害賠償金

交通事故の被害者が不幸にして亡くなったり、重い障害が残ってしまったりした場合、治療費や慰謝料以外に、被害者が事故に遭わなければ本来得られるべきであった生涯収入(逸失利益)を被害者(もしくは遺族)に対して賠償しなければなりません。
逸失利益の計算方法は、例えば被害者が亡くなっていれば生涯収入額から生活費分を差し引くなど結構複雑です。
実際には保険会社が間に立つので、原則として当事者同士が額を提示したり交渉したりすることはありません。
そして逸失利益などの損害賠償額が決定すると、被害者(遺族)に対し支払いがなされますが、保険会社は一括支払いの形をとるのが一般的となっています。
ところが一括受け取りだと、分割受け取りに比べ、受取総額がかなり減ります。
被害者が仮に毎年300万円の収入をあと20年得られたとしても、もし今まとめて6,000万円を受け取れば、20年の間に利息が付きますから、簡単に言えばその利息分を差し引き(中間利息控除)支払われるからというのがその理由です。
意外と重要な「法定利率」
ここで用いられるのが法定利率という訳です。
計算式は省きますが、上記の例で年利5%だと受取額は約3,740万円です。
これが年利3%だと約4,460万円となり、700万円以上増えることになります。
以上のように、法定利率の改正は一見自分の生活に関わりのなさそうにも見えますが、万一の場合の被害者救済が篤くなり重要です。(執筆者:行政書士 橋本 玲子)