定年後再雇用で減額した収入と年金を受給しながら働く方、いったん働くことを辞めて求職活動をしながらもらえる年金は受給したいという場合、複雑な社会保険制度ゆえにいろいろな選択肢があります。
今回は「年金も雇用保険からの給付も両方受給できる場合の調整」にフォーカスを当て解説していきます。

目次
年金と雇用保険の調整
60~64歳の間での年金と雇用保険の調整について解説します。
(1) 高年齢雇用継続給付との調整
【高年齢雇用継続給付に関する法改正】
高年齢雇用継続給付とは労働者が60歳に達した時と比較して給与が一定額以上引き下がった場合に労働者に支給される給付です。
これは、以下のような目的があります。
・ 65歳までの企業の継続雇用を援助
しかし、働き方改革や社会経済情勢の変化により原則65歳までの雇用義務化が浸透し始めました。
そして、70歳までの就業機会の確保の努力義務化も施行されることを考慮し、この給付の役割が希薄となってきました。
そこで2025年4月1日より現行の給付率上限15%から10%に引き下がることとなります。
法改正までは少し時間がありますが、現在は年金と同給付を受ける場合は調整されます。
どの程度調整されるのかを確認していきましょう。
まず高年齢雇用継続給付は60歳以降の賃金が60歳時点の賃金の何%になったかによって変わってきます。
60歳到達時の賃金と60歳以降の減額後の賃金を比較し、61%以下であれば、60歳以降の各月について減額後の賃金の15%分が支給されることになります。
また、60歳以降の減額後の賃金が61%を超えて75%未満である場合、賃金の15%は支給されず 15%から低減された%となります。
なお、60歳以降の賃金と給付金の合計が36万5,114円(令和2年度)を超える場合、高年齢雇用継続給付は全く支給されません。
参照:厚生労働省(pdf)
支給停止される場合
厚生年金の被保険者で、60~64歳の間で老齢厚生年金を受けている方が雇用保険の高年齢雇用継続給付(高年齢雇用継続基本給付金・高年齢再就職給付金)を受けられるときは、在職老齢年金による年金の支給停止に加えて年金の一部が支給停止されます。
なお、支給停止される年金額は、最高で準報酬月額の6%に当たる額です。
結論としては在職老齢年金でのカットと高年齢雇用継続給付によるカットが入り、2重でカットされるということです。

(2) 失業手当との調整
【失業手当に関する法改正】
2020年8月から失業手当に関する法改正も行われました。
これは、勤務日数の少ない雇用保険被保険者であっても失業時に失業手当を受けられるようにするための改正です。
具体的には、失業手当を受給するためには離職前2年間に12か月以上の被保険者期間が必要です。
被保険者期間とは離職日から1か月ごとに区切っていき、賃金支払い基礎となった日数が11日以上ある月を1か月として計算します。
改正後は離職日から1か月ごとに区切った期間に賃金支払いの基礎となった日数が11日以上ある月、または、賃金支払い基礎となった労働時間数が80時間以上ある月を1か月として計算されます。
結論としては、より多くの方が失業手当を受けられる方向への改正となります。
参照:厚生労働省(pdf)
64歳までの失業手当と65歳以降の失業手当
失業手当は65歳を区切りに支給される名称と支給方法が変わります。
64歳までは正式には基本手当(いわゆる失業手当)と呼ばれ、28日ごとに失業の状態を確認し、自己都合退職であれば、原則として所定給付日数の90日分~150日分を受給できます。
しかし、65歳以降は高年齢求職者給付金という給付に変わり、この給付の特徴は一時金での支給となり、かつ所定給付日数は最大で50日分となってしまします。
考え方としては65歳以上であまり高額な給付を整備してしまうと、再就職をするよりも雇用保険からの給付を受給していた方がむしろ生活が安定するという「逆転現象」が起きかねないということです。
そもそも専門職を除いてあまり高い報酬が望めない世代と言えることからそのような仕組みが導入されているのではないかと考えます。
これを回避するために、64歳11か月(厳密には65歳の誕生日の前々日までに退職する)で退職するという「64歳11か月問題」という構造上の盲点を逆手に取った手段が講じられてしまい、長期雇用の目的を阻害する要因ともなっていました。

失業手当と年金との調整
失業手当と年金との調整はどのようにしたらよいのでしょうか。
対象となる年金は
失業手当が受けられる間(求職の申し込みをしたとき)年金は支給停止されます。
ここで言う年金とは60~64歳の間で厚生年金から支給される老齢厚生年金のことを指しています。
よって、老齢基礎年金を繰り上げ請求した分は対象となっていません。
他には障害厚生年金、遺族厚生年金、65歳以後に支給される老齢厚生年金は調整の対象ではありません。
具体的にいつから
ハローワークに求職の申し込みをした月の翌月から失業手当の受給期間が経過した時または失業手当を受け終わった月までです。

支給停止されない期間は
65歳に到達した日の属する月の翌月以降は調整されません。
他には失業手当を受けたとみなされる日(失業の認定を受けた日など)、失業手当の待期期間や給付制限期間(職業紹介拒否、訓練受講拒否、離職理由による給付制限)が1日もない月です。
具体的な調整方法は
支給停止解除月数=年金停止月数-失業手当の支給対象となった日数/30
※1未満の端数は1に切り上げる
【例】90日の失業手当を受けられる方が4か月間年金支給停止された場合、直近の1か月について年金の支給停止が解除されます。(事後的に精算するという方法が取られます)
計算式
4か月-90/30=1(1か月)
よって、直近の1か月が年金の支給停止解除ということです。
調整は65歳に達するまで

このように年金と雇用保険の間でも調整される規定があります。
しかし、これらの調整は、端的には65歳に達するまでの間で調整があるという点をおさえておきましょう。
「60~64歳の間で年金が受給できる場合は年金を受給し、退職を65以降にすればよいのではないか」との考え方もあります。
しかし、退職を65歳以降にする場合、失業手当が減額してしまいます。
よって、年金と雇用保険からの給付額を比較検討することも一案と考えます。(執筆者:社会保険労務士 蓑田 真吾)