高齢化社会から超高齢化社会へと加速してきた日本社会ですが、誰しもが避けることができないのが老後のお金問題です。
皆さまはどのような準備をしていますか。
今回は、社会問題にもなっている認知症とお金についてのお話をしたいと思います。
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目次
高齢者を巡る現状
2015年に実施された国勢調査のデータによると、首都圏(1都3県)に住む65歳以上高齢者の単身世帯は総世帯数のおよそ10%、約167万世帯に上ることがわかりました。
また、現在85歳以上の約4割が認知症と言われていて、今後もこの傾向は続くものと思われます。
認知症は単独の病気ではなく、さまざまな病気を原因として引き起こされる症候群です。
主な原因としてはアルツハイマー病や脳梗塞・脳出血などに起因した脳血管障害などがあげられます。
認知症になると、思考や記憶などの能力が低下してきて、日常生活を送るのがだんだんと困難になります。
認知症の中核症状としては「記憶障害」、「見当識障害」、「判断力障害」があります。
症状が進行してくると1人で生活を送ることが困難になってきます。
判断能力が衰えてくると生活に必要なお金の管理や銀行での手続きなどができなくなってしまい、誰かしらの支援が必要になってきます。
成年後見制度とは
たとえば、親や配偶者の認知症が進み施設への入所が必要となる場合、現金が必要なのに本人でなければ預金が引き出せない等の問題が発生することがあります。
家族が銀行でATMを操作しての引き出しが可能であっても、窓口で手続きをする際には必ず本人確認がなされます。
本人が同行していて意思確認ができれば問題はありませんが、近年の詐欺事件増加により、家族であっても代理での手続きはほぼ不可能です。
そういった代理での手続きを可能とするのが「成年後見制度」です。
本人が「成年被後見人」、見守る立場の人が「成年後見人」と呼ばれます。
成年後見人の仕事
成年後見人の仕事には「身上監護」と「財産管理」があります。
内容は、
「財産管理」:被後見人に必要な諸費用の支払いなどを管理する
という仕事です。
身上監護と言っても、直接的に介護などのお世話をするのではなくて、支援を行ってくれる人(介護施設等)を探して手配をするのが仕事です。
成年後見人ができる仕事には次のようなものがあります。ただし、本人の判断能力によりできる内容は異なります。
・ 施設に入所する際の契約や契約の解除
・ 預貯金通帳の管理
・ 介護サービス等を利用するための契約
・ 不動産の管理・売却
・ 遺産分割協議の参加、等
成年後見制度の種類
成年後見制度には「法定後見制度」と「任意後見制度」があります。
法定後見制度
法定後見制度は、既に判断能力が不十分な状態になっている人が対象の制度です。
本人の意思能力に応じて、症状が重い方から「後見(被後見人)」、「保佐(被保佐人)」、「補助(被補助人)」です。
類型ごとに成年後見人(等)のできる権限が変わります。
法定後見制度の申し立ては家庭裁判所に行い、裁判所が成年後見人を選任します
任意後見制度
任意後見制度は、将来に備えて元気なうちに「だれに何を頼みたいか?」を決めて任意後見契約を結んでおく制度です。
任意後見制度の契約手続きは、公証役場において本人と任意後見人受任者の間で公正証書を作成して行われます。
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成年後見制度に関わるお金
成年後見制度にはどの程度のお金がかかるのかを見ていきましょう。
法定後見制度の場合
法定後見制度の場合、申し立てに関する費用と後見人(等)に対する報酬が必要です。
家庭裁判所への申し立てに関する費用は次のようなものです。
・申立手数料・後見登記手数料・郵便切手・医師の診断書・住民票・戸籍抄本等:
約1万円~2万円
・医師の鑑定(裁判所が必要と判断したときのみ):
約10万円~20万円
・成年後見人(等)への報酬目安(家庭裁判所が決定):
約2万円~6万円/月額(平成25年 東京家庭裁判所立川支部発表)
任意後見制度の場合
任意後見制度の場合、公証役場で任意後見契約公正証書を作成する費用等がかかります。
また、実際に任意後見が開始されると、任意後見人や任意後見監督人に対する報酬が必要です。
・公証役場の手数料・法務局への印紙代・登記嘱託料・郵便代等:
約2万円~(財産額や作成する書類の数によって増加)
・任意後見人への報酬:
約2万円~6万円/月額(前述の法定後見に準じて決めることが多い)
契約なので自由に決められますが、親族の場合は無報酬が多いと言えます。
・任意後見監督人への報酬(家庭裁判所が決定):
前述の成年後見人(等)への報酬の約半分とされています。
成年後見制度の問題点
一方で、成年後見制度には次のような問題点もあります。
・ 財産管理が厳格過ぎて本人の希望通りにお金が使えない
・ 後見人に選任されるのが親族以外の専門職が大半で、報酬が高すぎる
・ 制度に対するネガティブな評価が先行し、利用者が伸びない 等
特に老後の生活が心配な方は、認知症などで完全に判断能力が失われてしまう前に、
・ 財産の生前贈与などを活用して不測の事態に備えておく
ことが必要だと言えます。
相談窓口
法定後見制度に関する相談は、家庭裁判所やお住いの区市町村に設置されている「成年後見制度推進機関」にするのがよいことでしょう。
なお、東京都の場合には東京都福祉保健局が各区市町村の「成年後見制度推進機関」を紹介しています。
任意後見制度については、直接お近くの公証役場へ相談するか、各種士業が行っている無料相談会などで聞いてみるとよいことでしょう。
相談する相手が分からない場合には、お住いの自治体窓口、もしくは社会福祉協議会へ連絡することをおすすめします。
制度を活用して自分自身や財産を守る
認知症が進行してしまうとできることは限られてしまいます。
できるだけ本人が元気なうちに準備しておくことが重要です。
特に、資産が多い方や単身世帯の方は任意後見制度などを活用して、自分自身や財産を守る必要があります。
一方、ご家族にできることは少ないかもしれません。
しかしながら、本人と老後のことをよく話し合ったたり、入院や寝たきりにならないよう健康状態に気を配ったりすることは必要だと思われます。
後見人が付くことにより消費者被害を未然に防いだり、自分の意思に沿って資産を有効に活用したりすることにつながります。
築き上げた資産を、最後まで有効に活用してください。(執筆者:行政書士 風見 哲也)