2021年度通常国会にて、マルチジョブホルダーに対応した労働法改正が相次いで成立しました。

このうち、労災保険法については「複数事業労働」という概念が新たに設けられ、これまで適用範囲が狭く問題とされていたマルチジョブホルダーへの保険給付が改善されました。

そこで今回は、「複数事業労働」という概念が設けられたことでどのように保険給付が改善されたのかを解説していきます。

マルチジョブホルダー(複数事業労働) への保険給付が改善

複数事業労働という新しい概念

これまでの労災保険では、労働災害が発生した場合に複数の就業先のうちひとつの事業場での労災認定で保険給付されていましたが、具体的には次のような問題がありました。

問題事例1

A社とB社で就業していた労働者Cが、過重労働によるメンタル不調で精神疾患を発症し就業できなくなった。

A社とB社それぞれ個別に時間外労働やストレスといった業務負荷を評価する。

この場合に、A社とB社それぞれ個別に見た場合に業務負荷が高くなければ、いずれの会社においても労災認定されずに、労働者Cは休業補償給付を受けることができなかった

問題事例2

D社とE社で就業し精神疾患を発症した労働者Fが、D社で労災認定を受けた場合、D社での賃金額を基に労災保険の休業補償給付を行い、E社での収入は含まれない。

この場合に、労働者Fは労災による休業でD社での収入が得られなくなったが、E社での収入額を基にした休業補償給付ではその分をまかなえず、経済的負担が大きくなった

「複数事業労働」という考え方

今回の法改正ではこれらの問題を解消するため、

複数の就業先で働く労働者についてはすべての就業先をまとめて判断する「複数事業労働」

という考え方を設けました。

これによって保険給付の対象範囲と給付額が大きく見直されています。

具体的な改善点

では、具体的にどこが見直されたのでしょうか。

1. 複数の就業先の業務負荷を総合的に評価して労災認定

まず、労災認定の判断方法が変更になりました。

先程の「事例1」の労働者Cは、A社とB社それぞれ個別では労災認定できない場合、両社の業務負荷を総合的に評価して労災認定を判断するようになり、労働者Cは休業補償給付を受けられる可能性が広がったと言えます。

ただし、労災認定の基準が変更になったわけではないという点に注意が必要です。

単に複数の就業先での労働が過重労働になっている、というだけで労災認定が受けやすくなったということではありません

あくまでも労働者の負った傷病に業務起因性があるか否か、すなわち労働者Cが負った就業不能になるほどのメンタル不調が、A社・B社での業務よって引きおこされたと評価できるかどうかが基準です。

2. 給付基礎日額の見直し

休業補償なども変更に

次に、

・ 労働災害によって傷病を負って就業できなくなった場合の休業・障害に関する給付

・ ご本人が亡くなられた場合のご遺族への給付

2点の計算が変わりました

就業先ごとに1日当たりの平均賃金を算定し、合算した額(「給付基礎日額」といいます)を基礎として給付額を計算します。

「事例2」の労働者Fは、D社とE社の収入をあわせた額を基礎に休業補償給付が受けられるようになり、経済的負担が改善されることとなったのです。

もっとも、このような形で給付を受けられるのは、複数の就業先を要因として傷病を負ったものに限られることに注意が必要です。

労働者Fの精神疾患が、D社での就業時に受けた強度のストレスによるものであることが明らかであれば、E社を含めた複数事業労働としての労災認定にはなりません。

法改正の内容は押さえておこう

今回の法改正では「過重労働やストレスを原因とする疾病への対応」がポイントとなっています。

マルチジョブホルダーが脳血管疾患や心疾患、精神疾患等を発症した場合の労災保険による給付を手厚くしたものと言えますが、それでも全てのケースをカバーできるものではありません

法改正の内容は押さえつつ、日頃から自身のケアを十分に行いましょう。(執筆者:人事労務最前線のライター 今坂 啓)