前回の記事の最後に年金受給開始年齢別の損益分岐点計算を紹介しました。しかし、この計算にはいくつかの盲点があります。

記事の計算をみて得をした気分にならないために、盲点についても解説します。

年金受給開始年齢別 の損益分岐点 グロス計算の「3つの盲点」

盲点1. グロス(総量)ではなくネット(正味)で計算する

前回の計算はあくまでもグロスでの計算です。つまり、税金や社会保険料を考慮せずに計算してあります。

ネットすなわちり手取りで計算し直すと違った結果になるということを覚えておいてください。

ネット計算の事例

ネットでの計算は各個人の状況等によって異なりますので、個別に計算して判断するしかありませんが、一例を紹介しましょう。

前回の計算例(グロスで計算)

【65歳に受給開始の年金額】200万円(本来の年金額)

【5年繰下げして70歳に受給開始した場合】
前回の計算では42%アップの年金額284万円になり、約12年(82歳時)で受取総額が逆転するということでした。

【グロス計算】200万円 × 17年 = 3,400万円 < 284万円 × 12年 = 3,408万円

今回の計算例(ネットで計算)

これがネット計算になると、詳細は割愛しますが、

年金額200万円のときの手取り率が約88%であるのに対して、年金額が284万円のときには約85%と3%程度手取り率が下がる

のです。

なお、お住まいの自治体や家族等の状況により手取り率は変動しますのでご注意ください。

【ネット計算】200万円 × 19年 × 88% = 3,344万円 < 284万円×14年×85% ≓ 3,380万円

この一例では、ネット計算での損益分岐点が約2年ほど後ろにずれたことになります。

つまり、それだけ長生きしなければ元がとれないということです。

このようにグロスとネットでは計算結果が異なります。ネット計算で判断をするようにしてください

盲点2. 前回は「加給年金」が考慮されていない

前回の計算では、本人のみの年金額に基いて損益分岐点を計算していましたので「加給年金」については考慮されていませんでした。

「加給年金」とは、家族手当的なもので所定の条件を満たしたときに妻が65歳になるまで夫の年金額にプラスして受け取れるものです。

年金の繰下げ期間中には受け取れなくなりますし、年金額の増額にも反映されません(繰下げ期間中に権利放棄したという扱いです)。
 
「加給年金」は年額約39万円ですので、夫と妻の年齢差にもよりますが仮に5歳離れていたとすると200万円弱を失うことになります。

これによって損益分岐点がさらに後ろにずれます。

「加給年金」を受け取れる状況にある方は、このことも考慮に入れて判断してください。

盲点3. 年金受給しながら「少し働く」かどうかで違いが出る

少し働くことで違いが出る

前回の損益分岐点の計算は年金収入のみでしています。しかし、これが年金を受給しながら「少し働く」と違いが出てきます

盲点1.でも少し触れましたが、

手取り率を下げないようにするには、「少し働く」のが効果的

です。

なぜなら、年金収入のみでは社会保険料負担が大きいですが、年金をもらいながら少し働くと勤務先の社会保険に加入することになります。

健康保険料は給与だけにかかるため

「少し働く」だけであれば給与が少ない分保険料も少額で済み、しかも事業主と折半のため負担がぐっと下がる

のです。

手取り率にして約3~5%程度は改善するのではないでしょうか。

少しとは言え、

給料分も収入が増えてさらに手取り率が上がる

となれば、検討する余地があるのではないでしょうか。

年金受給開始の判断は損得だけでするものではない

年金受給開始年齢別の損益分岐点をグロスで計算すると以上のように盲点が3つもあります。

個人の状況等によって判断はさまざまですが、考慮に入れて判断しないと後悔することにもなりかねません。

「いつから年金受け取りを開始するのがよいのか」は、率直に言って単純な話ではありません。個別に計算して価値観等も踏まえて考えるようにしてください。

最後に、年金の受け取りに関しては、「損得だけで判断するものではない」という考え方もあることを付け加えておきます。(執筆者:CFP認定者、1級FP技能士 小木曽 浩司)