「人生100年時代」長生きリスクに備えて少しでも老後資金を増やしておきたいと考えるのは当然のことでしょう。

厚生労働省の「令和2年簡易生命表」によると65歳時点の平均余命は男性で20.05歳、女性で24.91歳。

年金受給開始を70歳からにしても受給総額では、得をする可能性は高いと考える方が多いのが現状です。

さらに20224月から繰下げ受給年齢が70歳から75歳までになりました。

ただし、年金額も増えるからと安易に繰下げを考えるのではなく、そのメリットやデメリットを考えることが重要です。

そこで本当に年金を繰下げることは、お得かどうか、考えてみましょう。

年金の繰下げはお得?

公的年金の繰下げとは

老齢基礎年金と老齢厚生年金は、原則65歳から受け取ることができます。

働いているから、お金に余裕があるからと65歳で年金の請求を行わずに66歳以降に「繰下げ受給」を選択できます。

この繰下げは、老齢基礎年金と老齢厚生年金の両方でも片方だけでも可能です。繰下げる期間は、66歳以降75歳までの間なら月単位で自由に決めることができます。

繰下げを選択をした場合、1か月あたり0.7%が増額され、1年では8.4%増額することになります。

5年間であれば42%、最大の75歳までの10年間であれば84%も増え、長生きすればするほどメリットが大きくなるのです。 

老齢基礎年金と老齢厚生年金:例)年額200万円 5年間繰下げ → 284万円

老齢基礎年金と老齢厚生年金:例)年額200万円 10年間繰下げ → 368万円

繰下げた場合の損益の分岐点は何歳?

70歳までの繰下げ受給をした場合は、受給開始年齢から約11年10か月で繰下げて受け取った年金額を上回ることができます。

例えば、65歳から5年間繰下げをした場合、8110か月以上長生きすれば受け取れる累計の年金額は、本来の受け取り累計額より長生きすればするほど多くなります。

繰下げ受給のメリット・デメリット

公的年金の繰下げは、メリット・デメリットを考えて決めることが大切です。

メリットは、やはり増額された年金額が一生涯もらえて、長生きすればするほど累計額が多くなることです。

しかし、それ以上にデメリットの方が多いのです。

デメリット1:加給年金が受け取れない

これが1番大きなデメリットです。

加給年金とは、厚生年金に20年以上加入した人に65歳未満の配偶者(妻)がいる場合、受け取ることができるものです。

本来は65歳になったときに年金に上乗せして受け取れます。

金額は年額約39万円で配偶者が65歳になって自分の年金を受給できるようになった時に停止されます。

配偶者が5歳年下であれば、5年間で約200万円にもなります。

繰下げを行った場合には、この加給年金は受給開始まで先送りされ、また増額はされません

その間に配偶者が65歳になると受け取れなくなります。年下の配偶者がいる場合は、大きなデメリットです。

デメリット2:年金額が増額されると共に税金や社会保険料も増える 

いくら公的年金控除があっても収入が多くなれば必然的に税金が高くなります

国民年金保険料や介護保険料は高額になってしまい、実際には手取り年金額は思ったほどではなかったということになりかねません。

デメリット3: 年金の繰下げにおける「損益分岐年齢」

65歳から5年間繰下げをした場合の損益分岐年齢は、8110か月でした。

この計算において用いられるのは、実際の手取りではなく、額面の年金額です。

2つ目のデメリットで分かるように手取りを考えるとこの年齢よりも5歳から6歳以上アップしてしまうという試算例もあります。

 デメリット4:配偶者の死後に支給される遺族年金は増えない

遺族年金の額は、配偶者の65歳時点の年金額を基に計算されます。

繰下げでたくさんもらっていたとしても、遺族には原則の年金額しかもらえません

加給年金をもらうなら老齢基礎年金だけを繰下げる

年額約39万円の加入年金は魅力です。

そこで、加入年金はもらいたいけれど、繰下げもしたいのであれば、老齢基礎年金だけを繰下げることです。

加給年金は、厚生年金から支給されますので、厚生年金は65歳から受給すれば加給年金も上乗せされます。 

損得で年金の繰下げを考えるのは、難しいものです。

損益分岐年齢を見極めようとしても年金が増えるに従って税金や社会保険料も増えていくので、実際の手取りは分岐点よりも上がってしまいます

平均余命通りに生きられるかわからないし、いつ病気になるかもしれません。

70歳まで働こうと思っていても、有期雇用でいつ辞めさせられるかわかりません。

繰下げは、特に夫婦の場合の加給年金のデメリットが大きいので、よく考えて選択することをお勧めします。(執筆者:特定社会保険労務士、1級FP技能士 菅田 芳恵)