原則として65歳から受給できる年金としては、

  • 国民年金から支給される老齢基礎年金と、
  • 厚生年金保険から支給される老齢厚生年金の、

2種類があるのです。

また生年月日によっては60歳~64歳から、経過措置として支給されている「特別支給の老齢厚生年金」を受給できます。

それぞれの具体的な年金額や、それぞれの受給要件を満たしているのかが気になる方は、ねんきん定期便を見てみるのが良いと思います。

この中には、本来の年齢よりも受給開始を繰下げ(先延ばし)して、受給できる年金額を増やす「繰下げ受給」という制度が紹介されているのです。

繰下げによって年金額が増えるのは、原則として65歳から受給できる老齢基礎年金と老齢厚生年金になるため、特別支給の老齢厚生年金は受給開始を繰下げしても年金額は増えません

また増額した老齢基礎年金と老齢厚生年金を受給できるのは、早くても66歳になるため、最低でも1年間は受給開始を待つ必要があるのです。

この年齢に達した後は、繰下げの上限である75歳までの範囲内であれば、受給開始の時期を自由に選択できるのです。

そのうえ老齢基礎年金は70歳まで繰下げ、老齢厚生年金は75歳まで繰下げするというように、それぞれの受給開始の時期を分けられるのです。

受給開始を繰下げした場合の1か月あたりの増額率は0.7%のため、上限の75歳まで繰下げした場合、増額率は84%(0.7%×12か月×10年)になります。

なお1952年4月1日以前生まれの方については、2022年4月に法改正が実施される前の、旧制度が適用されます。

そのため繰下げの上限は70歳、最大の増額率は42%(0.7%×12か月×5年)になってしまう点に、注意する必要があります。

年金の繰下げ受給と介護の負担に注意

介護と医療の負担増の罠は気付きにくい

40歳以上の方が加入する介護保険の自己負担は、制度ができた当初は誰もが1割でした。

しかし現在は65歳以上の方に関しては、収入などが一定額以上ある場合、2割~3割の自己負担になります。

また75歳以上の方が加入する後期高齢者医療の自己負担は、2022年10月に2割負担が新設されました。

そのため基本的には1割になりますが、収入などが一定額以上ある場合、介護保険と同じように2割~3割の自己負担になります。

ただ1か月あたりの自己負担が高額になり、所定の自己負担限度額を超えた場合には、後期高齢者医療から高額療養費が支給されるため、自己負担限度額までを支払えば良いのです。

この自己負担限度額や入院時の食事代などについても、収入が上がるほど負担が増えます

負担が増える基準については、市区町村のウェブサイトなどに記載されていますが、非常に内容が複雑なため、負担が重いことに気付くのは、実際に介護や医療を受けて、その料金を支払う時という場合が多いと思います。

このように収入の多い方に対する介護や医療の負担増は、料金を支払う時まで気付きにくいため、物陰に仕掛けられている罠のような印象を受けるのです。

また老齢基礎年金や老齢厚生年金の受給開始を繰下げするほど、負担増の罠にかかりやすくなるのです。

介護保険の自己負担は収入が高いほど重い

2024年以降は負担増の罠が増える

2024年には3年に1度の介護保険の改正が実施されるため、厚生労働大臣の諮問機関である社会保障審議会の介護保険部会では、介護保険の改正案に関する議論が行われています。

その改正案の中には、収入の多い方が負担増につながる、次のようなものがあるのです。

  • 65歳以上に関しては、低所得者の保険料を引き下げ、その分を高所得者の負担増で穴埋めする
  • 2割負担の対象者を従来よりも拡大する

また後期高齢者医療に関しては、高所得者が負担する保険料の年間あたりの上限(現在は66万円)を、2024年度に73万円、2025年度に80万円に引き上げする改正案があります。

もうひとつ気になったのは、健康保険の加入者などが出産した時に受給できる出産育児一時金を、42万円から50万円程度に引き上げする際に、その財源を後期高齢者医療の加入者に負担させるという改正案です。

新聞などの報道によると、

  • 年収が211万円を超える方の保険料を2024年度から引き上げし、
  • また年収が153万円を超える方の保険料を2025年度から引き上げして、

出産育児一時金の財源に充てるようです。

このように収入が多い方に対する負担増の罠は、2024年以降になると種類が増えるのです。

また2023年に受給開始を繰下げした場合、1年が経過して増額した老齢基礎年金や老齢厚生年金を受給できるのが2024年のため、2023年以降に繰下げ受給すると、負担増の罠にかかりやすくなります。

住民税非課税世帯に該当する範囲内で繰下げ受給を利用する

障害基礎年金、障害厚生年金などの障害に関する年金や、遺族基礎年金、遺族厚生年金などの死亡に関する年金は、金額がいくらでも非課税になります。

一方で老齢基礎年金、老齢厚生年金などの老齢年金については、これらの合計額が一定の基準額を超えると、所得税や住民税が課税されるため、収入を基準額以下に抑えた方が良いのです。

例えば65歳以上の単身者で、収入が老齢年金だけの場合、その合計額(前年)が155万円以下であれば、住民税が課税されない場合が多いため、住民税非課税世帯になります。

また夫が妻を扶養する、65歳以上の夫婦のみの世帯で、収入が老齢年金だけの場合、次のような2つの要件を満たすと、夫婦共に住民税が課税されない場合が多いため、住民税非課税世帯になります。

夫:老齢年金の合計額(前年)が211万円以下である

妻:老齢年金の合計額(前年)が155万円以下である

国などが介護や医療などの自己負担を決める際は、住民税非課税世帯に該当するか否かを、基準にする場合が多いのです。

そのため住民税非課税世帯でなくなると、介護や医療などの自己負担が一気に上がる可能性があります。

住民税非課税世帯となるよう繰下げ受給を調整

こういった事情があるため、繰下げ受給を利用して年金額を増やすなら、211万円や155万円という基準額を、超えない程度にとどめた方が良いのです。

また211万円や155万円という基準額は、自治体によって多少の違いがあるため、ぎりぎりまで年金額を増やすなら、基準額の詳細を調べておいた方が良いと思います。

なおパソコンやスマホから年金額などを調べられる、ねんきんネットにログインすると、繰下げ受給した場合の年金額を試算できるため、何歳までの繰下げなら基準額を超えないのかを、事前に確認できるのです。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)