相続が発生した場合、亡くなった方の預貯金はどのように分けたらよいのか、仮に法定相続分どおりにきっちりと分けるとしても、ほかの遺産との関係もあり、すんなりとはいかないのではないでしょうか。
もっとも法的には、預貯金等の相続は、遺産分割をしない限り、法定相続分での相続になります。民法の判例では、預貯金等の金銭債権は、遺産分割手続を経ずに当然に分割され、各相続人に法定相続分に応じて帰属するとされています。金銭債権は、特別なものを除いて可分債権、つまり、金額を分割して行使することが可能な債権だからです。
この判例によれば、各相続人は預貯金等の遺産分割手続を行うまでもなく、法定相続分に応じた権利(金融機関に対する払戻請求権)を取得することができます。
ただし、定額郵便貯金は、別の判例において異なった解釈をしており、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるというものではなく、最終的な帰属は遺産分割の手続きにおいて決せられるべきとしています。
これは、郵政民営化以前の郵便貯金法において、定額郵便貯金は、一定の据置期間(6カ月、満期は10年)を定め、分割払戻しをしないとの条件で一定の金額を一時に預入するものと定め、預入金額も一定の金額(原則、貯金全体で1人1,000万円まで)に限定していることによるものです。
多数の貯金者を対象とした大量の事務処理を迅速かつ画一的に処理する必要上、定額郵便貯金が相続により分割されると解釈すると、それに応じた利子を含めた債権額の計算が必要になり、定額郵便貯金における事務の定型化、簡素化を図る趣旨に反することになるからです。したがって、定額郵便貯金債権の最終的な帰属は、遺産分割手続において決せられることになり、ゆうちょ銀行以外の金融機関と法的には異なっています。
ちなみに、平成19年10月1日の民営化より前に預けられた定額郵便貯金については、旧郵便貯金法が適用されますが、民営化後に預け入れられた定額貯金についても、ゆうちょ銀行の規定により原則として分割払戻しをしないこととされています。
実際、相続の対象となる貯金等は、代表相続人を決めて、払戻金を受け取るか名義書換をすることになるので、いずれにしても、被相続人の貯金等が当然に各相続人に分割されるわけではありません。
一方、ゆうちょ銀行以外の金融機関では、法律上、各相続人が単独で自らの法定相続分に応じて、被相続人の預貯金の払戻請求をすることができることになります。しかし、実際は、一部の相続人が金融機関で自身の法定相続分を証明しただけでは、ほとんど払戻しを受けることはできません。金融機関としては、払戻しを受けた者に相続欠格事由があったり、相続人間のトラブルに巻き込まれたりするおそれもあり、相続人全員の同意書や遺産分割協議書などがなければ払戻請求には応じていないのが実情です。
なお、預貯金等の相続における実際の手続きは金融機関によって異なりますが、一般的に必要な書類として、被相続人の出生から死亡までの戸籍、相続人全員の戸籍、相続人全員の印鑑証明書などがあり、仮に相続人のうち1人がその金融機関の預貯金等を全部相続するとしても、他の相続人の協力が必要になります。
次回は、実際に相続が発生したとき、どのように対処したらよいかを取り上げます。