裁決事例集には収録されていない裁決(平成19年4月11日)ですが、先日の研修でこの裁決事例の検討をしました。相続税の案件ですが、妻の名義預金についての検討がおもしろかったので紹介します。この事例では、次の場合にいわゆる妻の「へそくり」預金が贈与した財産なのか名義預金なのかが論点となりました。
・妻は被相続人から口頭で余った分は好きにして良いといわれていた。
・そこで妻は本人(妻)名義で余ったお金を貯蓄していた(いわゆる「へそくり」預金)。
・被相続人の相続に係る相続税の申告で「へそくり」預金は妻が贈与を受けた財産であるとして申告しなかったところ、所轄税務署より相続財産に含まれるとして更正処分を受けた。
なお、妻は親の相続等で財産を取得したことはなく、また結婚後も専業主婦で無収入であった。審判所は被相続人の財産(名義預金)であるとして、次の様に判断しました(以下、要約)。
まず贈与について
仮に本件被相続人が妻に生活費として処分を任せて渡していた金員があり、生活費の余剰分は自由に使ってよい旨言われていたとしても、渡された生活費の法的性質は夫婦共同生活の基金であって、余剰を妻名義の預金等としたとしてもその法的性質は失われないと考えられるのであり、このような言辞が直ちに贈与契約を意味してその預金等の全額が妻の特有財産となるものとはいえないとしました。
上記の夫婦共同生活の基金という法的性質については、税務争訟ではありませんが東京地裁昭59・7・12判決(預金返還等請求事件)で次のものが参考としてあげられています。普通預金口座は、被相続人が得た収入から毎月妻に渡されていた生活費によって構成されたものということができる。
ところで、夫が収入の一部を生活費として妻に渡した場合に、直ちに右生活費が妻の特有財産になると解するべきではなく、右生活費は夫婦共同生活の基金としての性質を有するものであるから、夫婦の共有財産と解するのが相当である。そうすると、妻が、右生活費を被相続人名義で預金した○○銀行△△支店の普通預金口座の預金も被相続人と妻の共有財産とみることができる(以上、判決抜粋)。
そして審判所はその口座の帰属について
本件被相続人以外の者の名義の財産の帰属に当たっては、単に名義人が誰であるかという形式のみにより判断するのではなく、その財産の取得原資、管理及び運用の状況並びに帰属の変動の原因となる事実の有無等の客観的事実を総合的に勘案して判断すべきものである
として、取得原資は全て被相続人であること、その他管理及び運用などの状況から被相続人の特有財産としました。