先日、50代の方(ここではAさんとします)から老後の生活設計に関する相談を受けました。Aさんが持参されたものを拝見すると、その中に昭和60年に契約した保険証券がありました。この保険は定期付終身保険で、60歳まで5,000万円、その後終身で500万円の死亡保障という10倍型のタイプで、さらに医療特約を付けています。
Aさんは大学卒業以来ずっと同じ会社に勤めているサラリーマンで、パート勤務の奥様に大学生の長女と高校生の長男という昭和の典型的なご家庭です。また、これまで資産運用の経験がほとんどなく、加入している保険の内容もあまり把握されていないようでした。
ここで気になったのは、この28年間一度も保障内容を変えなかったこと、その後他の生命保険に加入していなかったことです。結果として、特約部分の医療保障がそのままになっています。これは昭和62年頃より前のタイプで、20日以上入院しないと入院給付金が支払われないものです。
筆者も同世代ですが、新入社員のときに会社が契約している保険会社のセールスに勧められて生命保険に加入し、その後結婚、子どもの誕生によって同じ会社の保険で保障を大きくしていくという、この世代の典型といえます。
さらに、この世代は、90年代後半からの保険の見直しブーム、予定利率が高い既契約からの転換を勧めた保険会社の戦略などによって古いタイプの医療保障を見直されている方が多いのですが、Aさんは結婚を期に定期付終身保険に転換し、その時に付けた医療特約のまま現在に至っています。
理由を伺うと、その後子どもが出来たことを聞きつけた保険会社の担当者からの勧誘がしつこかったので拒絶し、それがトラウマになってしまい、これまで入院するほどの病気や怪我もなかったため、生命保険のことを考えること自体避けていたとのことでした。50代になって同世代の友人が急に倒れたり入院したり、またテレビコマーシャルの影響もあって保険の必要性を意識するようになったそうです。
最近は、短期入院に対して手厚くしたり退院後の通院を保障したりする医療保険が増え、入院前の通院も保障する医療保険も登場しています。一方、生活習慣病など所定の条件を満たした場合に1入院の支払日数を拡大したり、支払限度日数を無制限にしたりする長期保障を充実させたタイプもあります。
中高年の医療保険選びの注意点
このように給付内容が多様化し、長期保障が中心なのか短期入院や通院に重点を置いているのかなどの違いもあり、入院日額と保険料だけでは単純に比較できなくなっています。似たような保障内容の保険料は、インターネットでも比較できますが、検索条件を1つ変えただけでランキングが変わるので、医療保険を選ぶ際は、どのような保障に重点を置くかを考えるとよいでしょう。
次々と医療保険が発売されていますが、保険会社の戦略として、新商品を発売する際にどのような顧客をターゲットにしているのかを調べるのも1つです。とくに保険会社がシリーズもので新商品を出すときは、既存の商品に比べ保険料の割に保障内容を充実させ、お得感を出そうとします。そこで保険会社のHPなどで既存の商品と新商品との違いを比較する際に、年齢・性別による保険料の差を見ると、どの世代に重点を置いているのかがわかります。
最近はネットの活用に慣れた世代の競合を意識してか、新商品を投入する際には、20代・30代の保険料を割安に設定するケースがあり、この場合、50代の保険料は相対的に高くなります。実際、50代以上では、全般に保険料が安いと言われるインターネット専業の保険会社と対面型の保険会社との差は小さくなり、逆転するケースも少なくありません。
ところで、Aさんの場合は、医療保険(特約)が20代のときの契約でもあり、保険料は安いのですが、医療技術が格段に進歩し入院が短期化している現代、保障内容もそぐわなくなっています。
とはいえ、短期の入院・通院には十分賄えるだけの貯蓄があるし、高額療養費制度を考慮すると新たに加入しなくてもよいと思われますが、ライフスタイルや他の要因等から総合的に判断し、終身型の医療保険で生活習慣病による入院や先進医療を受けた場合の給付が厚いタイプでの検討を勧めました。