「エンディングノート」という言葉を、最近は当たり前のように耳にするようになりました。私が、初めてエンディングノートといったような言葉を耳にしたのは今から5年ほど前の事でしょうか。ある出版社が売り出した相続に関連する書籍のなかに綴られていました。
エンディングノートを書く意味
エンディングノートという言葉を始めて耳にした時は、『何のために、このノートを準備するのか? 遺言書の様に法的効力は無いのに…』と、当時は懐疑的な眼差しで遠目で様子をうかがうような感じでながめているという状況でした。
日が連れ、時の流れとともに、ますますエンディングノートという単語を見かけるようになり、そして耳にするようになりました。自分の思いを、今まで一緒に生きて来た家族にその想いと感謝の言葉を遺しておく。とても、大事なことでしょう。でも、何か照れくさくてペンが進まないといったことが実際は多いようです。
妻に感謝の言葉。自分の場合、とても53歳のいまでは書く気持ちにはなれません。よくて、先行きが見え始めた頃かなと思いますが…もしかしたら、その時は字も書けない状態になっているかもしれない。
そして、何といっても人間はいつ、死ぬかも知れない…。突然の死に何も書き記したものを遺していなかったら、家族に自分の思いを伝えることのできる術はなくなります。感謝の気持ちということではなく、自分に万が一があった時には、こうして欲しい、ああして欲しい、誰それに連絡してほしい…等々、を早々に書き残しておくことは必要でしょう。
その折に、家族への想いなどもそっと書き記しておいたほうがよいでしょう。年齢を重ねて、万が一の時の希望や想いが異なって来た時には、書き換えればいいだけのことです。そうやって、考えると法的効力のない自分の想いを書いているただのメモノートですから鉛筆で書いておいても宜しいかも知れません。
希望や感謝や想い等を書きつつ、自分の財産は何があるのか、どこに保管しているのか、債務は誰にどれだけあるのか、保証人になっていれば誰にいくら…等々も書き遺しておくと遺されたご家族の負担が軽減されます。
書いておくと遺された家族が楽になる内容
会計事務所に在職していたころに相続税の申告を何件か担当しました。最初にすべきことは相続人の確定(婚外子がいる場合で所在不明の場合には住所の確認から進めます)のための戸籍の取得。そして、相続財産の棚卸です。
預貯金は銀行通帳を確認し、公共料金の引き落とし銀行やローンを利用している銀行、給与の銀行等の口座は難なく把握することができるでしょう。しかし、ネット銀行は書き遺しておいておかなければその把握は難しいこととなるでしょう。
不動産はどうでしょう? 不動産は固定資産税評価額の名寄帳を取り寄せればその把握は容易に行えるでしょう。生命保険は加入している保険の会社や種類、金額と保険証券の保管場所を明確にしておけば安心でしょう。株や投資信託も同様に明確にしておけばよいでしょう。貸付金、特に友人等への貸付金等が有るときは、念のために書き記しておけば安心です。
債務は、誰にどれだけということです。そして、遺されたご家族が、なかなか把握ができないのが保証債務、いわゆる保証人になっているか否かの情報です。保証人になっていた場合、その保証先や金額によっては相続財産の限定承認の手続を考えた方がいい場合もあるでしょう。
このように、財産を明記しておけば、万が一の時に急に遺されたご家族はその悲しみにくれているなかでの相続財産の把握に窮することの負担は減少していくでしょう。そして、財産を書き記したら、誰にどう分けてあげるか。
これは、時の経過とともに子どもの生活も変化していくので、50代、60代では、決めきれるものではないでしょう。
しかし、万が一の時は、突然やってくる時があります。その時々の自分の気持ちに正直に、どうしてほしい等の気持ちを書き記しておけばよろしいかと思います。大事なのは自分の気持ちを遺しておくことでしょう。どうして欲しかったのか…と遺された家族が悩むこともないでしょうし。
本当に知らせて欲しい人に知らせてももらえます。エンデイングノート…書けるところを自分の気持ちのまま、少しずつ書いておけば宜しのではないでしょうか。もっとも、エンディングノートに限らずに遺言書の作成の場合もそうですが、不動産については、きちんとした現状分析はした方がよろしいでしょう。10年、20年、30年…と時の経過により不動産の価値が大きく変わることは大いにあり得ます。
昔は、住宅地として人気の土地だったが、鉄道の開通により駅前の造成地に人気が取られてしまった…等。現状の不動産の人気や価値、金額等の評価や将来性の調査はしておくべきでしょう。そして、子供間で、相続のあと、後々にわたって不公平感を感じることのない分割にしたいものです。争う相続とならないためにも、エンディングノート、そして必要なときは遺言書の作成を検討したいものです。(執筆者:荒木 達也)