今までの記事で、同じカテゴリーの中の投資信託(ファンド)を選ぶ上で大事な点として、商品設計上の「投資対象」「投資スタイル」に注目することは大事と述べました。
※詳しくは前回の記事、前々回の記事をご参照ください。
今回は、同じカテゴリーの中の投資信託(ファンド)を選ぶ上で大事な点として、ある投資家から質問のあったファンドの「リスク・リターンの取り方」について簡単に述べたいと思います。
ある投資家の方とお話しした時に
と言われました。
その質問に対する答えは以下のとおりです。
ファンドマネージャーが運用するファンドを評価するにあたり、「リスク・リターンの取り方」を図る時、利用されることが多いのが、シャープ・レシオです。
シャープ・レシオとは、リスク(ここでは標準偏差:<変動のブレ>)をとって運用した結果、安全資産から得られるリターンに対し、どの程度、上回ったのかを比較できるようにした指標です。一般的にシャープ・レシオの数字が大きければ、大きいほど、リスクをとった割に、リターンが大きくなっているとか、運用面で効率的にリターンを計上しているとプラスに評価されます。
あげたリターンが同じであれば、リスクが小さいほどシャープレシオは大きくなり、リスクが同程度であれば、リターンが大きければ大きいほど、シャープレシオは大きくなります。
これはつまり、ファンドの基準価額(リターン)が他のファンドと同程度、上昇する中、リスク(変動のブレ)が小さかった場合、また、リスク(変動のブレ)が同程度である中、ファンドの基準価額(リターン)が大きく上昇した場合に、シャープ・レシオが高くなり、運用は効率的にリターンを計上することができたということで、ファンドマネージャーは高く評価されたりします。
では、先の質問に戻りますが、保有するファンドの基準価額の上昇は、投資対象、投資スタイルが同じカテゴリーの他のファンドと比較し、小さかった場合の、そのファンドを運用しているファンドマネージャーの能力・資質を、シャープ・レシオを元に図ってみましょう。
シャープ・レシオで図る場合、リターンとともに、どのくらいリスクをとっているかを見る必要があります。
相対的に株価の変動率が高い景気敏感株や中小型株、現在の人気株などに投資する割合が高く、ファンドの基準価額の変動率が高い他社ファンドAの基準価額は現在、10000円でした。一方、株価の変動率の小さいディフェンシブ株や大型株、現在、市場から放置されている割安株などに投資する割合が高く、ファンドの基準価額の変動率が低い保有ファンドBも現在の基準価額は10000円で、同じファンドカテゴリーにあったとします。
仮に日本の、また新興国経済の景気見通しが上向き、金融緩和により市場の流動性の高まりを背景に株式市場に資金が流入し、大きな上昇相場になったとします。景気の回復・改善見通しや流動性の高まりから、景気敏感株や、中小型株、人気株に物色が集まり、他社のファンドAの基準価額は20%上がり、1年後に基準価額は12000円になりました。
一方、保有ファンドBは、株価の変動率の小さいディフェンシブ株や大型株、市場から放置されている割安株などに投資する割合が高く、基準価額は5%しか上がらず、1年後の基準価額は10500円にしかなりませんでした。
一方、ファンドAのリスク(変動のブレ)は20%と高く、ファンドBのリスク(変動のブレ)は2%と低い値となりました。
では、ここでファンドマネージャーの運用の評価を図る一つの指標であるシャープ・レシオを用いて計算してみます。
わかりやすくするために、ここでは安全資産の利子率を0%と仮定し、シャープ・レシオを計算すると、ファンドAは、1(20%÷20%)、ファンドBは2.5(5%÷2%)となり、基準価額が10500円にしかならなかったファンドBを運用していたファンドマネージャーが、基準価額が12000円になったファンドAを運用しているファンドマネージャーより優れていることが示されています。
なかなか理解しづらいと思いますので、相場が反対になった時のケースをやるとわかりやすくなるかもしれません。
仮に日本の、また新興国経済の景気見通しが下向き、金融引き締めにより市場の流動性の縮小を背景に株式市場から資金が流出し、大きな下落相場になったとします。景気の落ち込み・低迷見通しや流動性の縮小から、景気敏感株や、中小型株、人気株は大きく売られ、他社のファンドAの基準価額は20%下がり、1年後の基準価額は8000円になりました。
一方、保有ファンドBは、株価の変動率の小さいディフェンシブ株や大型株、現在、市場から放置されている割安株などに投資する割合が高く、基準価額は5%しか下がらず、1年後の基準価額は9500円で持ちこたえました。
ここから言えることは、ファンドAは「ハイリスク・ハイリターン」型のリスク・リターンの取り方で運用し、相場の上昇局面では、基準価額は大きく上がるものの、下落局面では、逆に基準価額は大きく下がってしまいます。一方、ファンドBは「ローリスク・ロー・リターン」もしくは「ミドルリスク・ミドル・リターン」型のリスク・リターンの取り方で運用し、相場の上昇局面では、基準価額の上げは小さいものの、下落局面では、逆に基準価額の下げが小さくなることを示しています。
ということで結論になりますが、同じカテゴリーの中でも他の運用会社のファンドと比べて、上昇相場の時に基準価額の上げが弱いからといって、必ずしも相場に乗り遅れたわけではなく、これは運用しているファンドマネージャーの能力・資質によるものであるかは、「リスク・リターンの取り方」を見なければわからないとの結論に至ります。
よって、表面的な基準価額の推移だけを見るのではなく、ファンドの「リスク」や「リターン」との関係はどうなっているのか、そのファンド・ポートフォリオの変動のブレがどの程度でその時の市場・相場はどうだったのか、また、投資対象・投資スタイルが同じファンド内でのシャープ・レシオのランキング・成績はどうなっているのか、それらをもたらした要因は一過性なものなのか、それともファンドマネージャーの裁量による構造的な能力・資質なのかを見ることが、そのファンドに投資する、もしくは継続して保有する点において、大事だと考えます。
ただ、仮にファンドを選ぶ基準が、ハイリスク・ハイリターンでも、絶対リターン(基準価額の上昇率の高さ)が重要というのであれば、ファンドマネージャーの能力・資質に関係なく、高い変動のブレがあるファンドに投資、もしくは保有し続けるという選択肢も個々人の判断によってはあるのかもしれません。つまり、自分ののぞむ、またはとれる「リスクとリターン」を把握した上で、判断することが一番大事なことだと考えます。
*上記のコメントは筆者の個人的な見解であり、筆者が所属する会社または組織の見解ではございません。また個別銘柄の推奨、商品の投資勧誘を目的としたものではありませんのでご理解賜りますようよろしくお願い申し上げます。(執筆者:中村 貴司
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