国民年金保険料の未納期間が長いと、病気やケガで一定の障害が残っても障害年金を受給することはできません。しかし、その保険料納付要件には「原則」と「特例」があり、特例では長年に亘り未納にしていても直近1年以内に未納がなければよいことになっています。
(遺族年金でも同様。その場合、「初診日」を「死亡日」と読み替える)
(1)原則 = 20歳から、病気やケガで初めて病院に行った日(初診日)の属する月の前々月までの間に、保険料を納めた月と免除を受けた月が3分の2以上であること。
つまり、未納期間は3分の1未満である必要があります。
(2)特例 = 初診日が平成38年3月31日までにある場合は、初診日の属する月の前々月までの直近1年間に未納がなければよい。(ただし、初診日に65歳未満であった場合に限る)
なお、保険料納付要件は初診日の前日において満たしている必要がある。
目次
特例措置により受給できた人の事例
Aさんは、学校卒業後家業を手伝い、そのまま継いで20歳から約32年間、一度も国民年金保険料を払ったことがありませんでした。ところが52歳のとき、事業が破綻して、知り合いの会社に雇い入れてもらいました。それから4年後の56歳のときに、脳梗塞で倒れました。
右半身麻痺の障害が残り、会社を辞め、奥様の介護を受けながら、58歳になった今、2級の障害基礎年金と障害厚生年金で生活しています。障害厚生年金には、奥様の加給年金(家族手当のようなもの)も加算されています。
Aさんは、原則どおりの納付要件では障害年金を受給することができません。直近4年間の厚生年金加入により、特例措置を利用することで、受給できたのです。
もし、Aさんの事業がずっと順調に経営できていたなら、国民年金保険料なんて払う気もなかったでしょうから、障害年金を受給することができなかったはずです(老齢基礎年金も受給できない)。事業破綻後に会社勤めをして、強制的に厚生年金保険料を天引きされていたおかげで、しかも現役のときに倒れたので、障害基礎年金にプラスして障害厚生年金も受給することができたのです。
人生、どのように転がるかわかりませんね。
脳梗塞の後遺症で不自由な生活になってしまったのは不幸なことで、元気で長生きできるほうが幸せに決まっています。しかしAさんの場合は、元気で長生きできても大変な老後になっていたでしょう。
「年金受給」の観点から、Aさんの人生をシミュレーションしてみると
では、Aさんが違う人生を歩んだとして、「年金受給」の観点からシミュレーションしてみましょう。
(1) 65歳まで元気で継続雇用される。
平成27年10月実施予定の改正により、「10年以上保険料納付」の要件を満たし、老齢基礎年金および厚生年金を受給できる可能性がある。しかし、加入期間が短いのでほんのわずかな金額しかもらえない。
(2) 65歳以降も雇用されている間に脳梗塞で倒れ、障害が残る。
65歳以降でも現役で厚生年金に加入していれば、障害厚生年金のみ受給対象となる。しかし、保険料納付要件の「直近1年の特例」は65歳以上には適用されないため、障害厚生年金は受けられない。(老齢年金は、わずかながら受給できる可能性あり)
(3) 60歳前に会社とケンカして退職し、しばらく未納にしているときに障害を負う。
退職後に倒れたら、障害基礎年金のみ対象になるが、直近1年以内にも未納があるので受給できない。(保険料納付期間が10年に満たないので、老齢年金も受給できない)
(4) 事業経営が順調で、ずっと年金保険料を払わないまま年をとる。
年金はもらえないので、働き続けるしかない。子供に負担をかけないよう、ピンピンコロリをひたすら望む。
さて、あなたは日々の暮らしと年金について、どのように考えますか?
(1) 直近2年以内の保険料をまとめて納める
保険料を徴収する権利は2年で時効となるので、2年分を払ってとりあえず障害・遺族年金の受給資格を確保する。
(2) 10年前の分までさかのぼって納める
平成27年9月までの時限措置で、過去10年分までさかのぼって保険料を納めることができる(「後納制度」という)ので、これを利用すれば老齢基礎年金の受給資格の確保も可能。ただし、2年を過ぎた期間については加算金(利子のようなもの)が上乗せされる。後納保険料は、古い順に納める。
(3) 低所得の人は、さかのぼって免除申請する
平成26年4月実施の改正により、2年を経過していない期間についてさかのぼって保険料の免除を申請できることになった。(※外部参照)所得が低くて保険料を納めるのが困難な人にはおすすめ。
※国民年金保険料の滞納については現在、強制徴収の取組みが強化され、悪質な滞納者には財産の差し押さえも行われています。(執筆者:服部 明美)
【外部参照】
国民年金保険料の免除等申請可能期間の拡大(日本年金機構HP)
「国民年金保険料の強制徴収の取組強化」の結果について(日本年金機構HP)