相続・事業承継の対策を考えることの難しさとは何でしょうか?
相続・事業承継を考えた場合、まず、第一に、誰に何を引き継がせるかを決めなければなりません。会社の経営権を誰に引き継がせるか。これが、兄弟がその会社に役員として在籍していた場合、どちらの子供に代表権を譲るか。さらには、後々のことまで考えて、会社の株を誰に対してどのように分割していくかも考えなければなりません。
社長である父親や母親が存命中のときは、まだ、兄弟間の代表権等の争いは何とか抑えは効くかもしれません。両親がいなくなった時点で、代表権がはっきりと明確化されていないときは、もめてしまう要因となってくるでしょう。後継者選びが、事業承継の最初にクリアすべき関門でしょう。
そして後継者が決まったら、あとはいかに後継者に引き継いでいくかです。
これが、また、一筋縄ではいかないこともでてきます。経験を積んでいくこと、取引先や金融機関との人間関係や信用の構築…等々。後継者への事業引継ぎ、これが、第一の基本となってくるでしょう。
なお、万が一の社長の死亡に備えた生命保険、とりあえず事業が軌道に乗るまでの機関の運転資金や社員の給与等に見合う保証は用意しておきたいところです。
目次
相続を考える
第一に来るのは、遺産分割です。例えば、会社の経営権は長男、その他に子供が3人いる。長男以外の子供に何を遺してあげるかを考えておく必要があります。
父親の財産のほとんどが会社の株式で占めているような場合、その分割をどのうようにして行っていくのか…ある程度の財産は、長男以外の子供にも遺してあげたい…このような思いのもと、どうしようか…悩みが生じてきます。
会社の価値を精査することの大切さ
会社の価値はいくら? この悩みの解決には、とにもかくにも、会社の価値を推し量る必要がありあます。今の自分の会社の価値はいくらか? たとえば、M&Aでいくらで買ってくれるのか。特別な営業ノウハウをもっている…特殊な技術を持っている…企業価値を、推し量るのは、相応にむずかしいものです。
売るわけではないのですが、自分の会社の価値を知っておくことも重要でしょう。そして、税金。相続税の評価額はどの程度であろうか。このように、売るとしたらいくらか、相続が発生した時の評価額はいくらか、等の会社の価値を精査してみることが重要でしょう。
そのうえで、会社の株式を始めとした個人の財産の全体の棚卸と分析を行います。そして、子供間の遺産分割を考えて、それなりに公平間のある遺産分割案を考えていく。円滑にことが進むように、きちんとした遺言書も遺しておくことが賢明でしょう。
相続税を考える
続いて、相続税。そもそも税金がかかるほどなのか。税金がかかってくるとしたら、いくらくらいか…その納税はどうやって対処するか…等も考えていく必要があります。
ここでも、万が一のための納税資金用の生命保険等の加入は有効かもしれません。この税金、少しは下げられる余地はないのか…そして、節税の方法を模索していく。
事業承継の場合、相続税、贈与税とも株式の納税猶予の制度がありますので、適用要件をよく確認したうえで検討してみることをお勧めします。
この節税でいえば、会社経営の場合は、相続税というよりは、当面の法人税に目が向いていきます。損金計上できる生命保険に加入して、満期や解約返戻金を取得する段階で、退職金として損金計上するといった、生命保険活用の提案が大きく支持されてきた時代がありました。
度重なる税制の改正で、掛け捨て以外の保険料は、その半額か一定の金額までしか損金が認められないこととなって、節税を第一に生命保険というわけにもいかなくなってきました。
法人税の節税だけを考えるのはNG
会社経営の場合は節税も重要ですが、とにかく、経営の安定化、黒字体質をしっかりと築き上げることが、まずは先決問題でしょう。そして、資金等に余裕ができてきたら、先ほどのような生命保険をつかった退職金の準備等も考えてみるといいと思います。
ただし、法人税だけを考えての対策はNGです。退職金をもらったあとの相続税や所得税をも考えておきたいところです。老後資金として退職金をもらったものの、相当数を残したまま相続をむかえてしまった。
この退職金が現預金として遺されていた場合、その丸々が相続税の課税対象です。生命保険金の非課税枠に余裕があるようでしたら万が一のために、告知不要の一時払いの終身保険に加入しておくのもいいかもしれません。
必要な時には解約返戻金を受け取ることもできます。このように、法人税や所得税でメリットを享受しても、最後に相続税が口を開けて待っているかもしれません。
これが、会社の株のほかにも、個人で賃貸マンションやアパート、貸店舗、などを所有している場合は、もっと複雑にからみあってきます。このあたりが、難しいところです。
あちらをたてれば、こちらがたたず。あらゆる関連する税法やその他の法令も含めて、さらには会社の経営計画などもふまえた全体的な視野で相続・事業承継の対策は考えていくべきでしょう。(荒木 達也)