「相続の失敗事例」の3回目は、せっかく書いた遺言が無効になるお話です。
目次
遺言が無効になる典型的なケース
「書いた遺言に日付がない」、「遺言の一部を代筆してもらった」…。自筆の遺言で無効になる典型的なケースです。ほかに、「署名や押印がない」「ワープロで作った」。これも無効になるケースの典型。
日付についていえば「5月吉日」、これも無効です。遺言の日付は書いた日が完全に特定されないといけません。
内容の一部を訂正(変更)する場合も無効となる原因の一つ。
訂正は、必ず法律(民法第968条2項)にのっとった正式の方法によります。具体的には、
(2) 遺言の欄外または末尾に変更した旨を付記(たとえば○行目削除10字、加入15字など)して署名
(3) 変更した場所に捺印
このすべてが必要です。
つい普段の感覚で修正液や修正テープを使って、無効になるケースも目にします。
時折、ご夫婦で1つの遺言を作る(共同遺言)ケースも見受けますが、これは法律上無効。1人ずつ作りましょう。
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その他に注意したい点は?
無効にはならないけど、書き方によって後で無用の争いや手間を生じる書き方もあります。以下はよくあるケース。
(1) 引き取り手が曖昧な財産がある
財産の中には本人も財産と思わない微妙なものもあります。たとえばNTTの電話加入権とか。こうした雑多な財産も、最終的な引き取り手が決まってないと、そのためだけに遺産分割協議を行う手間が生じます。
「その他一切の財産は○○に相続させる。」この一文を挿入しておくことで、よけいな手間が省けます。
(2) 争いが生じそうなのに「遺言執行者」が決まっていない
不動産の名義変更や預貯金の解約などの面倒な手続きは、相続人自身が行うより第三者である遺言執行者が行う方がスムーズに行きます。とりわけ相続人の間で争いが生じる可能性のあるときは、遺言執行者を決めておきたいものです。
弁護士や司法書士などの専門家の中から選任すると安心ですが、その分、費用もかかります。親戚や友人の中で相続問題にある程度詳しく、公正中立的な人に依頼するのも手です。
(3) 意味不明の記述がある
遺言の中には、どうとでも解釈できる意味不明の記述があります。
「遺産はみんなで仲良く分けろ」では遺言としての意味を持ちませんし、「○○(財産)は長男に委ねる」という書き方では、その財産を長男に相続させるのか、それとも分け方を長男に決めさせるのか、判別できません。
必ず「○○(財産)は○○(相続人)に相続させる」という疑問のない表現で統一すべきです。
(4) 家屋や土地の表記が登記簿謄本と異なる
家屋や土地の表記は、必ず登記簿謄本と同じ表記で書きます。
「○○町1丁目2番地3」といった住居表示は、不動産登記で用いられる所在地表示とは異なるケースが多いのです。登記簿謄本(登記事項証明書)と異なる表記でなされた遺言を法務局に持って行っても、まず登記には使えません。不動産について遺言を書くときは、必ず登記事項証明書または固定資産税評価証明書を手元に置き、その表記どおりに書きましょう。
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しっかりした「遺言書」で避けられる家族の争いもある
以上のように、特に法律に詳しくない普通の人が、自力で有効な遺言を書き上げるのは大変な作業です。高齢者の場合、さらにハードルは高くなります。相続の専門家が、一様に公正証書遺言を推薦するゆえんです。
しかし逆に言うと、一般の方でも何度か書き直しをする時間的余裕と精神的余裕、さらに相続について勉強する熱心さがあれば、自力で遺言を書き上げて、数万円から10数万円と言われる公正証書遺言の費用を省くことも可能です。
しっかりとした内容の遺言を残すことによって、避けられる家族の争いもあります。一度、遺言についてお考えください。(執筆者:綾田 亨)