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仕事柄、相続の実務家と言われる法律家や税理士さんに、初めてお会いした時は、必然的に共通項である「相続」に係るお話をするわけですが、専門家の方々でも勘違いされているケースが多々あります。
この1月1日以降に発生した相続については、相続税制が改正され、実質、増税ということになりますが、多くの方は、某制度を利用することにより、実際は、それほど、対象にならないと思っていらっしゃいます。
では、その某制度とは…? これは、小規模宅地の特例という制度です。適用できる種別は、特定事業用、特定居住用、貸付事業用と3種類に分類されますが、ここでは、特定居住用の小規模宅地の特例を指します。
小規模宅地の特例とは
この制度は、適用要件に該当すれば、土地の評価額を▲80%とすることができるという制度です。例えば、相続税法上の評価額で5,000万円の土地があった場合、適用要件に該当した場合、1,000万円の評価額となります。
この1月より、基礎控除と呼ばれる、相続財産(課税価格)の総額より控除することができる基礎控除が従来の▲40%となりました。今までは、4人家族でお父さんが亡くなっても、相続財産が8,000万円を超えなければ、相続税の申告すら不要でしたが、今年以降に発生した相続では、4,800万円を超えた場合、相続税の申告が必要となります。
都内で戸建を所有されていらっしゃる家庭であれば、結果的には相続税が発生しなくても、相続税の申告自体は必要となるケースが増えるでしょう。
上記のようなケースも含め、配偶者の税額軽減により、配偶者の相続分が1億6,000万円以下、或いは、法定相続分までのうち、どちらか多い方の価格までであれば、非課税とはなりますが、この制度を存分に利用してしまうと、今度は、2次相続の際に、困ったことが起きる可能性も「大」です。
「小規模宅地の特例」の厳しい現実
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そして、多くの専門家が、この「特定居住用」の小規模宅地の特例を利用できるから、「大丈夫」と仰いますが、この小規模宅地の適用要件が実は結構厳しいという現実があります。
1つめのハードルとして、その土地が被相続人(亡くなられた方)が居住していた土地か…。
被相続人の居住していた土地であれば、配偶者、同居親族はこの制度を利用できますが、同居親族がいない場合、つまり同居していない親族が相続する場合には、通称「家なき子」と呼ばれる要件に該当するかがポイントです。
・被相続人には先の要件で出た配偶者、及び同居親族が存在しないこと
・相続開始前の3年以内に、相続人及び相続人の配偶者の持家に居住したことがないこと
・相続税の申告まで、所有していること
等が挙げられます。
よく勘違いされるケースとしては、配偶者がいても「家なき子」を利用できると思ってしまうケース
です。
そして、もし、被相続人がその土地に居住していないものの、その土地が、被相続人と生計が一緒であった親族が居住されている土地である場合、配偶者、或いは当該生計が一緒であった親族が相続した場合にのみ適用を受けることができます。
一般的に、平成25年度税制改正により、面積要件の緩和や、構造上の区分要件の緩和をはじめ、被相続人が介護認定・要支援認定・障害者支援認定等を受けていた場合の施設入居者である場合等でも適用できる等と緩和されたイメージはありますが、適用要件は結構難しく、実際にはご相談を受けるうち、半分程度の方しかご利用できません。
また、誰にアドバイスされたのか…はここでは問いませんが、二世帯住居を建築された方で、区分登記をされた方の場合、細かくは記載しませんが、この制度の摘要を受けるハードルが一気に上がってしまいます。
当然として、上記は遺産分割がスムーズにいって初めて適用できるか…といったお話ですが、何れにしても、さも簡単に「小規模宅地が利用できるから…」と高を括っていては、いざというときに、大きなダメージを受けかねません。(執筆者:佐藤 雄樹)