相続の相談会をはじめ、士業の方からのご紹介のお蔭もあり、相続に悩む様々なお客様とお会いする機会を頂戴しますが、実際にお客様自身も相続について非常に勉強なさっている方もいらっしゃいます。
非常に好ましいことではありますが、可能であれば、そのような方だからこそ、我々からの説明等については、「まず、聞いて」、その後、「質問する」といった手順が望ましいと思います。
ところが、実際は、勉強なさっている多くの方は、我々からの説明等を遮ってしまい、「~のことなら知っている」と仰る方が少なくありません。
先達、ご相談いただいた方も、正にその典型でした。法律のことも、税金の事も、不動産の事も、全部分かっている…と。そして、そのベースとなる参考書とやらは、時折、ビジネス雑誌が出版する「相続特集」でした。
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勿論、そのようなお客様なので、実際の相続についてのお話も、トンチンカンだったりしました。生命保険の使い方やら、遺言の作り方やら、相続税の計算の仕方やら…良いところまでいっているんですが、肝心の「キモ」の部分であったり、参考書には書いていない実務上の運用面でのお話については、当然、ご存じな訳もなく…といったかたちでした。
ある意味、そのような方々に正しい知識を持っていただけるように軌道修正するのは難しい点もありますが、私は、真正面から否定しません。
まずは、お客様が仰る通りの対策・手続きをしたら、「どうなるでしょう?」と一緒に考えることにしています。特に実際の対策等ではなく、簡単な手続き等では、まず、ご自身の思うがままにやっていただくこともあります。
簡単な事例からいえば、相続対策を考えたいお客様がいた時に、まず、ご本人に推定相続人を確定させなければならないため、戸籍の取得の作業についてご案内します。一般的には、行政書士や、司法書士に依頼し、取得する事。かかる費用や報酬について…そして、それは、何故、彼(女)らに依頼するのか…をご案内します。
…が、大抵の方は、「戸籍の取得なんて役所に行けばスグだから…無駄に法律家にお金払ってまでやってもらう内容じゃない!」と仰る方もいます。しかし、大抵の方は、数日後、「戸籍を取得するのがこんなに面倒で大変だとは思わなかった…」と半分、お詫びに近い形で、行政書士や司法書士の紹介依頼を受けることがあります。
また遺言作成等についても、公正証書遺言を希望される方などは、何故、司法書士や行政書士に依頼する必要があるのか…を説明するものの、司法書士や行政書士等に「お願いする意味もなければ、費用も勿体ない」等と仰る方もいらっしゃるため、ご自身に直接、公証役場に行っていただくこともあります。が、こちらも同様、そもそもの自身の財産の特定をはじめ、必要書類の準備、並びに何よりも公証人とのやりとりの煩雑さを痛感し、紹介依頼を受けることが多々あります。
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不動産の相続税法上の評価も、一般的に多くの方が利用される財産評価基本通達にならう形での評価額と実勢価格があまりにも乖離がある際、不動産鑑定の活用を選択として挙げましたが、「相続税の評価なんて税務署に行けばどうにでもなる!」と仰っていましたが、そもそも相続税の申告自体、ご自身でできるほど、簡単なものでもなく、且つ、上記に挙げた財産評価基本通達に基づく評価には、限界がある旨をようやく理解いただいたケース等もあります。
「餅は餅屋」という言葉があるものの、では、本当の意味での相続の専門家は誰なのか…相続税のことなら、税金だから、税理士であれば、誰でも良いのか…実のところ、相続税、いわゆる「資産税」に強い税理士は、10人に1人程度しかいない(あくまで私の実体験上の感覚的な割合です)等、確かに、誰に聞いて良いのか分からないこともあるかと思います。
とはいえ、「相続」等のあらゆる専門分野の知識を要する問題は、このような便利な現代なのですから、インターネット等で「相続専門」と検索すれば、「自称」ではありますが、相続に強い専門家を見つけることができるかと思いますので、まずは、そのような専門家に相談してみることに意義があるのではないかと思います。(執筆者:佐藤 雄樹)