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先日新聞を読んでいたら日銀の黒田総裁が、労働組合の中央組織である連合が主催する新年交歓会に出席し、「労働者側に強い追い風が吹いている」と、労働組合に賃上げの要求を促すような挨拶を行なったというニュースが、掲載されておりました。
私はこのニュースを見て、黒田総裁の賃上げに対する強い思いを感じると共に、「トリクルダウン」という経済用語を思い出しました。
トリクルダウンとは「富裕層が経済的に豊かになれば、貧しい者にも自然に富が滴り落ち、社会全体が豊かになる」という理論、または仮説になります。しかし現実には多くの大企業が、過去最高益を更新しているにもかかわらず、十分に賃上げが実施されていない、つまりトリクルダウンが起きていないのです。
黒田総裁が冒頭のような挨拶を行なったのは、トリクルダウンが起きていないことに対する、危機感があったからだと考えております。
しかし公務員の方が心配すべきなのはトリクルダウンならぬ、3階部分の年金に発生している、「トリプルダウン」だと思うのです。
目次
職域加算のトリプルダウン
公的年金には原則65歳になった時に支給される「老齢年金」、障害になった時に支給される「障害年金」、死亡した時に支給される「遺族年金」の3種があります。
平成27年10月に共済年金が、厚生年金保険に統合されるまで、公務員の方は次のような年金を受給できました。
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しかし平成27年10月の統合以降に、新たに公的年金を受給する権利を取得した公務員の方は、次のような年金を受給することになります。
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この表を見てわかるように、職域加算は3種類とも受給できなくなりましたので、公務員の3階部分の年金に、トリプルダウンが起きていると考えているのです。
ただいきなり廃止するのではなく、経過措置が設けられており、統合前の期間(公務員になってから平成27年9月まで)を元に算出された職域加算は、引き続き受給できます。
また公務に基づく病気やケガ(通勤中を除く)により障害になったり、死亡したりした時には3階部分となる、「公務(職務)障害年金」や「公務(職務)遺族年金」を受給できます。
しかし逆にいえば、平成27年10月以降に公務員になった方が、公務外の病気やケガにより障害になったり、死亡したりした時には、職域加算を全く受給できなくなります。
「職域加算=年金払い退職給付」ではない
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職域加算は廃止されても、原則65歳になった時には、職域加算の代わりに年金払い退職給付を受給できるのだから、トリプルダウンではなく、ダブルダウンだと反論する方もいるかと思います。
しかしそれでも私は、トリプルダウンが起きていると主張したいのですが、それは「職域加算=年金払い退職給付」ではないからです。
その理由として職域加算はすべてが終身年金ですが、年金払い退職給付は半分が終身年金で、もう半分は支給期間が10年または20年(一時金に変更することも可能)の、有期年金になります。
また現役時代の月給や賞与の平均額が36万円で、かつ40年勤務したと仮定した「モデル年金月額」は、職域加算なら2万なのに対して、年金払い退職給付は1.8万円となり、給付水準は約1割減になります。
その他の年金払い退職給付のデメリットとしては、年金の給付水準を国債の利回りなどに連動させるという、職域加算にはない特徴があるので、国債の利回りなどが低下すれば、年金額が減額してしまうのです。
なお年金払い退職給付の有期年金を、すべて受給する前に死亡した場合、残りの期間を元に算出した一時金が、一定の遺族に対して支給されますので、これはほんのわずかですが、職域加算の代わりになります。
民間の保険や確定拠出年金で備える
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もうすぐ定年を迎えるという、平成27年10月以降の期間が少ない方は、職員加算が廃止される影響を、あまり受けないで済みます。
しかし平成27年10月以降の期間が多い方は、職員加算が廃止される影響を受けますので、原則65歳になった時、障害になった時、死亡した時に、十分な保障が受けられるのかを、調べておいた方が良いと思うのです。
もし保障が十分でないとなれば、それを補う次のような民間の保険に新たに加入したり、保険金の金額を増やしたりします。
・障害になった時:傷害保険、介護保険
・死亡した時:生命保険
また公務員の方も、個人型の確定拠出年金に加入できるようにする案が検討されているので、もし法改正が実施されたなら、この制度の利用を検討しても良いかと思います。(執筆者:木村 公司)