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答えは「YES」
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この答えは、「YES」である。
日本経済新聞(2016年2月20日)によれば、金融庁は生命保険協会に対して、銀行の販売する保険商品の手数料の開示を求めた。
保険の販売は銀行経営にとって、とても魅力のあるものになっている。保険の販売を行っても銀行はリスクを採ることはない。単に、契約の仲介をしているだけ。
そして、銀行の販売商品の主力は一時払終身保険。同じ1,000万円を預金で受け入れると、自行で運用しなければならない。
銀行の場合、原則、運用というと貸し出しということになる。1,000万円を貸し付けに回してどの程度の利益を稼げるのか?
一方、1,000万円で保険の販売をすると、販売した時点で、7%の手数料(日経新聞)を得たとすれば、手数料は70万円。
リスクを採ることなく利益率7%を達成できるのであれば、きっと貸付よりも利益率は高い。
「日銀によるマイナス金利政策で収益の確保が難しくなった銀行が、保険販売による手数料稼ぎに力を入れる」と同紙は指摘しているが、マイナス金利の導入以前から保険の販売には力を入れている。
銀行だけ開示するのはなぜ
手数料を開示させる意味は何だろう? それは、銀行が手数料の高い保険を選り好んで販売しているということにならないようにしたいからである。
そのためには、手数料の総額が○○億円という総額表示方式では意味がない。
Bという保険の保険料は月額2万円(手数料は3,000円)
「あなたのニーズを考えると、保険料はBが高く、手数料はAが高いのですが、Bという保険をお勧めします」というような勧誘をするためには、商品ごと、契約条件ごとに手数料が開示されるべきだろう。
もちろん、開示すべきは銀行だけではない。手数料の開示が予定されている複数の保険会社の商品を扱う乗合保険代理店のみならず保険会社の直販社員なども開示すべきである。
付加保険料と手数料は同じではない
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手数料を開示するときに気をつけたいのが付加保険料というものである。
手数料と付加保険料は混同されやすい。
付加保険料というのは、保険料のうち会社の経費部分というのが一般的な説明になるだろう。
だから、手数料は付加保険料の中から支払われると考えると正しくない。手数料は会社の収益の中から支払われる。付加保険料は収益の一部であっても全部ではない。
極端な話、付加保険料がゼロでも手数料は支払うことができる。保険会社の収益の柱は、死差益といわれるものである。
死差益は付加保険料から生まれるものではない。純保険料(保険料のうち付加保険料以外の部分)から発生する。ライフネット生命は、付加保険料を公開している。
同社の資料を読めば付加保険料がどのようになっているのかよくわかる。
それでも、付加保険料の部分の大きい保険であれば、手数料をたくさん出せるだろうという類推は成り立つ。
手数料の源泉
付加保険料以外に手数料の源泉となるのは(前述の)死差益である。予定していた保険金の支払いと実際の保険金の支払いのギャップが、死差益ということである。
死差益が多く見込まれる保険は手数料をたくさん出すことができる。保険金を(保険会社が)必ず支払うことになる終身保険は死差益があまり見込めない。
それより、保障期間が一定の範囲で終了する定期保険のほうが死差益は期待できる。
会社の倒産リスク
死差益も期待できず、付加保険料も十分にとっていない保険で手数料だけを支払うと、保険会社はビジネスリスクを抱えることになる。
手数料をたくさん支払うということは、会社の収益を悪化させることになる。
消費者としては手数料が開示されていて、あまり手数料が手厚くなっている場合には、保険会社の財務健全性の観点からも、その商品は避けたほうがよいのかもしれない。
すべての保険商品について、もれなく、個別方式で手数料が開示されることが消費者の利益につながると思う。(執筆者:杉山 明)