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「マイナス金利」導入後の不動産市場
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平成28年の地価公示が発表され、8年ぶりに上昇し、やっとリーマンショックからの回復傾向が見られる不動産市場です。
しかし、この地価公示の調査時点は今年の1月1日時点であることに注意が必要です。
不動産市場の先行指標となる株式市場はそれ以降大荒となり、1月29日にマイナス金利政策を発表しても逆に株価が下がる事態が生じてしまいました。
3月に入り多少落ち着きを取り戻してきたとはいわれていますが、今段階では景気の回復にホントに効果がある政策か否か、まだわからない状況であります。
ただし金融機関ではこのマイナス金利にすばやく反応し、銀行は定期預金金利を下げました。
そしてこれが住宅ローンや不動産投資の調達金利を押し下げ、不動産市場にとってプラスの影響をもたらすという見方があります。
「アパートローン」が過去最高の新規貸し出し
しかしちょっと注意すべき点は、日本銀行の3月24日のレポートによると、すでに2015年時点で地方銀行によるアパートローンが過去最高の新規貸出をしている点です。
その理由としては個人の借り入れは相続税の節税効果を狙ったものであり、貸し手の地銀は融資先に悩んだ結果、不動産融資に積極的になったからと考えられています。
昨年の相続税改正の影響で、ただでさえアパート融資が増えているのですが、今回のマイナス金利により地方銀行はより厳しい運用を迫られ、不動産融資に積極的に成らざるをえません。
その結果リスク管理が十分でない不動産融資が増えることが予想されます。
それは確かに短期的には新築貸家住宅の供給を促し、不動産市場を活性化させるものかも知れません。
ですが、長期的には修繕計画が甘かったり、オーナーの節税がメインの目的で借り手のニーズ対応していない貸家住宅は、人口に加え世帯数も減っていく今後の社会では、もしかするとほんの10年ぐらいでその市場価値を失ってしまうかも知れません。
そしてもっと短期的発生する問題として、相続税の節税目的のアパートがマイナス金利の影響でどんどん融資が行われ新築の供給が進むことで、既存のアパートの市場価値の劣化が増すことも考えられます。
もちろん古いアパートも、一部は所有者の努力により、リフォームやリノベーションにより新たな価値をふきこんで再生される事例もあります。
が、”めんどくさい”ため、オーナーが空き家になってもそのまま放置している場合が多くひどい時は相続放棄をして、所有者としての責任を回避する事例も出ているようであります。
空き家問題が深刻化していく
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このように空き家問題は賃貸アパートでも起こりうる問題であり、
相続税の改正の影響下では、マイナス金利が老朽化アパート等の空き家問題を加速させる懸念があると考えられるのです。
一口に不動産市場といっても、J-REITなどのピカピカの新築物件を中心に取得するプレイヤーのための新築市場や、その他多くのそこまで資金的余裕のないオーナーの中古市場などに細分化され、それぞれのプレーヤーに対し、マイナス金利が与える影響は様々だと思います。
従ってこの前例のない政策を自分にどう活かしていくかは、自分がどんな不動産市場でのプレーヤーなのかという立ち位置を見極める必要がありそうです。(執筆者:田井 能久)