毎月行っている相続相談会で、必ず質問を受けるのが、こちらの質問。
目次
「借金」の2つの性質
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「借金」については、2つの性質があります。
1. 「被相続人が借金をする」
「被相続人(つまり、両親や祖父母)が借金をする」ことが、相続対策になるのか? という論点。
こちらは、以前、こちらのコラムでも触れさせていただきました。
2. 「相続人が、被相続人から借金をする」
2つ目はどんな論点かというと、
「相続人(つまり、子・孫)が、被相続人(両親・祖父母)から借金をする」ことは、相続対策になるのか? という論点が挙がります。
今回は、こちらの後者について、フォーカスしていきますが、
子・孫世代が、住宅(土地・建物)を購入しようとされる際に、親・祖父母世代から「資金援助」がされる場合のケースを想像されると分かりやすいかもしれません。
「住宅取得資金贈与の非課税枠」とは
住宅については、「住宅取得資金贈与の非課税枠」という制度があり住宅取得に係る契約締結日が平成28年に締結されたものであれば、
・ それ以外の住宅用家屋に分類される場合…700万円迄
がその上限となります。
つまり、子・孫世代が、住宅取得(購入・建築)される際に、上記の親・祖父母世代から資金援助を受ける場合に、上記の範囲内で非課税であれば、贈与税が課税されません。
また、既に相続時精算課税制度を利用されていない子・孫世代であれば、上記の限度額に暦年贈与の非課税枠として「110万円」を加えることも可能です。
上記のように、「住宅取得資金贈与の非課税枠」と「暦年贈与」の組合せであれば、以下が「資金援助」における非課税枠の上限となります。
・ それ以外の住宅用家屋の場合…810万円
※「相続時精算課税制度」や「暦年贈与」についての「贈与税と相続税の関係等」の詳細の説明は割愛します。
相続時に生じる思わぬ誤算
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多くの方が、このあたりまでは、理解されていますが、ここで多くの方から、
という相談が寄せられます。
きっとマンションの販売センターや仲介業者の方から、「親・祖父母世代から、お金を借りてはどうか?」と提案されているのか? と思います。
少しでも「自己資金」を増やした方が、融資も通りやすいですし、何よりもより高額な物件や建物を購入してもらえるチャンスですから。
上記のような提案の際に、こんなこと、言われませんでしたか?
「きちんと金利を1%に設定しておけば、問題ありませんよ!」
「返済履歴を通帳などに記帳しておくことが重要なんです!」
「金銭消費貸借契約書の雛形は、インターネットで簡単にダウンロードできますよ!」
「金銭消費貸借契約書は、必ず、公証役場で確定日付を入れておきましょう!」
「これで、相続の時も安心ですね!」
上記のように、最もらしく、且つドヤ顔で説明されます。
確かに「贈与税」の観点から言えば、仰る通りですが、それは「相続税」の点からみるとどうなのでしょう?
もちろん、この借入から返済をコンスタントに続けていれば、さほど問題ないかもしれませんが、不運にも、この借入から相続が近いと、実相続時に思わぬ誤算が生じます。
そう、それはアナタが借りたとされる数百万、或いは数千万円は被相続人にとって『貸付金』に該当します。
つまり「預金」から「貸付金」という項目に変わっただけであり、あくまで「相続財産」に変わりはありません。
もちろん、どんなに返済をしていても「返済」するということは「現預金」が増えるだけなので、これだけでは相続財産は減るわけではなく、結果的に相続財産は変わりません。
この返済金の内、非課税枠の範囲内で親・祖父母世代から贈与を受けたりすれば多少の効果はあるかもしれません。
しかし将来、相続が発生したときに他の相続人から「特別受益」だと主張されたりする危険性は、否定できません。
「借入」は相続対策には有効ではない
親・祖父母世代から、上記のような形式で借入をすること時代が「節税対策」として有効か? といえば、決して有効だとは言えません。
上記のような「相続対策」として「抜け穴」的に捉えられるものは、実際、有効ではありませんし、現状、有効だとされる「抜け穴」的な「節税対策」も、昨今話題の「タワーマンション節税」のように排除される傾向にあります。
とはいえ自己資金が増えることは上記の通り住宅ローンの審査上、有利になり、より良質な住宅を手に入れるチャンスにもなります。
本来の目的を見据え行うのであれば「親・祖父母世代」からの「借入」も一概に「無意味」とは言えず「有効」なのかもしれません。(執筆者:佐藤 雄樹)