最終更新日時:2019年10月18日
目次
国民年金の強制徴収拡大で37万人程度が対象
日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の方は、厚生年金保険の加入者や、これに扶養されている年収130万円未満の配偶者を除き、国民年金に加入して、自分で保険料を納付しなければなりません。
近年は60%程度(平成30年度は68.1%)に低迷している、国民年金の保険料の納付率を向上させるため、厚生労働省と日本年金機構は強制徴収する対象を、平成30年度から再び拡大しました。
具体的には強制徴収する基準が、「年間所得が300万円以上で、未納月数が13か月以上(年間所得が350万円以上の場合は7か月以上)」から、「年間所得が300万円以上で、未納月数が7か月以上」に変更されたのです。
このような基準の変更により、新たに1万人程度の方が強制徴収の対象になるため、強制徴収の対象者は37万人程度まで増えると試算されております。
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最終催告状を無視すると強制徴収の手続きが始まる
国民年金の保険料の強制徴収とは、期限を指定して「督促状」を送付し、その期限内に納付しない場合には、預貯金、自動車、給与などの財産を、差し押さえするというものです。
国民年金の保険料の徴収権に関する時効は、納付期限(原則として翌月の末日)の翌日から起算して2年ですが、この督促状の送付は時効の進行を中断する効果があるため、2年が経過した後でも、強制徴収が実施される場合があるのです。
なお国民年金の保険料は配偶者や世帯主が、連帯して納付する義務を負うので、自分自身の財産だけではなく、配偶者や世帯主の財産も、強制徴収される可能性があります。
また督促した際には保険料に加えて、年14.6%(納期限の翌日から3カ月が経過するまでは年7.3%)の延滞金が徴収されるので、かなり厳しい処置です。
督促状送付の流れ
国民年金の保険料の滞納者に対して、いきなり督促状を送付することはなく、一般的には「催告状 → 特別催告状 → 最終催告状 → 督促状」という手順を踏みます。
この中の最終催告状は、自主的な納付を促す最後の通知になり、これに指定された納付期間までに保険料を納付しないと、強制徴収の手続きが始まりますので、無視するのはとても危険です。
また強制徴収を避けたいという方は、最終催告状以前の段階で、催告状の中に記載されている年金事務所などに連絡し、分割納付や免除申請について、相談してみるのが良いと思います。
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強制徴収の基準は毎年のように変更され厳しさを増している
国民年金法には従来から、こういった強制徴収の規定はあったのですが、厳しい取り立てはあまり実施されておりませんでした。
しかし近年は厚生労働省や日本年金機構の方針が変わり、特に収入があるのに保険料を納付しない悪質な滞納者に対しては、厳しい取り立てを実施しているのです。
大きく方針が変わったのは平成26年度からで、「年間所得が400万円以上で、未納月数が13カ月以上」に該当し、かつ自主的な納付に応じない方に対しては、強制徴収の取り組みを強化しました。
その後は次のように、強制徴収の基準を毎年のように変更しており、年々基準が厳しくなっております。
平成27年度~
年間所得が400万円以上で、未納月数が7か月以上
平成28年度~
年間所得が350万円以上で、未納月数が7か月以上
平成29年度~
年間所得が300万円以上で、未納月数が13か月以上(年間所得が350万円以上の場合は7か月以上)
平成30年度~
年間所得が300万円以上で、未納月数が7か月以上
平成31年(令和元年)度~
前年度と同じ基準で、強制徴収を行っていくようです。
年間所得とは自営業者であれば、年収から必要経費などを引いたものになり、また会社員であれば年収から、給与所得控除などを引いたものになります。
そのため年収で考えれば、もう少し金額は高くなりますが、決して高額所得者に対してだけ、強制徴収を実施しているわけではないのです。
なお会社員の方は、年末調整の際などに渡される源泉徴収票を見ると、自分の年収(支払金額)や、給与所得控除を引いた後の金額(給与所得控除後の金額)などがわかります。
ペナルティとして市区町村は保険証の返還を求める
国民健康保険の保険料の納付を滞納した時は、市区町村から納付を催促され、それでも納付しなかった場合には、市区町村は「被保険者証」いわゆる保険証の返還を求め、その代わりに数カ月で有効期限が切れる、「短期被保険者証」を交付します。
このように短期被保険者証を交付するのは、定期的に市区町村の窓口に来る機会を作り、その時に保険料の納付を催促したいからです。
また短期被保険者証を交付した後に市区町村は、滞納者に次のような政令で定める特別の事情があるかを確認し、それがなければ短期被保険者証の返還を求め、その代わりに「被保険者資格証明書」を交付します。
(2) 世帯主やその者と生計を一にする親族が、病気やケガになった
(3) 世帯主がその事業を、廃止または休止した
(4) 世帯主がその事業について、著しい損失を受けた
(5) 1~4までに類する事由があった
被保険者資格証明書の交付を受けている間は、診療にかかった費用の全額を、病院などの窓口で支払う必要があり、後日に申請を行って、一部負担金(医療費の2~3割)を除いた、医療費の8~7割の還付を受けることになります。
なおこういった保険証に関する処分、保険給付に関する処分、保険料その他徴収金に関する処分に不服がある時は、処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内であれば、国民健康保険審査会に対して、審査請求できる場合があります。
郵送料などの費用はかかりますが、審査請求の費用はかかりませんので、市区町村の対応に納得できない方は、それぞれの都道府県の国民健康保険審査会に連絡してみましょう。
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国民年金の滞納者にも保険証の返還を求められる
国民年金と国民健康保険は別々の制度のため、このように保険料の納付を滞納した場合の取り扱いも、制度によって違ってきます。
しかし法律上では国民年金の保険料の滞納者に対して、国民健康保険で使われるペナルティを課すことができるのです。
その法律とは平成19年7月に制定された、「国民年金事業等の運営の改善のための国民年金法等の一部を改正する法律(国民年金事業等運営改善法)」になります。
この法律を読むと市区町村は、国民年金の保険料の納付を滞納している方に対して、国民健康保険の保険証を還付させ、短期被保険者証を交付できると記載されているのです。
詳細については厚生労働省のサイトの中にある、「国民健康保険(市町村)との連携について 国民年金保険料等の未納者に対する国保短期被保険者証の活用(pdf)」というページを参照して下さい。
市区町村の判断なので…
あくまで「短期被保険者証を交付できる」であって、「短期被保険者証を交付しなければならない」ではないので、市区町村の判断にまかされております。
またほとんどの市区町村は、住民からの反発を恐れ、国民年金の保険料の滞納者に対して、保険証の返還を求めることに、抵抗を感じております。
しかし国民年金の保険料の納付率を向上させたい、厚生労働省と日本年金機構の意向を受け、あなたが住む市区町村でも、国民年金の保険料の納付を滞納した時に、国民健康保険の保険証を取り上げられる日が来るかもしません。
どの世代でも払い損にはならない国民年金
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厚生労働省のサイトの中にある、「年金制度における世代間の給付と負担の関係について(pdf)」というページを見ると、国民年金の加入者が60歳時点の平均余命、つまり80歳程度まで生きた場合、若い世代でも納付した保険料の1.5倍の年金が受け取れると試算されております。
つまり決して払い損になることはなく、また社会保険料控除による節税分を加味すれば、更にお金が戻ってくるので、やはり国民年金の保険料は、きちんと納付すべきだと思うのです。
また保険料を納付するだけの金銭的な余裕のない方は、住所地の市区町村の窓口に行くか、もしくは郵送により、免除申請の手続きを行いましょう。
原則65歳から支給される老齢基礎年金の2分の1は、税金を財源にしているため、例えば全額免除を受けた時は、後日に保険料を追納しなくても、保険料を全額納付した場合の2分の1を受給できるのです。
それに加えて令和元年10月以降になると、老齢基礎年金を受給できる一定の低所得者は、月額5,000円程度の老齢年金生活者支援給付金を受給できます。
各種の免除を受けた期間は、老齢基礎年金を受給するために必要な、原則10年の受給資格期間に反映されるため、これからの免除申請は老齢基礎年金のためだけでなく、老齢年金生活者支援給付金のためにもなるのです。 (執筆者:木村 公司)