「パートは扶養の範囲で」と決めて働いているE子さん。
というのがその理由です。
しかし、そこには大きな誤解がありました。
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目次
「夫は2人分の厚生年金保険料を払っている」は間違い
「配偶者を扶養しているサラリーマンは、2人分の厚生年金保険料を払っている」と思っている人が、結構います。E子さんも、その一人。
しかし、それは誤解です。夫が払っている厚生年金保険料は1人分だけ。標準報酬月額が同じなら、扶養する配偶者がいてもいなくても保険料は同額です。
「払ったことにしてもらえる」のは、国民年金保険料だけ
では、「厚生年金保険料には被扶養配偶者の分も含まれている」といわれるのは、どういう意味でしょうか。
それは、国民年金保険料のことです。
サラリーマン(国民年金の第2号被保険者)とその被扶養配偶者(第3号被保険者)の基礎年金(国民年金からの給付)の財源は、厚生年金保険の制度から国民年金へ「基礎年金拠出金」として納付されています。
つまり、厚生年金保険料には国民年金保険料に相当する分も含まれており、サラリーマンに扶養されている配偶者の国民年金保険料は厚生年金に加入している人たち全体で負担している形になります。
離婚したら夫の厚生年金を分けてもらえるが…
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公的年金の給付には、事由別に「老齢」、「障害」、「遺族」の3種類ありますが、ここでは「老齢」に絞ってご説明しています。
これまでの説明で、E子さんが扶養に入っている期間について老後に受給できるのは国民年金からの老齢基礎年金だけだということがお解りいただけたでしょうか。
老齢厚生年金は、原則として、会社勤めをしていたときに自分で保険料を納めた期間分だけ、受給できます。
しかし、扶養に入っていた期間について、例外的に老齢厚生年金が受給できるケースもあります。それは離婚して2年以内に年金分割の請求をした場合です(離婚時の年金分割制度については日本年金機構のHPをご参照ください)。
厚生年金は夫婦で納めたものと考える
婚姻期間中の厚生年金保険料は夫婦で共同して納めたものである、との考え方によるものですが、あくまでも1人分の年金を2人で分ける(共働きの期間は、たして2で割るのが上限)といったイメージです。
そして、分割できるのは婚姻期間中(3号分割は平成20年4月以降の婚姻期間中)の厚生年金部分のみ。夫の全年金額の半分がもらえるわけではなく、試算すると案外少ないと感じるはずです(それでも、持って行かれる夫側にとっては非常に大きな痛手です)。
また、これから受給する人は、夫の厚生年金に付く家族手当ともいうべき「加給年金」は夫が65歳になったときから妻が65歳になるまでで、その後、妻の老齢基礎年金に付く「振替加算」は本当にわずかな金額です。
そのため、「夫の遺族年金が支給されるまで待っている」なんて笑えない話もあります。
「自分の年金」を増やしたほうがいい
以上のように、夫が納めている厚生年金保険料は1人分であり、妻が扶養に入っていた期間については基本的に1人分の厚生年金で2人が暮らしていくのです。
ですから、健康状態や家庭の事情等の環境が許すなら、存分に働いて社会保険に加入し、死ぬまでもらえる自分の厚生年金を増やしたほうがよいと、私は思います。
そして、老後は2人の年金を合わせた生活設計をおすすめします。(執筆者:服部明美)