不動産の図面には、お客さんは見ることのできない秘密の暗号が隠されていることをご存知でしたか?
その暗号の意味がわかれば、お客さんには見えないところでやり取りされる「お金の流れ」が理解できます。
目次
人生で引っ越しする回数は平均で3回ほど
1996年に厚労省が実施した人口移動調査によると、日本人の生涯の平均移動回数は3.12回(男子3.21回、女子3.03回)だそうです。
なかには10回や20回も引っ越したことがある、なんて飽きっぽい人もいるでしょうが、平均値を見れば「住まいを変える」ということはそう何度も起こることではないことがわかります。
住まいを購入するとなるとなおさらで、ほとんどの人にとって住宅購入は「一生に一度のイベント」ではないでしょうか。
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営業マンにとって無知なお客はカモでしかない
それだけに、年間何十軒もの物件の取引を行なっている営業マンは、お客さんと比べようがないほどの経験値を持っているといえます。
そして、デキる営業マンほど、お客さんとの圧倒的な情報格差を武器にした様々なセールストークを展開して、お客さんを
「今決めないと他の人に取られてしまう」
という気持ちにさせていきます。
そんな営業マンにとっては、お客さんがカモに見えるに違いありません。
私たち消費者が、不動産の取引で後悔することのないよう、自分の身を自分で守るには、やはり学習しなければなりません。
営業マンと同等の不動産に関する知識を身につけることは無理ですが、彼らの手の内を知ることで、彼らの意のままに誘導されてしまうということは防ぐことができるはずです。
そこで、今回は不動産の図面を材料にして、不動産業界で行なわれていることをみなさんに明らかにしていくことにしましょう。
家の販売図面には何が書かれているのか
家の購入を検討するときには、多くの人が不動産会社を訪ね、その業者が取り寄せた物件の販売図面を見せられます。その販売図面には、何が書かれているでしょうか。
ほとんどの図面では、現地の区画の概略や地図、セールスポイント、建物の間取り図などが示されていて、下のほうに物件種目、価格、所在地、面積、権利関係、地目(不動産登記法上の土地の用途)、本体設備などが記されています。
ここでは図面の下段の部分に注目してください。仲介業者(不動産会社)の名称や連絡先が書かれた細長いスペースです(図1)。
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この部分は、つい見逃してしまいがちですが、実はこのスペースには仲介業者にとっては重要なことが書かれています。
それをお客に知られないため、彼らはこの部分に「オビ」と呼ばれる細長い紙を重ねて隠しているのです。
ちなみにこの「オビ」、本当に紙を重ねてあるのではなく、上から紙をかぶせてコピーしてしまうので、めくろうと思ってもめくれるものではありません(そのため、不動産会社のコピー機の近くには、細長いオビがたいてい置いてあるものです)。
隠された中をのぞいてみると…
でも、ここでは特別にその「オビ」をめくってみることにしましょう。そこには、こんなことが記されています(図2)。
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「客付(きゃくづけ)会社」とは、家を購入するお客さんを探してくる不動産仲介会社のことです。
左の枠線の中には、客付会社に対して「捨看板、住宅情報誌の掲載」を禁止する指示が書かれていますね(「捨看板」とは、電柱や街路樹、ガードレールなどに貼り付けられた、ほとんど違法の屋外広告のこと)。
ここで注目していただきたいのは、右側の「手数料=6%」という文字です。
手数料のパーセンテージの下に「業法に従って下さい」と書かれていますが、実はこれは大いに矛盾したことなのです。
というのも、「業法」、すなわち宅建業法では物件価格が400万円を超える場合、物件価格の3%(正確には3%+6万円)を上回る仲介手数料を取ってはいけないと定められているからです。
ですから、「手数料=6%」という取り決めは宅建業法に違反しています。ところが、不動産業界には、この矛盾をうまく解消する便利な言葉があるのです。
それは、「AD」、すなわち「広告費」という言葉。
業法にしたがった3%を仲介手数料として受け取り、残りの3%を広告費として計上するわけです。これが「業法に従って下さい」という注意書きの意味なんですね。
この上乗せされた3%を誰が負担するかといえば、それは当然、販売価格に上乗せされて、物件の購入者が負担することになると考えるべきでしょう。
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賃貸物件の図面にも暗号は隠されている
さて、次に賃貸物件の図面を見てみましょう。「オビつき」の図面は、売り物件だけでなく、賃貸物件でも使われています。
図3の図面、右下に書いてある文字を見てください。「AD100」と書かれていますね。
「AD」という文字がさっそく使われていますが、これが広告料という名のバックマージンであることは先ほどお話しした通りです。
また、「100」という数字は、一部屋を成約するごとに「家賃の100%(1か月分)の報酬を支払います」ということを意味しています。
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また、「AD100」の代わりに「B100」という文字がう書かれていることもあります。これはどういう意味なのでしょうか。
「B」というのは、「バックマージン」のこと。「AD」よりも露骨な言い回しですね。意味は「AD100」と同じで、一件の成約で家賃1か月分の報酬がもらえるわけです。
ちなみに、賃貸物件の場合、一件の成約を取った場合、その不動産仲介会社には「仲介手数料」が支払われますが、これは宅建法上で「家賃の1か月分が上限」と決められています。
もちろん、この「AD」は仲介手数料に上乗せして支払われるグレーな報酬です。そして、これを負担するのは賃貸物件のオーナーである大家さんであり、最終的には家賃を支払う入居者が負担することになるはずです。
その証拠に、図面には「礼0、Bなし可」と書かれている場合もあります。これがどういう意味かというと、「礼金ゼロ、バックマージンなしも可能」という意味です。
交渉材料も不動産会社の営業マンの利益優先に…
もう少しわかりやすく言い換えると、
ということです。
これはたとえば、契約しようかどうか迷っているお客さんに、
とプッシュする材料として使われます。
つまり、入居者がそのまま礼金を支払ってくれれば、それはそのまま不動産会社へ支払うバックになるけれど、礼金をゼロにして契約を取った場合は、バックマージンもゼロになるので不動産会社が受け取れるのは仲介手数料だけになるわけです。
結局、このケースでは不動産会社に支払われるバックマージンは、入居者が礼金として負担しているということになります。
とはいえ、たいていの営業マンは後日、電話をかけてきて「いやぁ、あの物件は人気があって、大家さんも強気なんです。これ以上、条件を厳しくするとほかの人に貸されちゃいますよ」というでしょう。
不動産会社からすれば、礼金をゼロにしないと契約してくれないお客さんよりも、礼金を支払ってくれるお客さんと契約をしたいからです。
お客さんから見れば、「礼金くらいタダにしてくれてもいいだろう。なんてケチな大家なんだ」と思うでしょうが、本当にケチなのは間を仲介する不動産会社なのです。
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フリーレントの仕組みをご存知ですか?
礼金だけでなく、入居後の一定期間の家賃が無料になる「フリーレント」も、この手の営業トークによく使われます(図4)。
この図面には「AD2か月(AD→フリーレント転用可)」と書かれていますね。
この場合、バックマージンであるADが家賃の2か月分ありますので、お客さんに「フリーレント1か月」を付けてあげて、残りの1か月分を自分たちの儲けにすることもできるし、最大で「フリーレント2か月」まで広げて迷っているお客さんの決断をうながすことができるというわけです。
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先ほどお話ししたように、賃貸の場合の仲介手数料は、その上限が「1か月分の家賃」と決められています。しかもこれは、「大家さんと入居者の双方から得られる報酬額の合計金額」ですから、不動産会社は入居者から1か月分の仲介手数料をもらったら、大家さんからは手数料を受け取ることはできないことになります。
ただ、それはあくまで建前で、実際は「AD」とか「B」という暗号を使って業法の枠を楽々と飛び越えてしまうのです。
そして、そのような方法で不動産会社が受け取ったグレーな報酬は、回り回って家賃を支払う入居者の負担へと形を変えていくのです。 (執筆者:大友 健右)