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アメリカは第45代大統領にドナルド・トランプ氏誕生
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アメリカの選挙制度の関係で、各州の獲得選挙人の数でトランプ氏が勝利したわけで、一般投票では、僅差でクリントン氏が勝っていました。民意はクリントン支持と言えるのかもしれませんが、それだけ接戦だったことが伺えます。
ただ、このことが大きな話題になっていないことが、ヒラリー・クリントン氏の人気のなさを表しているような気もしますね。
選挙で見えた今の「アメリカ」
同時に選挙が終わっても、反トランプ運動が全米で繰り広げられていることに、今のアメリカ社会の抱えている問題があるようにも思えます。
人種差別を容認するかのような発言を繰り返す人を、自国のトップに選ばなければならないというのが、今の「アメリカ」なのでしょう。
これからの世界、そして日本にとって、トランプ大統領誕生が何をもたらすのか、それを紐解くには、まずは、トランプ氏が勝利した背景を知る必要があります。
なぜドナルド・トランプ氏が選ばれたのか…
トランプ氏勝利の布石は、実は大統領選挙予備選から見られました。それは民主党候補者争いで、超左派といわれたバーニー・サンダース氏が善戦したことです。彼の主張は、今までのアメリカのあり方を否定するものでした。
まさに社会主義国家を目指していたかのような主張でした。
「富の再分配強化」
これだけを見ても、第二次世界大戦後のソ連を髣髴させるような内容です。手法は違いますが、同じような内容をドナルド・トランプ氏は訴えています。
右と左、入り口はちがいますが、行き着く先は中間層や低所得者層の救済でした。
この一点に全米全土が動いたと言っても過言ではありません。
今回の米大統領選挙の構図
今回の米大統領選挙は「中間層・低所得者層vs支配者層(エスタブリッシュメント)」という構図になっていたようです。
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支配者層(エスタブリッシュメント)の代表
まさにヒラリー・クリントン氏は、支配者層(エスタブリッシュメント)の代表のような存在であり、共和党においても、トランプ氏以外は、みな支配者層(エスタブリッシュメント)とみなされていたようです。
支配者層(エスタブリッシュメント)を「金持ち」と理解すれば「低所得者層vs富裕層」という構図ともとれますが、そうなれば、トランプ氏は不動産王と呼ばれる富裕者層に属することになります。
「クリントン財団の闇」は深い
トランプ氏が富裕層であることは間違いないですが、財界とのつながりでは、ヒラリー・クリントン氏のほうが強い印象がありました。
特にクリントン財団の闇とも呼ばれる部分が、どうしてもヒラリー・クリントン氏に好感をもてないでいるのでしょう。
同じ富裕層でありながら中間層や低所得者層から見れば、クリントン氏よりはトランプ氏のほうがマシということになるのでしょう。
それだけ「クリントン財団の闇」は深いのですが、そのの説明に関しては、ここでは割愛させていただきます。
中間層や低所得者層のリーダー
中間層や低所得者層の人たちは、自分たちが今の困窮状態に強いられているているのを移民政策の問題ととらえ、その移民を排斥するというメッセージに、トランプ氏への強いリーダーシップを見たのでしょう。
かつてのアメリカに戻ろう、アメリカをアメリカ人の手に戻そうという発想から、いままでタブー視されてきた移民問題に真正面から切り込んだトランプ氏に共感したと思われます。自分たちの思いの代弁者という偶像を作り出したのでしょうね。
強いアメリカ、「Make America Great Again」のスローガンにつながります。
「格差」社会を作った「グローバリゼーション」
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支配者層(エスタブリッシュメント)のもうひとつの側面は、グローバリゼーションの恩恵を受けている層という位置づけもあります。
グローバリゼーションの恩恵を受けているのは金融業です。
という運動があったことは記憶に新しいと思います。
ずっとアメリカが取ってきた政策は、アメリカ国内産業を育てることよりも、世界競争に勝つことを優先してきたということです。
製造業よりもITなどのサービス業、付加価値産業に重きを置く戦略を取り、金融立国の道を強く推し進めてきました。
トランプ氏を支持した中間層や低所得者層にとっては、グローバリゼーションはまったく関係なく、何の恩恵も受けていないわけで、ウォール街を中心とした高報酬者への不満が爆発したのだと思われます。
まさに「格差」社会です。おそらくこれから日本が歩む道ともいえるのかもしれませんね。
「アメリカ・ファースト」
グローバリゼーションの対極にあるのが「アメリカ・ファースト」なのかもしれません。
もっとも、この言葉にはいろんな意味が含まれていて、使う人の立場によってその内容は異なってきます。
ただこの言葉は、ミシガン州やウィスコンシン州などの「ラストベルト(錆びた工業地帯)」と呼ばれる地域の人たちの投票行動に、大きな影響を与えたことは間違いありません。
「アメリカ・ファースト」に関しては、ネオコンと呼ばれる共和党支持勢力である新保守主義の中でもいろんな意見があります。
その中の一部の勢力がトランプ氏の政策に取り入れたという話もありますが、今回はそのあたりを深堀りしないで、あくまでも、「アメリカ・ファースト」がもたらす、アメリカの利益優先という考え方にフォーカスしていきます。
これらの勢力は、トランプ氏の政策を語る上で、とても重要な要素であることは間違いありません。
「トランプ氏が勝てば株価は暴落、ドルは売られる」と言っていませんでしたっけ!?
なぜ、株価は暴落せずに上がり、ドルは急落しないで買われているのでしょう。
難しい言葉は置いておいて、なんとなくのイメージで表現しますと、トランプ氏は、オバマ大統領がこれまで行ってきた金融機関への締め付けを取っ払うことを選挙中に言っていたからだと思われます。
金融機関への行動の縛りを取っ払う、銀行と証券の垣根を作り、自分たちが自由に投資できる枠を制限してきたものを自由にするといった感じです。その思惑から銀行株が大きく上昇してきました。
と言っていました。石炭などの資源活用、インフラ支出拡大を見込み、工業株や素材株も上昇しています。
保護政策を取ることから、国内向け政策に重点をおき、財政出動が拡大すると見られます。それは、公共事業を増やし雇用を増やすことにつながります。
そうすることで賃金が上がり、それがインフレにつながり、インフレになればFRBは金利を引き上げるという連想が働き、国債が売られ足元の長期金利が上昇し、金利差でドルが買われるという状況になっているようです。
「意外とトランプ氏ってまともじゃん」
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勝利宣言の演説を見て、それまでの過激発言が鳴りを潜め、国民に寄り添う姿勢を見せたのも好感されたようです。
いまの株価上昇、ドル買い加速の背景は、こんな感じでしょうかね。
何より、トランプ効果と呼ばれる今の現象を一番喜んでいるのは日銀黒田総裁ではないでしょうか。日本銀行にとってはトランプ大統領誕生は神風のような感覚ではないでしょうか。
日銀がいろんな政策を打ち出しても、なかなかマーケットは反応してくれず、円安も思ったようには進まなかったところで、トランプ大統領誕生で一気に円安が進み、日本株が大きく上昇したわけですからね。
ここにきて日銀の長期金利0%維持の効果がでる
アメリカはインフレ期待から長期金利が大きく上昇、日本は長期金利0%ですから、日米金利差は拡大するし円安が加速しやすくなります。
正確に言えば円安ではなくドル高です。金利差でドルが買われ、そこにリスクオンで円が売られるという、ある意味相乗効果でのドル/円110円台突入と言えるでしょう。
しかし…よく考えてみると~
のです。つまり、行動や発言などで、何も批判されることはないということです。それゆえ、選挙中の政策にまつわる話から、思惑だけでマーケットが動いているということです。
アベノミクス初動とまったく同じです。安倍政権が実際に行動する前が、一番株価は上昇し、円安は進みました。
思惑でマーケットは動くのです
アベノミクスも、実際に動いてから批判が多く、ほころびも露呈してきました。トランプ氏の評価は、来年の、実際に動いてから評価で決まると思います。
やはり、トランプ・リスクはこれからではないかと思われますね。
トランプ氏が大統領になったらどうなる?
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アメリカ製造業に従事している人たちにとって、自分たちの仕事環境を脅かすのが移民の人たちだと断言しています。選挙中に「雇用機会の喪失」という言葉がよく出てきていました。
メキシコ移民がアメリカ人の職を奪うと、トランプ氏は選挙中に豪語していました。
という発言が印象的でした。
まさに、トランプ氏を支えてきた中間層・低所得者層が叫びたかったことなのでしょう。
これに関しては、トランプ氏は一貫して、ヒラリ・クリントン氏の夫ビル・クリントン氏が締結したNAFTA(北米自由貿易協定)を諸悪の根源と批判していました。
NAFTAは、カナダ、アメリカ、メキシコとの間で締結されたもので、ヒトやモノの流れを自由にしようという協定で、
と、トランプ氏は主張しています。
選挙中は、これを撤廃すると訴えると同時に、TPP環太平洋戦略的経済連携協定も、アメリカ人の職を奪うものとして、白紙撤回することを主張していました。
その主張が意味することとは…
それはこれまで世界が推進してきた多国間主義(マルチラテラリズム)の終わりを意味するのではとも言われています。
多国間主義(マルチラテラリズム)とは、貿易においては2国間ではなく世界全体との関係として問題をとらえるべきだとする考え方です。
自由・多角的・無差別な貿易を目指したGATTおよびWTO(世界貿易機関)の大きな目標の1つでもあります。
政治・経済の国際的な相互依存が広まるなかで強調されてきた考えではありますがトランプ氏は「アメリカ・ファースト」自国利益優先の立場から、多国間協議より2国間協議のFTA(自由貿易協定)のほうが、自国の都合を押し付けやすい、交渉しやすいと考えているようです。
TPPに関して、ちょっと日本の事情を
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なぜ安倍総理は、TPP批准にここまでこだわるのでしょう。
国際会議の場で安倍総理は、アベノミクスにとって「TPPは一丁目一番地の重要課題」だと表現してきました。つまりそれは、TPPなくしてアベノミクスはないということにほかなりません。
アベノミクスは三本の矢で構成されていて、大胆な金融政策、機動的な財政出動、そして民間需要を喚起する成長戦略から成り立っています。特に重要なのが成長戦略です。
「官僚の壁」が何度も日本の成長戦略を阻んできた
今まで歴代政権は、何度も成長戦略を旗印に掲げて構造改革を進めようとして挫折してきています。官僚の壁に阻まれているのです。
すでにご承知のとおり、日銀の金融政策には限りがあり、財政出動するにも財源の問題が付きまといます。
日本の産業構造を変えて海外投資を促すには、なんと言っても日本の産業そのものの構造改革、つまりはさまざまな規制を緩和しなければなりません。
しかし規制があるから、官僚の天下り先となる規制機関が必要とされ、また規制はさまざまな利権を生みだすこともあり、官僚天国日本では、規制緩和が進まない要因と言われてています。
TPP締結により、強制的に日本の規制緩和は進む
TPPにはISD条項というのがあり、それは、不平等な状態が維持された環境が放置されることで海外投資家が不利益を被れば、投資家が国を相手に訴訟を起こすことができるという内容のものです。
平たく言えば、株式会社がある業界に国有企業があれば競争は不平等になるという論理です。
金融業界の郵政であり、賃貸業のUR事業であり、介護事業の特養などが例に挙げられます。
TPP締結により、強制的に日本の規制緩和は進むというものです。それゆえTPPはアベノミクスにとっては、とても重要なアイテムであるということになります。
世界の首脳に先駆けて、まだ大統領に就任していないトランプ氏に会いに行った事情が垣間見られるような気がしますね。
過激な発言は選挙に勝つため
トランプ氏との急遽の会談は、もちろん安全保障の問題もあるでしょう。日本にもっとお金を出せという要求は、選挙中にずっと言っていたことですからね。
トランプ氏は実業家であることも重要な要素と言えます。それは「リアリスト」であるということです。
選挙中は、選挙に勝つ戦略をとってきたと思われます。圧倒的に資金力でクリントン氏に劣るトランプ氏は、マスコミが取り上げるような過激発言をわざと行うことで、テレビへの露出度をあげてきたと思われます。
非難をされてもテレビに取り上げられる実益を選んだ、お金をかけないで広告宣伝する方法を選ぶなど、選挙に勝つためにリアリストに徹したのでしょう。
選挙中の話を、全部実現させるとはとても思えません。つまり、あの数々の過激発言は、選挙用といえると思います。
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これからは「大統領」として行動する
今度は大統領としての立場で、現実に即した対応をしてくると思われます。
選挙中は全面否定していたオバマケアと呼ばれる保険制度も、完全撤廃ではなく、一部は残す方針に変わってきました。
日本への核武装容認発言も、大統領選挙に勝てば、その主張を大きく変えてきています。
トランプ氏の政治の進め方
実業家としての物事の判断基準は
「効率」
「平等、不平等」
です。この三要素を中心に、アメリカというカンパニーをいかにも儲けさせるかという観点で政治を進めていくと思われます。ある意味わかりやすい政権運営になるような気がします。
キーワードは…
アメリカ・ファーストの立場からの「再交渉」です。
今までの各国との交渉ごとを、自国利益優先に再交渉してくるのではと思われます。TPPは、アメリカ・ルールを各国に押し付けるものですから、アメリカにとっては有利なものです。
今のままではTPPは締結はしないが、よりアメリカに有利な条件で再交渉することはあるのではないかと思われます。
アメリカ・ファーストをどう解釈するのか、経済面、安全保障面、外交面それぞれで解釈は違ってくるのかもしれません。
ラストベルト(錆びた工業地帯)復活はなるのか
トランプ氏の経済政策は「内需拡大」です。自国産業を復活させるには、どう考えてもドル安のほうが有利です。
ただ気がかりなのは、ラストベルト(錆びた工業地帯)の復活ですが、これは決して容易なものではないでしょう。
トランプ・リスクが形として現れるとき
海外に移設した工場は、そう簡単にはアメリカ国内に戻すことはできないでしょう。人件費の安さを求めて海外移転させた工場ですから、それを国内に戻すとなると、さまざまな問題が生じます。
ここでNAFTAから撤退すれば、アメリカとメキシコとの貿易において関税が発生します。
このように、選挙中に発した威勢の良い発言が実現されないとなれば、トランプ支持者からのバッシングを受けかねません。
むしろその可能性は大きく危惧されそうです。マーケットにおけるトランプ・リスクは、このあたりから顕在化してくるのかもしれませんね。
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トランプ氏勝利で動き出すロシア、中国
トランプ氏勝利と同時に、早速中国は動き出しました。政治的に見れば、もしトランプ氏がTPPを白紙に戻せば、中国が動きます。RCEP(東アジア包括的経済連携)を前におし進めてくると思われます。
RCEPは、日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランドの6カ国がASEANと持つ5つのFTAを束ねる広域的な包括的経済連携構想です。TPPに似ていますね。
もともとTPPは中国包囲網といわれていましたから、中国にとってTPPが成立しないことは好機と捉えているのではないでしょうか。
RCEPが実現すれば、人口約34億人(世界の約半分)、GDP約20兆ドル(世界全体の約3割)、貿易総額10兆ドル(世界全体の約3割)を占める広域経済圏が出現します。
中国にとって、ロシアにとって、トランプ氏が大統領になることは、非常に組みやすいということで大歓迎ではないでしょうか。
今後トランプは中国、ロシアとどう付き合うかが重要
トランプ氏勝利は、そういう意味では世界の秩序をも変える出来事と言えます。とりわけ、ロシア帝国復活を目指すプーチン大統領と世界の覇権を握ろうとしている中国の動きが活発になってくると思われます。
中国がアメリカに提唱しているのは「G2」です。「G8」ではなく、アメリカと中国だけで世界を動かすという話です。
EUの力は衰え、イギリスも中国資本に寄りかかってきていますし、まさにトランプ次期大統領がどれだけの力を持って中国とロシアと対抗できるのか、あるいは逆に手を結ぶのか…
それだけトランプ氏がアメリカ大統領になることは、とても重要なことだといえるのです。(執筆者:原 彰宏)