上記の内容が平成29年度税制改正大綱に記載されました。
どういう事かというと、従来は所得税で総合課税を選択した場合には住民税も総合課税を選択する事となっていたのですが、それが所得税で総合課税を選択したとしても、住民税は申告不要制度または申告分離課税を選択する事ができる事となったのです。
これでもまだ分かりづらいと思いますので、それぞれの課税方式から解説します。
目次
課税方式
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(1) 申告不要制度
文字通り確定申告は必要とせず、所得税15%、住民税5%の源泉徴収税額だけで完結する方法です。
(2) 申告分離課税
確定申告を行い、上場株式等に係る配当所得及び上場株式等にかかる譲渡所得等を合計した金額に、所得税15%、住民税5%の税率により計算した税額から、源泉徴収された金額を差引く事により納税額を計算する方法です。
主に上場株式等に係る譲渡損失が生じた場合に、配当所得と損益通算する為に用いられる方法です。
(3) 総合課税
上場株式等に係る配当所得を他の所得と合計して、その合計した所得の水準による税率(所得税は最低5%から最高45%、住民税は一律10%)により計算した税額から、源泉徴収された金額を差引く事により納税額を計算する方法です。
主に所得水準から総合課税で計算した税額が源泉徴収税額よりも低くなる場合に用いられる方法です。
それぞれの課税方式が理解できた所で、今回の改正の画期的な点をそれぞれの所得水準に応じた税率を見ながら考えてみましょう。
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以上から所得税については配当控除までを考慮した場合には、所得水準900万円までは源泉徴収税額の15%の税率よりも低い13%の税率となりますので総合課税有利となります。
しかし、住民税までを考慮した場合には、住民税も総合課税を選択した場合の税率の合計は20.2%となり、源泉徴収される税率の合計20%よりも高くなってしまいます。
これが平成29年度の改正の通り、住民税で総合課税を選択しないでいいのなら、税率の合計は18%となりますので、所得水準900万円までは総合課税有利となります。
住民税については表を見て分かる通り、常に総合課税不利ですから総合課税を選択する余地はありません。
結びにかえて
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当記事において住民税が改正されたような書き方をしてきましたが、実は改正はされていないんです。法律はそのままで通達が出ただけです。
というのもここで紹介した取扱いは以前からの法律の解釈で可能だったからです。ですので、以前からここで解説したような取扱いが出来たはずですが、そのような取り扱いはされてきませんでした。
そもそも住民税は所得税の確定申告書を提出した場合、住民税の確定申告書の提出があったものとみなす事とされています。
それで所得税と住民税は同じ課税方式となるという考え方が常識として考えられていたのです。
しかし、条文の但し書きにおいて所得税の確定申告書を提出する前に住民税の確定申告書を提出した場合にはどちらの申告書も生きる旨の記載があり、これに気づいて当記事で解説したような取扱いをするようにとの通達がなされたのでしょう。
今回のこの改正ですが、実際適用しようと思うと条文上から考えるに、所得税の確定申告書を提出する前に住民税の確定申告書を提出しなければいけない事となります。
ただ、現状各地方自治体のホームページ等で確認したところ、住民税の納税通知書が送達される前なら構わないような書きぶりをしている自治体や、何の案内も出ていない自治体もあるため詳細は各地方自治体に確認した方がいいと思います。
いずれにしても確定申告書を2通提出する事が必要になる訳で、このような手間をかけるのは納税者及び行政側にも不利益でしかないはずです。
国側には平成29年度の所得税の確定申告書の様式を改め、所得税の確定申告書で住民税の課税方式を選択する欄を設けて、住民税の確定申告は必要としないような柔軟な対応の仕方を検討して頂きたいものです。
※当記事においてはすべて復興特別所得税を考慮外にしておりますが、有利判定の結果には影響を与えません。復興特別所得税を考慮した場合の負担税額の差は、考慮しない場合よりもう少しだけ有利になります。(執筆者:寺田 悟)