日本の繁華街・名所で数多くの外国人観光客が訪れるようになりましたが、そのような中で水を差すように見える「出国税」の徴収を検討するとの報道がされています。
まだ検討段階ではありますが、観光客でない日本人からの徴収も検討しており、さらに日本人にはすでに課税対象の「出国税」もすでに存在していますので、整理しながら見て行きましょう。
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目次
すでにある出国税:金融商品に対する含み益(所得)課税
平成27年7月以降導入されている出国税は、税目としては所得税に該当し「国外転出時課税」とも呼ばれます。
これはこの名のとおり外国人にかけるようなものではなく、日本人が海外に移り住む際に課税されるものです。
ただし、課税される範囲は限定されています。
B. 対象となる金融商品の時価が、転出時1億円以上
C. 転出時において含み益が生じている
Bの対象となる金融商品は、株・投資信託・未決済信用取引・デリバティブ取引などです。
基本的に金融商品は実際に売却した際に所得計上されるのですが、この制度は含み益に対する例外的な課税方法になります。
これは含み益のある財産を持つ富裕層が、出国してから売却すると課税されないという法の抜け穴を生かして課税逃れすることを防ぐためです。
なお所得分類上は売却でかかる所得と同じで、例えば株式であれば分離課税の譲渡所得、デリバティブであれば先物取引などにかかわる雑所得(同じく分離課税)になります。
検討されている出国税:交通費的な扱い
主に外国人観光客からの徴収を考えている「出国税」は、関所の料金みたいなイメージで所得課税とは違った方式と考えていいでしょう。
オーストラリアで60豪ドル、韓国で1万ウォン徴収する事例がすでにあり、航空運賃などに上乗せする「納付金」方式を含めた定額負担が想定されています。
徴収した出国税を基に、さらなる観光客の受け入れ体制を整え、観光を充実させる目的があるとしています。
国内居住者にまで徴収する可能性も
観光財源のためであれば外国人観光客から徴収となるのでしょうが、観光客と日本在住者の区別が難しい取り方となると、国内居住者も含んでとなる可能性はあります。
航空機を利用する出国者に対しては、すでに空港使用料という形でもとっており、さらに出国税徴収となると「出国だけでどこまで取るのか?」という批判が想定されます。
また東京都・大阪府などの地方自治体も独自の宿泊施設課税をとっており、その上乗せ的な役割を果たすようにも見えます。
また富裕層向けとはいえ「国外転出時課税」と観光財源の出国税のダブルパンチは、同様の批判を呼びそうです。
検討されている出国税の対象者をどうするかは、慎重な議論が必要だと感じます。(執筆者:石谷 彰彦)