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信頼できない年金制度から脱退して、保険料を取り戻すことは可能なのか?

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信頼できない年金制度から脱退して、保険料を取り戻すことは可能なのか?

原則65歳から支給される老齢厚生年金の受給権者に、一定の要件に該当する配偶者がいる場合には、加給年金が上乗せして支給されます。  

また加給年金の対象になっている配偶者が65歳になった時には、加給年金は振替加算に切り替わり、配偶者が受給する老齢基礎年金に上乗せして支給されます

厚生労働省は2017年9月13日、この切り替えがうまくいかなかったことにより、10万5,963人に支給漏れが発生したと発表しました。

その総額は598億円にも達し、一度に発生した年金の支給漏れとしては、過去最大の規模になったのです。

また2006年6月時点において、5,000万件あると言われていた持ち主不明の年金記録、いわゆる「宙に浮いた年金記録」は、2017年3月時点において約1,951万件も残っており、この問題はまだ解決していないのです。


こういった事態を見ていると、信頼できない年金制度から脱退して、保険料を取り戻したい気持ちになる方もいるかもしれませんが、それは可能なのでしょうか?

現在でも経過措置により請求できる可能性が残る「脱退手当金」

厚生年金保険には「脱退手当金」という、納付した保険料を一時金で返してもらえる制度があり、例えば結婚すると同時に、仕事を辞めてしまう女性などに利用されてきました。

この制度は法改正により廃止されたのですが、経過措置が設けられているため、現在でも次のような要件をすべて満たす場合には、脱退手当金を請求できるのです。

脱退手当金を請求できる要件

・ 1986年4月1日時点において、45歳以上(1941年4月1日以前生まれ)である

・ 厚生年金保険の被保険者期間が5年以上あるけれども、老齢年金を受給するために必要な受給資格期間を満たしていない

・ 60歳以上に達しており、かつ被保険者資格を喪失している

・ 通算老齢年金や障害年金などの年金を、受給する資格がない

・ 脱退手当金の金額以上の、障害年金や障害手当金を受給していない

以上のようになりますが、これらの要件を見るとわかるように、年金制度を信頼できない現役世代の方が、利用できるような制度ではありません。

ただ若い頃に厚生年金保険に加入していた記憶があるけれども、それが短期間であったため、老齢年金を受給できていないという方は、脱退手当金を受給できないかを、調べてみる価値はあると思うのです。

滞在期間が短い外国人の掛け捨て防止策となる「脱退一時金」

日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の方は、日本国籍がない外国人であっても、国民年金に加入しなければなりません

また厚生年金保険についても同様であり、一定の適用基準を満たせば、日本国籍がない外国人でも加入する必要があります。

しかし日本の滞在期間が短い場合には、それぞれの被保険者資格を喪失した時点で、老齢年金を受給するために必要な受給資格期間を満たせず、納付した保険料が掛け捨てになってしまうのです。

そのため次のような要件をすべて満たす場合には、原則として帰国から2年以内に請求することにより、納付した保険料を「脱退一時金」として返してもらえます

脱退一時金を返してもらえる要件

・ 日本国籍を有していない

・ 厚生年金保険の被保険者であった月数、または国民年金の保険料を納付した月数などが6か月以上ある

・ 日本国内に住所を有していない

・ 今までに年金(障害手当金を含む)を受給する権利を有したことがない


以上のようになりますが、これらの要件を見るとわかるように、年金制度を信頼できない日本人が、利用できるような制度ではありません

国民年金の加入から逃れるには外国に居住するしかない


このように現在の年金制度において、脱退して納付した保険料を取り戻せるのは、外国人だけになるのです。

ただ国民年金に加入する必要があるのは、日本国内に住所を有する場合になるため、日本国籍を有する方でも、外国に居住するようになれば、国民年金に加入する必要がなくなります

これを活用すれば合法的に国民年金から脱退できますが、外国人と違って納付した保険料は返してもらえません

また国民年金の加入から逃れるために、わざわざ外国に居住する方はいないと思います。

そうなると日本に住んでいるかぎりは、何らかの年金制度に強制加入となり、またその保険料は死亡したり、障害状態になったりした場合を除き、原則65歳になって老齢年金を受給できるまで、取り戻せないことになります。

しかし次のような理由により、これは決して悪い仕組みではないと考えるのです。

日本人の40%程度は「老後の生活費に対する備え」を何もしていない

内閣府は2015年10月から12月にかけ、日本、アメリカ、ドイツ、スウェーデンの60歳以上の男女(施設入所者は除く)を対象に、50代までに実施した「老後の生活費に対する備え」についての調査を行いました。

その結果は次のようになっておりますが、「特に何もしていない」と答えた方の割合は、日本:42.7%、アメリカ:20.9%、ドイツ:26.1%、スウェーデン:25.4%となり、日本がずば抜けて高かったのです。


≪出典:内閣府 高齢社会白書 第3節:国際比較調査に見る日本の高齢者の意識(pdf)

またフィデリティ退職・投資教育研究所が実施した、20代~50代の会社員や公務員を対象にした調査でも、同じような結果が出ており、40%程度の方は退職準備額が0円、つまり老後の生活費に対する備えを、特に何もしていないのです。


≪出典:フィデリティ退職・ 投資教育研究所レポート(2015年7月、pdf)≫

そのため仮に政府が年金制度を廃止し、また納付した保険料はすべて国民に返し、後は自分達で何とかしてくださいとなった場合、何も準備しないまま定年を迎え、老後の生活費で苦労する方が、現在よりも増えてしまう可能性があると思います

このように考えていくと、強制加入で脱退できないことや、保険料を取り戻せないことは、現在の年金制度のマイナス面になりますが、プラス面でもあるのです。

また年金制度を信頼できないのなら、それを補うような自助努力を積極的に実施し、「特に何もしていない」という割合を、減らしていく必要があると思うのです。(執筆者:木村 公司)

《木村 公司》
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執筆者:社会保険労務士 木村 公司 木村 公司

1975年生まれ。大学卒業後地元のドラッグストアーのチェーン店に就職。その時に薬剤師や社会福祉士の同僚から、資格を活用して働くことの意義を学び、一念発起して社会保険労務士の資格を取得。その後は社会保険労務士事務所や一般企業の人事総務部に転職して、給与計算や社会保険事務の実務を学ぶ。現在は自分年金評論家の「FPきむ」として、年金や保険などをテーマした執筆活動を行なう。 【保有資格】社会保険労務士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、DCプランナー2級、年金アドバイザー2級、証券外務員二種、ビジネス実務法務検定2級、メンタルヘルス・マネジメント検定Ⅱ種 寄稿者にメッセージを送る

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