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相続に関わる民法改正案

通常国会に提出されるとの報道がありました。
成立すれば、約40年ぶりに相続分野について大幅な改正がされます。
具体的には、
など幅広く変更する内容になっています。
今回は、このうち自分で作成する遺言書(「自筆証書遺言」)に関する改正案について、これまでの法律の規定・運用とその不都合、改正によりどう変わるか解説します。
日本の「公正証書遺言」の現状
最近は遺言を作成する人が増えており、たとえば公証人役場というところで作成する「公正証書遺言」は年間10万件を超え、約10年前の1.4倍ほどになっています。

とはいえ、遺言書を残すことが多いことで知られるアメリカと比べるとまだまだ一般的とはいえないのが現状です。
遺言書の種類
遺言書は、大きく分けて自分で書いて作成をする、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2通りあります。
これ以外にも、やや特殊な「秘密証書遺言」や特別な方式のもと作成が認められている遺言もありますが、ここでは省略します。
「公正証書遺言」
費用はそれなりにかかりますが、法律の専門家である公証人(一般的には裁判官や検察官のOBの方)が作成をしてくれる公証役場での「公正証書遺言」にすることが多いです。
公正証書遺言の場合は、きちんとした手続きを踏まえて作成する分、何度も作り直すには手間がかかる上、費用もかかるというのがデメリットになっていました。
「公正証書遺言」であれば、公証人役場で遺言書の原本の保管をしてくれますので、あとで無くなっても、再度写しの請求ができます。
また公正証書遺言が作られたかどうかを、全国の公証人役場で検索して調べてもらうこともできます。
「自筆証書遺言」

自分でいつでも作れるという手軽さがあるため、一度作ったものでも、時が経てばまた新しく作れるというのがメリットです。
ただ、高齢の方になり、遺産が多いと財産目録まで全部書くには負担があります。
何よりも保管をきちんとしていないと、偽造されたり、隠されたりして相続発生段階で見落とされてしまうという大きなリスクがあります。
また、自筆証書遺言の場合には、必ず裁判所の「検認」という手続きをしてもらう必要があります。
「検認」とは
遺言書の形状(どういう用紙に何枚書かれているか・封印の有無など)や遺言書の日付、加除訂正の有無など形式面について記録をのこしてもらう手続きです。
この手続きをしておかないと、せっかく自筆証書遺言があっても、銀行で払い戻しの手続きをしたり、登記手続きをとることができません。
なお、この「検認」の手続きは、遺言を残した人の判断能力など遺言書の中身の有効性にまで立ち行ってチェックしないので注意が必要です。
その点を争うのであれば、別途裁判手続きによる必要があります。
デメリットを踏まえた改正
今回の法改正では、こうした自筆証書遺言のデメリットを踏まえ、2つの点を変更する内容になっています。
1. 自筆証書遺言の、自分で作成しなければならない範囲の緩和
相続財産の全部または一部について目録を付けるときは、その部分は作成する人が自書しなくてよくなりました。
ただし、その場合には目録の各ページに遺言を作成する人が自分で署名して、印鑑を押さなければならないとされています。
2. 自筆証書遺言を保管する制度が新しくできる
法務局が遺言書の保管を行い、保管していることを証明する書面の発行を求めることができたり(遺言者の生存中は制限があります)、先の検認の手続きをなくします。
これにより自筆証書遺言を利用しやすくする仕組みになるといえます。
「争族」を回避する遺言書
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のにというケースはよくあります。
・ 連れ子ありの再婚が増えている現状
・ 子供がないまま亡くなる
という場合には、そのあと残された相続人の間で財産の取り分をめぐって揉めることが多いです。
こういった事態にならないように、財産を残す人が少しでも遺言書を作りやすいよう、法律を整備することは重要なことです。
この相続に関する民法の改正案が最終的にどのような内容で成立するかわかりませんが、その動きについては引き続き注意しておく必要があるでしょう。(執筆者:片島 由賀)