平成27年以降の相続税基礎控除額4割減の影響で、相続税対策が一種のブームとなってアパート経営が流行りアパートが乱立しましたが、相続の際に発生する税は相続税だけではありません。
不動産の名義書換の際に発生する不動産取得税や登録免許税は、相続の際の優遇制度がありますが、意外とバカにならないのが所得税です。
相続した財産を処分し所得が発生すると、所得税だけでなく国民健康保険料などにも次々に影響してきます。ここからは筆者の身内であった体験をもとに語っていきます。

目次
相続税が10万単位で済んだのに所得税が100万単位に
純財産額(相続税の課税価格)が相続税の基礎控除額をオーバーしたため相続税は発生しましたが、1人あたり50万円程でした。
最も平成26年以前(つまり基礎控除額が4割減となる前)の相続であったことや、相続人数が1人2人ではなかったことが幸いしていますので、現在の状況では10万円単位では済まなかったでしょう。
しかし相続した空き家や株を処分した結果、その年は1,000万円ほど所得が増え、100万円をこえる所得税を納めることになりました。
所得税だけで相続税を超える金額ですが、1,000万円ほど増えた所得の影響はこれに留まらなかったのです。
相続した資産の売却が所得税以外に与えた影響
住民税が40万円ほど上がった
住民税は前年の所得に対して、6月以降に支払っていく税であり、5月もしくは6月に税額通知書が届きます。確定申告して2~3カ月後に影響を知ることになります。
株や不動産の売却益に対しては所得税15.315%・住民税5%かかりますので、所得税が約120万円増なら住民税は約40万円増と読めるのですが、後から来る点に注意です。
国民健康保険料が30万円ほど上がった
国民健康保険料(所得割部分が住民税の各種所得合計に基づく)が、住民税に続いて追い打ちをかけてきます。例年より年間で30万円高くつきました。
国保の所得割料率は5%より高く、8~10%前後が一般的なので、住民税より高くつくように見えます。ただ国保には世帯での限度額があるため、上昇幅がおさえられたのは幸いでした。
75歳以上であれば、個人単位で後期高齢者医療保険に加入するため、上限額があるものの国保より大きく増加するのが一般的です。
介護保険料が倍に
市区町村の介護保険に加入している場合は、この介護保険料も所得に基づきます。介護保険料も通常の倍ぐらいになり、年間で7万円程度の増加となりました。
相続人によって変わる保険料負担
所得税・住民税以外の負担が出てくるかは、加入している社会保険により変わります。
職場の社会保険は給与賞与額のみに左右されるので、相続した財産の売却は関係してきませんが、「老老相続」などでそうでない場合が問題です。
不動産を均等に相続して売却したにも関わらず、影響した相続人(国保加入)とそうでない相続人(職場の社保加入)で保険料負担が不公平になってしまいました。
事例を踏まえたその他注意点
この事例から派生する形で、こんなことにも注意しましょうということを列挙します。
1年限定で扶養から外れることも
合計所得金額38万円以下が控除対象配偶者や扶養親族の条件ですから、1,000万円までいかなくとも、10万円単位の所得増加によって扶養から外れることはあります。
児童手当などの給付金
職場の社会保険に加入しているような現役世代であっても、例えば中学生ぐらいまでの子供がいて、児童手当のような給付金をもらっている場合、所得制限にひっかかって1年だけでも不支給や減額のリスクはあります。

相続税だけでなく様々な税・保険まで見据える対策を
財産の処分により資金が用意できる分だけ、時には物納も考えなければいけない相続税のように納税資金に困るリスクは低いです。
しかし一回で終了する相続税と異なり、所得増加による影響が何段階にもわたってじわじわと来るのが怖いところです。
平成28年4月分の売却からは空き家売却に関する優遇税制(3,000万円特別控除)も使えますが、更地にしない場合は耐震改修を行うなど条件があり、空き家を売却したからと言って必ず使えるわけでもありません。
財産を処分した際に税や保険料が発生することは致し方ない面もありますが、事前に想定せず予想外の出費となってしまうのが危険です。相続によって起こる出費を想定しておくことも相続対策と言えます。
なお相続した財産を処分した際に、確定申告で使える特例もありますので、続編として記事にします。(執筆者:石谷 彰彦)