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老後の住みかを考える
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リタイア後は職場に毎日通うことがなくなるため、「どこに住んでもいい」という状態です。
もちろん、住み慣れた土地がいいという人も多いかもしれません。
それでも、せっかく選択肢が与えられ、少し俯瞰して考えると、日本国憲法でも「居住移転の自由」が保障されているように、私たちは自分の意志を持ってどこにでも住むことができます。
既成概念を捨て、ゼロから老後の住みかを考えてみるのはいかがでしょうか。
住まいの選択肢を膨らませよう
さて、リタイア後の住まいの選択肢にはどのようなものがあるでしょうか。
ざっと挙げただけでも次のようなものがあります。
・ 現在の住まいに住み続ける
・ 市街地のマンションなどで賃貸暮らし
・ のんびり地方暮らし
・ 憧れの海外移住
・ 二世帯住宅を建てて子ども
・ 孫と暮らす
・ 高齢者用の施設に入居
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これらを、
「何に暮らすのか」
「持ち家か賃貸か」
という視点から整理すると、次のようになります。
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定年後、30年、40年と続く人生を、どこで暮らすかは、住居費のみならず、価値観や家族など、いろいろな観点での選択ですが、それぞれの特徴を知り、ご自身の終の棲家を考えてみるとよいでしょう。
どこに暮らすか(1) 地方
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現在、都心に住んでいる場合、地方へ移るなら、住宅費や物価は下がります。
住宅の取得費などを支援する制度や住み替えの奨励金が出る場合もあります。
自治体によってはUターン、Iターン希望者を対象にした、地方暮らしの情報を積極的に発信していますのでアンテナを張っておきましょう。
人気の別荘地などを狙うと、賃料や住宅取得費が高くつく場合もありますが、探せば賃料は都内の半額程度、購入費用は土地建物込みで500万円以下という物件に出会えることもあるでしょう。
短所:人が少なすぎる不便さ、移動費が高い
定年後の暮らしということを考えると、人里離れた何もない地方での暮らしは厳しいといえるでしょう。
せめて病院や商業施設が車で10~20分のところにあるくらいの地方でなくては、不便すぎて生活が困難です。
また、地方暮らしでコストが高くなりそうなのは、移動費です。
地方であればあるほど車を所有する必要性は高くなりますし、用事で都心に出る場合は、新幹線や飛行機などの運賃がかかります。
ちょっと海外旅行にと思っても、国際便に乗れる空港に辿り着くまでに国内旅行1回分の移動費がかかることもありそうです。
長所:移住者への支援制度を設けている自治体も多い
地方暮らしにはたくさんの魅力があります。
政府も、高齢化問題や地域活性化問題の1つの解決策として、高齢者の地方移住を後押ししています。
それを受けて、多くの自治体が移住者の受け入れに積極的な姿勢を示しています。
例1:宮城県七ヶ宿町:20年住めば、土地・住宅を無償譲渡・福岡県添田町:新築一戸建て住宅を家賃3.5万円で提供
例2:北海道置戸町:新規開業者のために店舗改修費最大500万円、賃借料最大10万円を補助
また、「ニッポン移住・交流ナビ」というウェブサイトでは、地方暮らしの魅力や移住の情報、イベント情報、地方の仕事情報などを発信しています。
気になる自治体の情報をチェックしてみてはいかがでしょうか。
どこに暮らすか(2) 都心
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都心に家があり、住宅ローンの返済も終わっている人ならば、引き続き都心で暮らしたいと考える人も多いでしょう。
長所:利便性の良さ、物価の安さ
都心暮らしのメリットはなんといっても利便性です。
交通網が発達していますから、どこにでも気軽に出かけられます。
自然が好きな人なら、都心暮らしをしつつたまに地方を楽しむこともできます。
生活コストにおいても、地方よりも物価が高いとは限りません。
都心の方が競争原理が働くため、安いモノやサービスも多いのです。
物流網も発達していますから、ネットショッピングで注文した翌日に商品が届く、というのも都心ならでは。
老後に買い物が億劫になった場合にも便利です。
短所:家賃の高さ
総務省のデータで住宅1畳当たりの家賃を見ると、関東大都市圏が4,256円であるのに対して、全国では3,051円です。
関東大都市圏の家賃は全国平均の1.4倍です。
特に民営住宅(木造)に関しては、関東大都市圏は全国の約1.5倍です。
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また介護状態になった時の施設が少ないのもデメリットです。
高齢者人口が多い都市部では、高齢者向け施設の慢性的な不足に悩まされています。
特別養護老人ホームなどは入所するまでに何年も待たされるケースが多いようです。
都市部では地価が高いため、事業者も十分な広さがある物件を確保できずに、施設もなかなか増えていかないというジレンマがあります。
今後高齢化が進展するにつれて、この問題はより深刻化していくと考えられるでしょう。
アクティブシニアタウンに転居する
アクティブシニアタウンとは、高齢者が集まってコミュニティを形成している街のことです。
アメリカでは、これまでに2,000か所以上の街が形成されています。
日本ではまだ街の形成は珍しく、特定のマンションを中心とする小規模な展開が中心ですが、近年、急激に増えつつあります。
例えば、千葉市の「スマートコミュニティ稲毛」は、ビリヤード、ダーツなど娯楽施設が充実したクラブハウスを中心に居住棟があり、仲間とのコミュニケーションに重点を置いた生活が送れます。
健康で活力あるシニアには、理想的な環境といえそうです。
環境が整った大規模な施設の場合、入居費として2,000万円程度、その後も毎月10万円程度の費用が必要です。
どこに暮らすか(3) 海外
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リタイア後は
などと一度は思い浮かべたことのある人も多いことでしょう。
では、いざ本気で海外で暮らすとなったら、どれだけお金がかかり、どんな点に注意するべきでしょうか。
海外移住に人気の国・地域
日本人の海外移住先として人気の国(地域)といえば、マレーシアが筆頭です。
ロングステイ財団による調査では、10年連続1位に選ばれています。
人気の秘密は、
・ 物価が安い
・ 受入れのための査証プログラム「マレーシアマイセカンドホームプログラム(MM2H)」制度の充実度
・ 気候
・ 治安
・ 医療水準の高さ
が背景にあります。
タイやハワイ、オーストラリアも上位で安定した人気です。
2016年の調査では台湾が大きく躍進しました。
いずれの国も、日本から比較的近いことと、アクセスの良さとその選択肢の多さ(LCC就航、地方空港からの直行便)が人気のポイントです。
海外移住とお金の問題
海外の場合、国によってかなり物価の差が出ます。
マーサーの「世界生計費調査・都市ランキング」によれば、アジアの中でも香港やシンガポールの物価は、すでに日本とさほど変わりません。
物価が安いフィリピン、タイならば、毎月20万円程度の公的年金があれば十分お釣りがきて、プチリッチな暮らしができるようです。
ハワイ、オーストラリアなどは、あまり物価の安いイメージはありませんが、ゴルフやテニスなどのアクティビティが安価で充実しており、食費などの生活費も日本に比べると安くつきます。
オーストラリアの場合、都市にもよりますが、毎月20万円あれば日本の40万円程度の暮らしができるともいわれています。
日本でギリギリの生活をするよりは心も体も豊かな日々を送れるかもしれません。
ビザを取得できるかどうかが課題
海外移住するためには、各国の
・ ロングステイビザ
・ 永住権付きビザ
・ リタイアメントビザ
・ 年金ビザ
などを取得する必要があります。
取得には国ごとに条件があり、現地の銀行に預金が一定額以上あることや、毎月の年金額にも条件が付く場合があります。
例)タイでロングステイビザを取る
・ 満50歳以上
・ 月6万5,000バーツ(約23万円)以上の年金もしくはタイの銀行に80万バーツ(約280万円)以上の預金
・ 医療保険に加入している
などの要件を満たし、これらを証明する書類を提出します。
リタイアメントビザは退職者がロングステイするためのビザで、20~30か国が発行しています。
まずは自分の希望する国でリタイアメントビザを取得できるかどうか調べてみましょう。
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お試し移住をしてみる
以前住んだことがあり、よく知っている国や地域ならさておき、そうでない場合には、イメージだけで思い切るのは危険です。
完全移住に踏み切る前に、「お試し移住」をしてみることをおすすめします。
例えば「一般財団法人ロングステイ財団」では、ロングステイのセミナーや体験ツアーを実施しています。
ロングステイ中は基本的に何でも自分でやらなければなりません。
しかし、旅行に慣れていない人にはそれが難しく、ストレスになることも。
体験ツアーを利用すれば、海外移住のトレーニングができます。
移住中の自宅はどうするか
マイホームを持っている場合、移住に際してそれをどうするかが問題です。
「マイホーム借上げ制度」
売却してしまう前に、利用を検討したいのが、一般社団法人移住•住みかえ支援機構(JTI)の「マイホーム借上げ制度」です。
JTIが住宅を借上げ、転置するもので、空き家になっても、賃料の最低保障が付くので毎月賃料が受け取れます。
50歳以上ならば、国内でも海外にいても利用できます。
と思っても、自宅を引き払い、移住のための諸費用も捻出した後でやり直すのはなかなか大変です。
こうした制度を利用しながら、まずは短期間、現地での生活を体験してみるのがおすすめです。
定年1年目に海外移住するメリット
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定年後に海外で過ごす場合のちょっとした裏技があります。
簡単にいえば、定年してすぐに住民票を海外に移すことで、住民税を支払わなくて済むという裏技です。
住民税は前年の所得に基づいて、今年支払う税額が決まります。
したがって定年の翌年は、仕事がない、あるいは再雇用されたものの給料は安いのに、高い住民税を支払わなくてはなりません。
給与が高かったサラリーマンほど、この住民税の負担は大きくなります。
住民税は、その年の1月1日現在住民票がある自治体に支払うものですので、1月1日時点で海外に住民票を移して、日本にいなければ、支払わなくても済むのです。
ただし1年間のうちおおむね半分以上は実際に海外で居住している必要があります。
退職した後に、海外移住とまではいかないものの、1、2年は海外でのんびりしたいというのであれば、思い切って定年1年目に行けば、住民税の節税という視点で合理的ともいえます。
定年後も長い人生が続く
定年後、人生は20年、30年と続きます。
地方暮らし、都心暮らし、海外と、定年後の住まいを考える時には、
・ 住みたい場所
・ 人間関係
・ 住居費
など、さまざまな視点に立って考えることが重要です。(提供:ファイナンシャルアカデミー 定年後設計スクール)