保険適用医療費の過剰な負担を押さえるための高額療養費制度。ありがたい制度ですが、少子高齢化やそれに伴う国民医療費増大により、医療保険財政は苦しくなる一方です。
そのような中で高額療養費制度も改正され、一定所得以上の高齢者を対象に、医療費の自己負担が増えてきています。
2017年(平成29年)8月に一旦変わりましたが、2018年(平成30年)8月もさらに変更があります。
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目次
70歳以上で高額療養費の限度額さらに引上げ
住民税非課税世帯については今回変更が無く、70歳以上の住民税課税者が今回の引上げ対象です。
住民税の課税所得145万円未満:外来医療費の限度額引上げ
自治体の国民健康保険や後期高齢者医療保険に加入している場合は住民税の課税所得145万円未満、勤務先の社会保険に加入している場合は標準報酬月額(原則として4~6月の給与から決まる月平均給与相当額)26万円以下の方についての改正点です。
高額療養費制度(70歳以上)の所得区分上、一般所得者に該当します。
なお住民税の課税所得145万円以上であっても、70歳以上の単身世帯で年収383万円未満、2人以上世帯で520万円未満であれば、一般所得者になります。
この年収基準は収入金額・売却金額のみで決まり、経費・取得費・諸控除は一切考慮されません。
外来の医療費に関して、1ヵ月(暦月)あたりで決められた医療費自己負担の限度額が、1万4,000円から1万8,000円に引上げとなります。
限度額適用認定証を発行している場合は月あたりの負担が最大4,000円増え、そうでない場合は一旦窓口で負担した医療費からの戻り分が最大4,000円少なくなります。
ただし8~翌7月の年間限度額は14万4,000円と、単純な12倍より低く設定されており、これは2018年8月以降も変わりません。
住民税の課税所得145万円以上:個人と世帯の限度額が同じに
高額療養費は個人単位の自己負担限度額の他、世帯単位の限度額もあります。個人単位は外来医療費のみが対象なのに対して、世帯の限度額は入院医療費も含みます。
課税所得145万円未満の住民税課税者に対しては、世帯の限度額は月5万7,600円ですが、1年間に4回目以降(多数回該当)では、月5万7,600円から4万4,400円に下がります。この限度は2018年8月以降も変更ありません。
一方で課税所得145万円以上(標準報酬月額28万円以上)の「現役並み所得者」では、2018年7月までは
外来入院・世帯:8万100円+(総医療費-26万7,000円)×1%
(多数回該当:4万4,400円)
※総医療費:自己負担割合以外も含む10割負担の医療費
ですが、8月以降は個人・世帯で同額になります(表1)。
表1:70歳以上被保険者の、2018年8月以降の高額療養費・自己負担限度額
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所得に応じて、限度額が3パターンに分かれる点も変更点になります。これは70歳未満の限度額に合わせるための措置です。
高額介護合算療養費の限度額も引上げ
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月単位の限度額を定めた高額療養費制度の他、医療費と介護サービス費をあわせて年単位の限度額を定めた高額介護合算療養費制度もあります。
こちらも一定所得以上を対象に8月から変更になります。
住民税の課税所得380万円以上で変更に
表2:70歳以上被保険者の、2018年8月以降の高額介護合算療養費・自己負担限度額
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住民税課税所得380万円以上(標準報酬月額53万円以上)で、自己負担限度額が倍以上になります。
この制度を活用している場合は、大きく負担が増えることを覚悟しないといけません。
なお介護に関しては、サービス費の負担割合も8月から変更があります。
医療費・介護サービス費の負担割合に関しては、1割負担を2割負担に引き上げたり、1割・2割の対象者を減らして3割の対象者を拡大したりする方向で今後も改正が検討されています。
この点については、後日改めて取り上げたいと思います。
確定申告や年金機構への申告で控除漏れがあると損します
職場の社会保険に加入しているのであれば、給与額のみで自己負担限度額は決まってしまいます。
ただ70歳以上の方は、国民健康保険や後期高齢者医療保険に加入することが多いはずです。
住民税の課税所得は、扶養控除・障害者控除・医療費控除・生命保険料控除などの控除を申告することで引き下げることが可能です。
なお「ふるさと納税」では、住民税の課税所得を引き下げることができません。
控除の申告が漏れてしまい、課税所得を高くしてしまうと医療費負担を重くする場合もありえます。このようなことが無いように気をつけましょう。(執筆者:石谷 彰彦)