「青色申告はぜひやっておいたほうがいい」こんな言葉を目にするかと思います。
ただ、ケースによっては青色申告が負担になることも。
「誰にとっても」、「必ず」青色申告がよいわけではありません。
むしろ、「白色申告」で済ませておいたほうがいいケースもあるのです。
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目次
青色申告のメリット・デメリットと比較すると白色申告が見えてくる
「青色申告はオトク」と一言聞いてすぐに所得税の青色申告承認申請書を提出してしまう方は結構多いのですが、「じゃあ何がオトクなの?」と聞かれるとあまりよく分かっていなかったりします。
ここで一回、青色申告のメリットについて整理してみます。
メリット
・ 青色申告特別控除 : 65万円が経費のごとく差し引かれる
・ 損失の繰越控除 : 赤字になった場合、翌年以後3年間繰越可能(つまり、翌年以後3年間のどこかで黒字になったらそこで節税ができる)
・ 30万円未満の固定資産の購入費用を全額経費計上できる(通常は10万円以上になったらいったん資産計上しないといけない。つまりすぐに全額経費にできない)
・ 家族への給料を経費にできる(原則は家族の支払いを経費にするのはダメ)
メリットは非常に多いですね。
ただ、忘れてはいけないのは「青色申告もデメリットがある」ということです。
デメリット
複式簿記で帳簿つけをしなければなりません。
複式簿記で帳簿つけをすると、貸借対照表(財産や負債の状況を示す)と損益計算書(1年間の経営成績を示す)の両方が自然と作成されることになります。
アナログに伝票や紙の帳簿で処理していくのは大変なので、通常は会計ソフトを導入して帳簿処理を行います。
ここで大事なのは日々の処理です。
うっかりしているとあっという間に記帳しなくてはいけない取引がたまっていきます。
つまり、青色申告には「手間」がかかるのです。簿記3級の知識がないと余計に苦慮することになります。
逆に白色申告はカンタンです。
貸借対照表は不要で、家計簿やお小遣い帳に売上や支払を記入すればいいので、簿記3級の知識がなくてもできます。
また、家計簿やお小遣い帳のかわりにExcelで売上や支払を記録してもOKです。
こういった違いを踏まえた上で、「青色申告よりも白色申告の方が向いている人」を検討すると、おおよそ次のようになります。
白色申告の方がいい人(1): 赤字が確実な人
青色申告には65万円の特別控除があるのですが、これはあくまでも「事業で利益が出た場合」にのみ活きます。
つまり、赤字ならば赤字のままで、それ以上さらに65万円が差し引かれることはありません。
また連年赤字が確実で、黒字の見込みが一切ないような場合は、損失の繰越控除も効果がありません。
翌年以後発生した黒字があって初めて節税効果を発揮するからです。
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白色申告の方がいい人(2): 会計の動きがあまりない人
小売業や飲食業、美容業のように日々売上や経費の動きがあり、帳簿つけが必須の場合、複式簿記はぜひやるべきです。
青色申告のメリットだけでなく、複式簿記で正確に財産や債務の状況や経営成績が明確になることが経営を守ってくれます。
ただ、日々のお金の動きがそれほど激しくなく、月1か週1程度しか経費支払や売上がない場合、売上金額がそれほど大きくないのなら、手間を省く意味で白色申告の方がよいことがあります。
白色申告の方がいい人(3): 家事や育児、介護で忙しく、仕事を手伝ってくれる人がいない人
家事や育児、介護が忙しいと、事業に割ける時間はどうしても少なくなります。
そのため、本腰を入れて利益を上げるのは難しいことが多いもの。
さらに、パートナーや両親など、身近な家族に会計を含めた事務的なことができる人がいない場合、青色申告を選択すると余計な負担がさらにかかります。
家のことで忙しくても利益を出せる場合は別ですが、そうではなく片手間の仕事になっているなら、白色申告の方が精神的な負担は少ないかもしれません。
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「損して得とれ」という言葉があります。
お金のことは数字で明確になるため、人間の損得の意識はどうしてもお金ベースになりがちです。
ただ、お金に執着したばかりに、家族との時間や自分の健康を損ねてしまう人も少なくありません。
目先の税金だけでなく、生活全般を見渡したうえで、青色申告か白色申告かを検討するようにしてくださいね。
なお、青色申告でも、それほど手間のかからない方法もあります。
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こちらもぜひ、検討してみてください。(執筆者:鈴木 まゆ子)