文部科学省は学校給食(完全給食)を実施している、全国の公立小・中学校(約2万9,000校)のうちの583校を抽出して、2012年度の学校給食費の徴収状況を調査しました。
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その調査結果の詳細については、「学校給食費の徴収状況に関する調査の結果について」を見るとわかります。
学校給食費の徴収状況に関する調査の結果について(pdf)クリックして拡大≫
これによると給食費の未納者の割合は、約0.9%(調査対象の児童生徒数:20万5,802人のうちの1,910人)になります。
また給食費の未納額の割合は、約0.5%(調査対象校の給食費総額:約91億1,000万円のうちの約4,500万円)になります。
このように583校を抽出した給食費の未納額が、約4,500万円に達するのですから、全国の公立小・中学校(約2万9,000校)では、約22億円に達すると推測されるのです。
目次
給食費の未納の主な原因は「保護者としての責任感や規範意識」
調査結果の中にある、「(1)児童生徒毎の未納の主な原因についての認識」によると、学校側は給食費の未納の原因について、次のように回答しております。
保護者の経済的な問題:33.9%
その他:4.9%
このように学校側は給食費の未納の原因を、保護者の経済的な問題というよりも、保護者の責任感や規範意識だと考えているようです。
ただ学校側はそれぞれの家庭の経済事情を、すべて把握しているわけではありませんから、保護者が同様の質問に回答したら、違った結果になった可能性もあります。
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児童手当からの給食費の徴収を、実施している学校の割合は少ない
給食費の未納者や未納額を減らすため、給食費の回収業務の一部を、弁護士に委託する市区町村が現れました。
債権回収で実績のある弁護士に委託すれば、未納者や未納額は減っていくと考えられますが、その分の費用がかかってしまいます。
もっと費用をかけないで、給食費を徴収できないのかと思っていたら、冒頭で紹介した調査の中に、「(2)児童手当からの学校給食費徴収」という質問が記載されておりました。
市区町村が児童手当から給食費を差し引き、残高だけを保護者に支払うようにすれば、あまり費用をかけないで、給食費を徴収できると思うのですが、その実施状況は次のようになっております。
実施していない:69.1%
これを見ると児童手当から徴収していると回答した学校の割合は、意外に少ないという印象を受けました。
児童手当の受給権は保護されているため、強制的に差し引くのは難しい
児童手当の支給要件や金額などが定められている児童手当法の、「第15条」を見てみると、次のように記載されております。
このように児童手当の受給権は保護されているため、給食費が未納になっていたとしても、市区町村が児童手当から強制的に差し引くのは難しいのです。
ただ児童手当法の「第21条」を見てみると、児童手当を給食費に充ててくださいという保護者からの申出があれば、市区町村が児童手当から給食費を差し引き、残高だけを支払うようにできると記載されております。
つまり保護者が児童手当からの給食費の徴収に対して、同意するのかがポイントになるのですが、給食費を未納にする原因が上記のように、「保護者としての責任感や規範意識」だとしたら、同意する保護者は少ないと思うのです。
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給食費の強制徴収のために活用されている「支払督促」
保護者が同意していないにもかかわらず、児童手当から給食費が差し引かれるケースもあります。
例えば市区町村の申し立てにより、裁判所書記官が給食費の未納者に対して支払いを促す、「支払督促」の手続きが行われた場合です。
給食費の未納者が支払督促を受け取ってから、異議を申し立てずに2週間が経過した場合、市区町村は仮執行宣言の申立てをすることにより、強制執行(財産の差し押えなど)が可能になります。
この強制執行では給与、預貯金、不動産などの財産が、差し押えの対象になります。
預貯金口座に振り込まれた児童手当は、原則的に差し押えできる
児童手当法の「第15条」を見てみると、上記のように児童手当の受給権は、差し押えできないと記載されております。
そうなると預貯金口座の中にある、児童手当として振り込まれたお金だけは、差し押えできないと考えてしまいます。
しかし児童手当が預貯金口座に振り込まれた時点で、預貯金口座の中にある他のお金と、同様の取り扱いになってしまうため、差し押えが可能になるのです。
もちろん例外もあり、児童手当として振り込まれたお金を、狙ったのではないかと推測される差し押えが争われた裁判では、その差し押えが違法と認定され、取り消しされました。
ただ原則的には児童手当が預貯金口座に振り込まれた時点で、差し押えが可能な財産に変わってしまうのです。
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給食費を支払うのが難しい場合、公的な援助制度や貸付制度を利用する
支払督促が届いて困っている方などは、各都道府県にある弁護士会や、住所地の市区町村が実施している市民(区民、町民、村民)相談の、法律や行政などの専門家に、相談してみるのが良いと思います。
ただ相談が終わった後に弁護士などに依頼すると、その分の費用がかかってしまいます。
そのため、市区町村などの担当者に相談して、分割払いに応じてもらうのが、現実的な解決策になるのかもしれません。
なお保護者の経済的な問題により、給食費を支払うのが難しい場合には、小・中学校の就学に必要な費用の一部を、国や市区町村が援助してくれる「就学援助制度」を、早めに申請した方が良いのです。
また各都道府県にある社会福祉協議会が、低利子や無利子の貸付を実施しているため、お金が足りないからといって、すぐにカードローンなどに手を出すのは、止めておいた方が良いと思います。(執筆者:木村 公司)