トランプ大統領が米証券取引委員会(SEC)に、四半期決算開示を廃止した場合の影響を調査するように要請したことが話題になりました。
トランプ氏自身に、四半期開示を廃止したほうがいいのではという考えもあるのですが、これはトランプ氏と交流のあるペプシコCEOの要望が原因です。
日本の上場企業は、従来6カ月毎に中間と期末の決算発表を行っていましたが、米国にならって3カ月毎の決算を組み開示する四半期決算の制度を導入しました。
このため、「アメリカがやめてしまうのかよ」という声もあがりました。
しかし欧州では四半期開示の義務をなくしている国もあり、この流れに米国にも及ぶと、日本への影響も考えられるところです。
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目次
EUでは四半期開示義務廃止も
企業側の負担になるというだけでなく、3か月ごとに開示する業績に株式市場が一喜一憂することで、企業側も短期的な利益追求に傾いてしまうというデメリットも考えられます。
四半期開示義務を廃止することで、企業が長期的視点で成長できる環境を整えようという狙いもあり、EU圏内ではこの狙いに基づき、2015年11月までに四半期開示義務廃止の動きが進みました。
少なくともイギリス・フランスでは開示義務は無くなり、各企業の任意で開示することになりました。
ドイツでは法律上はありませんが、取引所規則で開示義務があります。
日本でも進むか
あまり大きく報道はされなかったのですが、実は日本でも2017年度(2018年3月)に経団連が(EUでの流れを受けて)四半期開示制度の見直しを要望しておりました。
廃止の他、携わる担当者の負担軽減のため開示項目の見直しも要望しています。
決算を開示する上場企業側から見れば、投資家への情報提供(いわゆるIR活動)の一環とは言え、企業の利益を獲得する業務とは言い難い「管理業務」ですので、負担を減らせないかという考えがありました。
日本政府も未来投資戦略2017で、四半期開示の廃止や開示項目についての検証について触れており、実際にはそれ以前にも四半期開示制度に関して議論がありました。
日本政府が実際に四半期開示廃止の考えに傾くかはわかりませんが、8月になってトランプ大統領が自ら四半期制度について発言したことは、少なくとも財界には渡りに船なのかもしれません。
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働き方改革と監査法人の人手不足の観点から
四半期決算開示前には経理・財務部門の業務量が多くなり残業も増加しますが、開示時期が半減することで業務量が減少します。
これは残業を抑制しようとする、昨今の働き方改革の観点からもマッチしています。
もう1つ監査法人側で起きている問題として、会計士の人手不足があります。
一方で不正会計問題に対する問題意識の高まりから監査の質も求められているので、人手不足に対応しながら質を担保するために、四半期開示義務廃止の流れへとつながることも考えられます。
日本では3月決算企業が多いですが、12月決算企業も増えつつあります。四半期決算制度の下では、締めの翌月や翌々月にあたる1・2月や4・5月に、3月決算企業・12月決算企業両方の監査が求められます。
これが半期決算になれば、1・2月は12月決算企業の、4・5月は3月決算企業の監査に集中できるというメリットも生まれます。
個人投資家には情報を知る機会が減るが
残念ながら個人投資家にとっては情報を知る機会が半減してしまいます。
経営に与える悪影響も必ずしも断定できるものではありませんが、世界の流れとしては四半期開示を無くしていく方向であることを踏まえて、制度の行方を見て行ったほうがいいです。(執筆者:石谷 彰彦)