不動産市場関係者の間でもっぱら話題になっているのは、
ということです。
当然、業界関係者は「下落しない」ことを望んでいることでしょう。
不動産会社によれば、アパート経営者が東京オリンピック以降の不動産価格下落を意識して、今のうちに売却する動きが見られているようで、管理収入減少に歯止めがかからないと嘆いているようです。
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目次
「2020年問題」と「2025年問題」
「2020年問題」とは、東京五輪が閉幕する2020年を境にマンション価格を含む不動産、雇用に関する仕事、教育などに問題が起こるリスクとされています。
不動産業界では、2020年を待たずに価格下落が見られるのではと戦々恐々としています。
一方「2025年問題」とは、日本が直面する本格的な超高齢化社会問題で、2025年は戦後のいわゆるベビーブームに生まれた世代が75歳の後期高齢者の年齢に達する年で、そのことにより社会保障制度維持が危ぶまれるというものです。
社会保障に限らず認知症患者の増加が予想されるなどの問題が絡んできます。
2025年以降は、消費や投資がしにくくなるのではと言われています。
そもそも不動産価格の決まり方は…

不動産価格とは「土地の値段」ですが、なにも土地に値札がついているわけではありません。
その土地に落とすお金の額で土地の評価額が決まります。
「その土地に落とすお金」とは、その土地の上での消費額を表します。
平米あたりに落ちるお金、つまり経済活動によりいくら消費したかが土地評価額にかかわってくるのです。
2018年7月1日時点の基準地価で日本一高いとされる東京・銀座二丁目「明治屋銀座ビル」は、言い換えれば「日本一消費が活発な場所」だということになります。
一方山奥の土地は、その土地に落ちる金額、つまりはその土地の上での消費行動が見られないので土地評価額が低いということになります。
不動産価格に差があることは、なんとなくイメージしていただけましたでしょうか。
「インバウンド」が押し上げている不動産価格
国土交通省が9月18日に発表した2018年7月1日時点の基準地価は、前年比で27年ぶりの上昇に転じました。
日経新聞電子版記事(2018年9月18日)には
「訪日客需要を見込んだ店舗やホテルの建設が進み、各地方の中核都市がけん引役となって商業地が3年連続でプラス。
住宅地は下落だが、低金利などを背景に改善が続く。バブル崩壊以降、地価はマイナス圏で推移してきたが、資産デフレの解消に向けて緩やかに前進している。」
と解説しています。
ここでのキーワードは「訪日観光客」、インバウンド需要です。
同記事では、「地価上昇の大きな要因は増え続けている訪日客だ」と明言しています。
記事には
訪日観光客は、2017年には過去最高の2,869万人となり、全国各地で買い物や宿泊などの需要を生み出していて、その恩恵を受ける店舗やホテルなどの立つ商業地は全体で1.1%の基準地価上昇となっている
とあります。
さらに記事には、観光資源が豊富で、訪日客の人気が比較的高い地方中核4市(札幌、仙台、広島、福岡)は9.2%と大幅に伸びたともあります。
外国人に大人気のスキー場で有名な北海道のニセコ地域や、訪日観光客の定番でもある京都市内の観光名所周辺、さらに交通の便が良いJR名古屋駅前などが地価上昇率上位にランクインしているようです。
北海道ニセコスキー場に関しては、ホテル従業員や外国人富裕層が居住する虻田郡(あぶたぐん)倶知安町(くっちゃんちょう)の地価も大きく上昇しています。
最近は京都のホテルは予約がとりづらく、また値段が高くなっていますよね。
このインバウンド需要により不動産価格が上昇していることから、今の不動産価格を「バブル」とみる市場関係者もいるようです。
消費が土地の値段を決めるという仕組みが、なんとなくご理解いただけたかと思います。
東京五輪以降は景気が減速する?

土地価格はその土地にいくらお金を落とすのか、いわゆる消費行動で決まることを見てきました。
その消費は景気に左右されます。景気が良くなると消費は増え、景気が悪くなると消費は減ります。
つまり景気と不動産価格は密接な関係にあると言えます。
今回のコラムのテーマとなる「東京五輪後の不動産価格」を考える上で、2020年以降は景気が後退するのかを見極めることが重要になってきます。
今の日本で「東京五輪後」という表現があるのは、ちょうどいろんなことが2020年に重なっていることにあるのかもしれません。
それで「東京五輪後」という言葉が、象徴的に使われているのかもしれません。
たしかに、東京五輪に向けて公共投資が活発になるのは明らかで、五輪後はそれらがなくなることによる景気へのインパクトは十分に考えられます。
政府は五輪後も新しい公共事業を準備していて、それがリニアモーターカー事業でありIR事業(カジノ施設建設等)なのでしょう。
ただ日本特有の事情としては
・2025年問題
・インバウンド需要依存
があり、これらが東京五輪の時期と重なり、五輪閉幕後の訪日観光客の減少は避けられないことから、どうしても五輪閉幕後の景気をネガティブに捉えてしまうのでしょう。
カジノ誘致で訪日観光客をつなぎとめるとしてもまだ先の話ですし、消費税率引き上げや超高齢化社会問題はどうしようもありません。
前述の通り、訪日観光客と不動産価格は、大きな関係になるようですからね。
外部環境としては、米国経済の影響を日本は大きく受けますし、中国経済の動向も日本経済にとっても重要な要素となってきます。
ブルーンバーグ電子版では、資産家でヘッジファンド運用者のレイ・ダリオ氏は、米国は2年後に景気が下降に転じる可能性が高いとの見方を示したと報じています。
ドルは大きく下落すると予想しているそうです。
中国経済の成長率も鈍化していて、将来の危うさを匂わせています。
もちろん政府がどのような政策を打ち出してくるかにもよりますが、冷静に考えて、将来展望は厳しいものがあると判断するのが妥当かと思われます。
特に住宅購入に関しては、消費税は重要な要素で、2019年10月に予定している消費税率10%への引き上げによる住宅購入の駆け込み需要の反動減を、どう克服するかという課題は避けられないでしょう。
不動産価格は2020年の東京五輪と前後してピークアウトを打つというのが、どうやら業界関係者の共通の意見のようで、なかには、新築販売部隊を縮小してリフォーム部隊を拡充している会社もあるという話も聞いています。
新築物件は売れないと見込んでの事前準備だそうです。
一説には、東京五輪後の景気後退は、あのリーマンショック後よりも厳しい景気後退が来るという市場関係者の声もあるようです。
アパート経営などの不動産投資について
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東京五輪閉幕後は訪日外国人の数が減ることが予想されます。
ニセコや京都などのレジャー観光目的は別として、海外の人たちにとっては東京五輪が終われば東京にこだわる理由はなくなりそうですね。
経済が東京に集中する要素が消え、むしろ地方分散が政府の政策となりそうです。
アパート経営などの投資物件に関しては、東京一極集中がどう変わるかの見極めも必要ですが、東京五輪後の東京都内での優位性は見直す必要があるかもしれません。
さらに、昨今の不動産投資に関する銀行の不正融資問題から、不動産投資への融資が慎重になっていることも、不動産投資に影響がないとは言えないでしょう。
長期化する低金利政策により、地方銀行は疲弊しています。
そこに不動産投資への規制が加われば、ますます地方銀行は経営が厳しくなってきます。
銀行と不動産投資は、切っても切れない関係にありますからね。
アパート経営の投資は厳しくなる
そもそもアパート経営等、何年にもわたって収益が出るのか、空室リスクへの対応は大丈夫なのかをよく検討してみてください。
「かぼちゃの馬車」問題も、所有者に保証した賃借料を毎月支払う「サブリース」が問題になっていましたからね。
移民を受け入れない日本においての人口減少問題は、アパート経営のような投資には厳しい環境と言えそうです。
景気後退は収入減少に繋がりますので、予定していた家賃収入が確保できるのかをよく考えておきましょう。
関連記事:【不動産投資商品】「かぼちゃの馬車」全容と投資スキームの失敗 販売側と融資側、そして投資する側にも問題があった
住宅購入に関して
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買う側とすれば、消費税の問題が一番重要です。買うなら消費税率引き上げ前でしょう。
ただ、政府は何らかの優遇措置を出してくることも考えられます。
さきほどの日経新聞記事によれば、住宅地の価格は下落しているそうで、住宅地で全国1万4,634地点のうち、約55%が下落していて、都市部も地方も二極化の傾向が続いているとあります。
買う側とすれば、住宅価格が安いに越したことはないですが、購入した住宅を「資産」と思わないことです。
景気後退局面では個人の収入が減ります。
不動産は相対取引で、買いたい人がいなければ売ることはできません。
売り手の事情でことが進むとは限りません。
また売却額が希望通りになるかどうかも、その時の景気状況で変わります。
今住んでいる住宅を「資産」とは思わないようにしたほうがよいでしょう。
不動産価値の考え方
不動産取引は、株や為替のように市場で取引するのではなく「相対取引」といわれる、一対一の取引、つまり買いたい人がいて初めて成立する取引です。
取引価格は、売りたい人と買いたい人とで決めることになります。
売りたい人が個人で、買う側が不動産会社ということもありますが、その場合は、一般的に個人間取引よりも取引価格は下がることが多いです。
また不動産会社も、手にした不動産をほかの人に売れる見込みがないと買わないでしょう。
つまり不動産価格は、評価額はあっても、実際に取引される価格が違うことはよくあることです。
「評価額」と「取引額」は違います。
景気が良ければ、不動産を買いたいという人も見つけやすいでしょうが、景気が悪くなるとなかなか買い手が見つからないということが想像されます。
不動産はあくまでも評価額であって、すぐ手にできる現金ではありません。
業界発の情報は都合よく加工されることが…
不動産関係者は東京オリンピックが終わっても不動産価格は下がらないことを願っているでしょうし、そう信じたいところでしょう。
だから五輪閉幕後も不動産価格が下がらなかった事例を探して、それをもとに東京五輪終了後も不動産価格は下がらないというストーリーを考え、そのようなストーリーで顧客に説明することも多いのではないでしょうか。
よく聞くのは、ロンドン五輪が終わっても不動産価格下がっていないことを取り上げたり、一部では、前回の東京五輪の例を引き合いに出したりして、今回の東京五輪が終わっても不動産価格は下落しない可能性を模索しているようです。
このようなことは不動産業界に限ったことではありません。

金融業界でもあった「ペイ・オフ解禁」の解釈の違い
かつて「ペイ・オフ」が解禁になったときに、その解説セミナーが盛んに行われましたが、主催金融機関によっては「ペイ・オフ解禁」の解釈が大きく異なっていました。
銀行系金融機関主催セミナーでは、預金保護を前面に出して、銀行は安全という側面からのセミナー内容が多かったです。
証券会社主催セミナーでは「これでリスクがない金融商品はなくなった」というイメージの内容で、「これをきっかけにリスクを取って運用しよう」という内容でした。
保険会社は、元本保証を前面に出して生命保険の貯蓄機能をアピールし、銀行から保険への資金シフトを誘導する内容のセミナーが多かったと記憶しています。
同じ「ペイ・オフ」でも、金融機関によって、制度のとらえ方や説明の仕方は異なってきます。
注目する場所、光を当てるところが違うと、全く違う意味に捉えられるものです。
ロンドン五輪後の不動産価格は、確かにオフィス物件は下がっていないようには思えます。
また前回の東京五輪の時とは経済環境がまったく違うので、そもそも比較すること自体に無理があると思います。
情報は伝え方で意味が変わってくるものです。
余談ですが、過去のチャートの切り方によっては上昇に下落にも見えますし、チャートの年数の取り方で、変動(ぶれ)が大きく見えたり小さくいえたりするものです。
まとめ
先行きは不透明…。
これは当たり前のことで、未来がわかれば誰も苦労などしませんよね。
でも、ある程度「どうなるか」を予想して対処するのが「おとな」です。
そしてその分析の精度を上げるのが「プロ」の仕事です。
当然ですが、そこに商品販売の概念は存在してはいけないですし、主観を挟んでもいけません。客観性が大事です。
それで客観的に見て、日本の場合は、日本固有の事情がかなり厳しく、容易に避けられないものばかりなので、厳しく見積もったほうが良いと考えます。
「大人の対応」とすれば、景気後退に備える行動を今から心がけることが大事だと判断しますが、皆さんはいかがお考えでしょうか。(執筆者:原 彰宏 )