年金の仕組みは理解するのが複雑ですが、年金制度について解説します。
目次
娘さんから質問の要約
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社会保険事務所、年金事務所へ5回ほど訪問しましたが、加入25年に23月不足とのことで年金支給に至りませんでした。
何回目かの担当者の時、カラ期間があるので25年の期間を満たしていることが分かりましたが、5年以前の分は、時効で支給できないと言われました。
今般、支給要件10年に短縮になりましたので、手続きをして現在返答待ちですが、さかのぼって全額は貰えない可能性があるそうです。
どうしてこういうことが起こったか?
どうすれば全額貰えるのかおしえてもらいたい。
1. 年金制度の変遷
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年金制度、法律扱、ねんきん定期便などの経緯
・昭和61年~平成29年7月31日: 強制加入の制度となり、保険料納付済期間は25年加入が必要。
・平成29年8月1日~: 保険料納付済期間が10年以上に短縮。
※対象者には、平成29年2月末から平成29年7月までの間に日本年金機構から「年金請求書」を送付。
2. 年金記録問題と組織変更
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(1) 年金記録問題と不祥事
H18 2006:国民年金保険料の不正免除。
H19 2007:社会保険庁のデータに欠落や記入ミスが発覚し、年金記録問題が大問題に発展。
(健康保険や厚生年金保険料の滞納事業者に対し、延滞金を不正に減額した等。)
H22 2010:機構職員と社保庁OBの官製談合。
H25 2013:過去の記録ミスによる支給漏れを支払う「時効特例給付」が行われておらず、約10億円の未払いが発覚。
H27 2015:125万件の情報流出
年金記録問題については厚労省HPに、毎月の進捗管理状況を記載しています。
(2) 組織変更
平成22年1月(2010)から、政府は「日本年金機構」を設立し「社会保険庁」の業務を移管。
下部組織の「社会保険事務所」は「年金事務所」に名称変更。
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3. 受給申請時の期間カウントについて
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(1) 共済期間
平成27年までは、共済組合期間は社会保険庁では把握できませんでしたが、平成27年12月から「ねんきん定期便」で共済の年金加入記録の記入欄が新たに設けられています。
(2) 合算対象期間(カラ期間)
合算対象期間(カラ期間)は、受給資格期間には含まれますが年金額には反映されない期間のことです。
国民年金への加入は、昭和36年4月~昭和61年3月の期間は「任意」でした。
この期間は、加入しなくても年金の受給資格期間にはカウント(例えば専業主婦などでは20歳から60歳までの期間に限る)できますが、年金額には反映せず「カラ期間」とも呼ばれます。
保険料追納もできません。
国民年金は、厚生年金保険や共済組合等に遅れて昭和36年4月に創設、これら複数制度への加入期間を通算して、受給資格期間として計算する(通算対象期間)ことになりました。
昭和61年4月には、制度の改正・統合により「基礎年金制度」となり、専業主婦などは国民年金への加入は任意だったので、加入しなかった多くの人は保険料未納扱いとなってしまいました。
「払う義務があるのに、払わなかった滞納期間」と同等に扱うわけにはいかず、何らかの救済をする必要があり、「任意加入できたけど、任意加入をしなかった期間」や「そもそも払うことができない」適用除外の期間について、受給資格期間に特別に合算することにしました。
(3) 自分の受給資格期間の確認
「年金記録問題」は世間を騒がす大問題になりました。
「共済期間」、「記入漏れ」、「カラ期間」などの国の年金記録は、間違っている事がありえますので、内容は自分で確かめることが必要です。
現在、受給資格期間や記録の漏れは「ねんきん定期便」で自分の過去の状況をチェック出来ます。
「ねんきん定期便」は、年金情報を定期的に本人に連絡し自分の年金加入記録を確認してもらい、年金制度の理解を深めてもらうことを目的としているとのことです。
「年金加入履歴」に「空いている期間があります」の表示があれば詳しく調べ、どんなカラ期間に該当するかをご自身で確認してください。
4. 時効
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(1) 年金時効
日本年金機構は、次の様に記載しています。
年金を受ける権利(基本権)は、権利が発生してから5年を経過したときは、時効によって消滅します。
(国民年金法第102条第1項・厚生年金保険法第92条第1項)
ただし、やむを得ない事情により、時効完成前に請求をすることができなかった場合は、その理由を書面で申し立てていただくことにより、基本権を時効消滅させない取扱いを行っています。
(平成19年7月7日以降に受給権が発生した年金について、時効を援用しない場合は、申立書の提出は不要です。)
年金時効特例法による措置です。

(2) 消滅時効の取り扱い
従来は、年金受給の権利発生から5年で時効消滅していましたが、平成19年 年金時効特例法で緩和されています。
平成24年には「日本年金機構理事長宛」で「厚生労働省大臣官房年金管理審議官」が「年金事務所等に周知徹底を図り遺漏のないよう取り扱うよう」書類で「通知」を出しています。
5. 国民年金の不服申し立てと疑義照合について
(1) 年金の決定に不服があるとき(審査請求)
年金の決定に不服があるときは、決定があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内に文書または口頭で、地方厚生局内に設置された社会保険審査官に審査請求することができます。
その決定に対してさらに不服があるときは、決定書の謄本が送付された日の翌日から起算して2か月以内に社会保険審査会(厚生労働省内)に再審査請求できます。
詳細は「日本年金機構」のホームページでご覧ください。
分からなければ、年金問題に詳しい社会保険労務士又は弁護士に相談されることをお勧めします。
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(2) 疑義照合
年金事務所では判断できない案件は、日本年金機構に「疑義照合」の形で問い合わせを行います。
「日本年金機構」の「主な疑義照会と回答について」のページで、実例がわかります。
6. まとめ
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年金記録問題の発生の対策として組織変更や法律改訂がなされていますが、不祥事は根絶されたわけではないと考えるべきでしょう。
年金記録の「保険料納付済期間」は、共済組合期間、カラ期間は自分で確認する必要があります。
「年金加入履歴」に「空いている期間があります」の表示があれば詳しく調べ、どんなカラ期間に該当するかをご自身で確認してください。
共済の加入履歴は平成27年から、日本年金機構で分かるようになりましたが、それまでは日本年金機構(社会保険庁)では分からず、共済組合に問い合わせる必要がありました。
権利発生から5年で時効消滅していましたが、平成19年 年金時効特例法からは緩和されています。
平成24年には「日本年金機構理事長宛」で「厚生労働省大臣官房年金管理審議官」が「年金事務所等に周知徹底を図り遺漏のないよう取り扱うよう」書類で「通知」を出しています。
年金の決定に不服があるときは、決定があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内に文書または口頭で、地方厚生局内に設置された社会保険審査官に審査請求することができます。
その決定に対してさらに不服があるときは、決定書の謄本が送付された日の翌日から起算して2か月以内に社会保険審査会(厚生労働省内)に再審査請求できます。
社会保険事務所(又は、年金事務所)の職員の対応が異なった本当の理由は分かりませんが、年金関係の法律改訂に従って担当者の対応が変化している可能性も考えられますし、個人の資質の差かもしれないですね。
今回の手続きの結果、許容できる範囲ならいいですが、内容に対して不服申し立てをしたい場合、自分で不服申し立て手続きにチャレンジしてみるか、費用は発生する可能性はありますが、年金問題の詳しい社会保険労務士か弁護士に相談してみましょう。(執筆者:淺井 敏次)