インターネットが日本に導入されてもう20年以上が経過する。
マーケティングの手法もどんどん進化している。
その中で、口コミを利用したマーケティングを実施している企業、個人の方も多い。
実際の経験と他国の事例から、口コミマーケティングは時間経過で広がるのではなく、自らが設計してのみ広がると言える。
口コミと言えば中国、中国の事例と、理論から述べたい。
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目次
1. 中国の口コミマーケティング実情
中国でも日本同様マスメディアの重要性が相対的に低下し、インターネットを利用したマーケティングが盛んである。
特に最近まで一人っ子政策を推進していた中国では赤ちゃん用の製品は、口コミサイトを利用したマーケティングが盛んであるのでこの事例を紹介する。
具体的事例を紹介する前に、まずは中国の赤ちゃん用の口コミサイトの簡単な状況を記載した。
サイト
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「宝宝樹」、「〇〇邦」、「〇〇網」(〇は女偏に馬)、「育児網」等が代表例である。
利用するための条件
PCと携帯両方のメディアが存在しているが、携帯の使用率が多いので、携帯サイトを使い紹介する。
まず女性が妊娠した場合に、赤ちゃんが生まれる予定日、そして携帯番号なども事前に登録する。
そうすると、無料でサイト内の情報を検索、収集できる。(中国の携帯番号は、IDカードと紐づけされているため、非常に番号の信用度は高い)
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サイト内で利用できる情報
サイトによっても若干の違いはあるが、
赤ちゃんの食事
生まれた後の赤ちゃんのケア
育児専門家へのQ&A、等
つまり妊娠生活、及び赤ちゃんが生まれた後の情報ほとんどが検索できる。
また、情報提供だけではなく、商品を購入することができる。
これらのサイトを総合して、中国では「口コミサイト」と呼んでいる。
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実施している企業の紹介:粉ミルクメーカー
サンプリング
メーカーは、サイトを利用するお母さんに対し、商品を無料で提供している。
写真では、粉ミルク、口紅を掲載。
そのほかに、紙おむつ、衣服など多くの製品が競って、サンプル提供を行っている。
今回紹介するのは粉ミルクです。
粉ミルクの場合は、一度味わった味は、なかなか変更しないという習性を利用し、産前から情報提供し、生まれた後にすぐに利用してもらえるように商品サンプルを提供している。
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情報提供
メーカーが、商品に対する特長を消費者に対して理解させるため、写真や映像などを用いて、情報を提供している。
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お母さん同士の情報交換
口コミサイトと言われる所以は、お母さんがサイト内で、産前産後の悩み、解決すべきことを情報交換する。
そして、商品に関してよかったもの、良くなかったものなどの情報も含む。
リアルに情報交換するため、情報の信頼性は極めて高い(日本と違い、身分証明書と携帯番号が紐づけされているため、偽情報は書きづらい環境にある)
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個人情報収集
サンプリング申請者に対して、サイト運営者から、個人情報を取得。
その後個人に対する情報提供を行うことができる。
ターゲットが合致しているため、非常に効率的なマーケティング活動ができる。
このように中国では、赤ちゃん用の商品を中心に口コミメディアを利用して、盛んにマーケティング活動を行っている。
決して口コミを自然の流れに任せて行うことはない。
赤ちゃん用品のように口コミサイトがない場合は、オンライン販売サイト(天猫、京東、Koala)や、We Chatの自社サイトで、積極的に商品情報を提供し、We Chatの自分の友人にそれらの情報を拡散させている。
いずれの場合も自然に商品特長が広がることを待たずに、メーカー自身が消費者に仕掛けている。
逆に口コミが自然と広がらない理由は何でしょうか?
2. 口コミが自然に広がらない理由
ユニーク性がない
世代間によっても思い出すユニーク性のある商品は異なるかも知れないが、例えば、下記の商品は非常にユニーク性がある一部である
・Frisk:1994年頃に日本に輸入された、販売が急拡大した清涼菓子。(あるセミナーで、当初のターゲットは女性であったが、実際は男性が利用して急拡大したとのこと)
・「脂肪を燃やす」というエコナクッキングオイル(オイルは脂肪でできているという常識を覆し、健康なオイルという価値創造)
ユニーク性がある商品であれば、人間の行動特性として、自然と周りに広げたくなる。
逆に言えば、ユニーク性がなければ、周りの人に言わないものである。
ユニーク性についての定義はさまざまだが、「市場に存在しないカテゴリー」、「存在するカテゴリーでも新しい価値であること」などがユニーク性といえる。
ただ、ユニーク性のある商品を販売している企業はごくわずかであるため、単純に商品を発売したからと言って広がらないということが容易に想像できる。
人間の行動特性
中国人の特性の「口コミ」パワーは、世の中の情報が信用できない状況から、友人の「口コミ」を生きるツールの一つとして活用している。
その範囲は、家族+αである。(中国語で自己人という。)その中国でさえも、自然に広がるうわさではなく、仕掛けとしての「口コミメディア」を大きく活用している。
一方日本人は、中国語の自己人という範囲はなく、家族がそれにあたる。
口コミといっても広がる範囲は定性的ではあるが中国よりも狭い。
オンラインでつながっている = 広がっているという錯覚
オンラインに掲載すると、誰かが情報を広めてくれると思っている人は非常に多い。
ネットの情報は確かに豊富に存在するが、興味のない情報は一般的には収集すらせず、広めることもしない。
紙の新聞であれば、いや応なしに興味のある情報、ない情報が1ページに詰まっているため、偶然にも情報を拾ってしまうことはある。
ネットではそういう偶然は、検索したWebページに動画面に出ていない限り、情報を拾うこともないし、広げることもない。
3. 日本型の口コミマーケティング
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ブランディング + 4Cの設計
ブランディングは当方が以前に寄稿した記事に述べている。
関連記事:外国人観光客を増やす仕掛け 「神戸の有馬温泉」を事例として説明します。
もう少しマーケティングの視点を入れて記載した。
(1) 基本的便益 + 情緒的便益 + 自己実現価値の設計。
本によっては「製品」、「組織」、「人」、「シンボル」と記載している内容もあるが(引用元:「ブランド優位の戦略」Dアーカー、ダイヤモンド社)、いずれもブランドとしての基本設計をしっかりとする必要があるということである
(2) ブランド知名 + ブランドイメージ+ブランドロイヤルティ + ブランド連想のコントロールを行うことである。
これは、(1)の設計に対して、(2)で消費者データを取得して検証することである。
特にブランド連想に関して、メーカーが訴求した内容や、ターゲットが一致しているかという視点は忘れてはいけない。
ずれている場合は実行内容の修正、または、ブランド設計の修正を伴う非常に重要な検証である。
やりっぱなしになった場合は絶対に成果はでないと肝に銘じるべきである。
(3) 4Cの設計
最近はメーカー視点の4P(Product、Price、Place、Promotionマッカーシー米国のマーケティング学者が提唱。)ではなく、(4Cを使うマーケッターが多いため)4Cの設計がより重要である(Customer value, Customer Cost, Convenience, Communicationロバートローダ―ポーン、)
HP等でユニーク性を記載
メディアの費用は有限であるので、少なくとも、HP等でブランド設計をHPなどで記載する作業をする必要がある。
ブランドは単なる名前ではなく、カテゴリーだけでもなく、生き物のように変化している。
差別性のあるものである。それを発信者として一定の内容を保つために、HP等で発信する必要がある。
スターバックス、ドトール、セブンイレブン、ローソンのコンビニコーヒー、ルノアール等のコーヒーは全く異なるイメージを消費者は持っている。
コーヒーというカテゴリーに埋もれてはいない。
日本であれば、PCのHP以外に、オンラインサイトで自社の価値を伝えることができれば変わるかもしれない(アマゾン、楽天などのページで、商品の文字情報だけではなく、写真や映像などをふんだんに掲載すること)
協力者の探索(粘着性から突破口を開く)
ネットの普及で、溢れた情報を精査する意味でも、原点に立ち返り、信頼のおける人、メディアを利用して、ブランド、商品の価値伝達の突破口にしたい。
中国と日本は、メディア事情はことなるが、中国での口コミ盛んな社会でさえも、口コミメディアを使い、盛んにマーケティングを行っている。
日本ではなおさらである。
そして、メーカーから消費者に仕掛けて、商品、サービスを利用して頂くという視点は同じであり、必要である。
製品のユニーク性が仮にないにしても、コンセプトを含めた「商品」では、ユニーク性を創造することは可能である。
中国のWe Chatのような位置づけでLineが普及すれば、もう少し変わるかも知れないが、原則に立ち返る必要がある。
また、カテゴリーによっては口コミサイトがないかもしれないが、仕掛ける基礎は同じである。
まずは、しっかりとブランドのコアメッセージを決めて、信頼できる人に託し、広げていけば、可能性が高まる。
製品にユニーク性はなくても、十分にブランドを構築することは可能である。
またQRコードで電子決済が増加し、累積された個人情報の有効活用ができれば、さらに可能性が広がるだろう。(執筆者:廣田 廣達)