そんなふうに安堵の表情を浮かべるのは今回の相談者・大山淳貴さん。
淳貴さんは3年にわたる不妊治療の甲斐もあって、ようやく子を授かることに成功したのです。
淳貴さんが現妻の沙織さんと結婚(再婚)したのは今から3年前。
2人とも子どもを望んでいたのですが、どうしても自然な形で妊娠するに至らなかったそうです。
それでも2人は子どもをあきらめきれず、不妊治療に踏み切ったそうです。
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しかも、妊娠判定が出た後も、妻はホルモン投与を続けなければならないようで、薬代として毎月2万5千円かかるのですが、正直なところ、僕にとっては厳しい金額なんです。」
目次
家族構成と登場人物、属性(すべて仮名。年齢は現在)
現妻 :大山沙織(38歳)→ 専業主婦
前妻 :山形陽子(43歳)→ 専業主婦
前妻との子 :山形向日葵(14歳)→ 淳貴さんと陽子さんの長女
結婚当初、淳貴さんには全く貯金がなかったので、不妊治療を受けるにあたり、淳貴さんの両親から30万円、そして現妻の両親から60万円の援助を受けたのですが、妊娠までの費用で援助金は底を尽いてしまったそう。
「年金暮らしで余裕がないから、これ以上は無理だから」さらなる援助を両親に求めようにも、すでに断られてしまったとのこと。
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不妊治療の費用
2年目 約13万円
3年目の半年間 約18万円
(病院へ変更したため、再度、一通りの検査が必要になった。)
体外受精の準備として薬代、注射代、入院費等 約38万円
計 約84万円
それから子どもが産まれた後、どうやって育てていけばいいか…」
淳貴さんは会社員で年収700万円。
不妊治療の費用、出産の費用、そして子育ての費用を問題なく出すことができそうですが、何か特別な事情があるのでしょうか?
淳貴さんはバツイチで今回の結婚は2回目だったのです。
4年前に当時の妻と離婚したのですが、淳貴さんと前妻の間には長女(向日葵ちゃん、当時10歳)がいたそうです。
話し合いの末、向日葵ちゃんの親権は前妻が持つことに決まりました。
その代わりに淳貴さんは陽子さんに対し、向日葵ちゃんの養育費として毎月8万円、そして慰謝料として毎年6月と12月にそれぞれ30万円を支払うという約束をしており、養育費、慰謝料の支払が大きな重荷になっていたのです。
淳貴さんの手取り、家計の収支など
具体的な数字を見ていきましょう。
まず淳貴さんの手取りは毎月の給与が28万円、ボーナス月の賞与が夏(6月)は60万円、冬(12月)は62万円とのこと。
一方で毎月の支出は33万1千円ですが、毎月の給与を5万1千円も上回っており、6か月ごとに賞与で赤字を補填せざるを得ない状況でした。
しかし、赤字を補填すると今度は賞与月の収支も赤字に陥ってしまうという堂々巡りで
12月は68万2千円-62万円=△6万2千円
結局、年間では18万9千円(月額に直すと月1万7千万円)の赤字なので、すでに危機的な状況です。
赤子にかかる費用ですが、ミルク代、オムツ代などを考えれば、どんなに少なくとも毎月4万円はかかるでしょう。
では、家計の収支をどのように改善すれば良いのでしょうか?
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前妻に支払っている養育費、慰謝料を切り詰めるしかありません。
例えば、養育費を毎月8万円から4万円へ、そして慰謝料を賞与月30万円から30万円から20万円へ減額すれば、ようやく家計はトントンに落ち着き、出血(赤字)を食い止めることができます。
毎月の支出
養育費 8万円
生命保険の保険料 2万円
ガス代 1万円
電気代 6千円
水道代 5千円
食費 3万円
飲料水 6千円
雑費、日用品 1万円
夫のこづかい(昼食代、ガソリン代含む) 3万円
ガソリン代 5千円
通信費 4千円
携帯代(夫と妻)1万5千円
計33万1千円
ボーナス月の支出(夏)
慰謝料 30万円
自動車保険(夫) 1万5千円
傷害保険の保険料 6千円
車検代 10万円(2年毎の積立)
計 72万7千円
ボーナス月の支出(冬)
慰謝料 30万円
自動車保険(妻) 2万9千円
自動車税(夫) 3万4千円
自動車税(妻) 7千円
傷害保険の保険料 6千円
計 68万2千円
淳貴さんは勇気を振り絞って前妻へメールを送り、アポを取り、現妻を連れて直談判の場(ファミレス)へ足を運んだのです。
そして養育費や慰謝料の見直し案を提示したのですが、前妻はどのように反応したのでしょうか?
「そんなの身分不相応でしょ?! ぜいたくだわ!」
「あなた(現妻)には子どもを産む資格なんてないわ。さっさとあきらめなさいよ!」
このような前妻の傍若無人な物言いを聞き、さすがの淳貴さんも内心、「自分さえ良ければそれでいいのかと思っているのか」とカチンをきたそうです。
そこで今まで黙ったまま一言も発しなかった現妻がようやく重い腰を上げたのです。
私は決して高望みしているとは思っていません。だって、陽子さん(前妻)も彼と結婚したとき、私と同じ気持ちだったんじゃないですか?」
そんなふうに涙ながらに訴えかけ、2人は深々と頭を下げ続けたのです。
前妻に2人の気持ちが通じたのか、ファミレスで頭を下げ続ける2人を放っておくのが気まずかったのか、それとも淳貴さんとこれ以上、話を続けることが精神的に耐えられなかったのか、今となっては定かではありませんが、最終的には前妻は淳貴さんの見直し案を受け入れるに至ったのです。
そして淳貴さんは不妊治療で授かった命を無駄にせずに済んだのです。
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このように子作りをするにも、不妊治療を行うにも、子どもを出産するにも先立つものが必要なのだから、お金を工面するのに前妻の協力は必要不可欠なのです。
実際のところ、不妊治療「前」に前妻へ頼み込むケースは少ないです。
しかし、遅かれ早かれ、切り出さなければならないのだから、前もって前妻との間で話をつけておくのが懸命です。
さいごに
不妊治療の件数は10年間で約2.5倍に増えており(日本産科婦人科学会ARTデータ集「体外受精、顕微授精など高度な生殖補助医療で授かった子どもの数」平成14年は1万5,228人、平成24年は3万7,953人)離婚する夫婦は年間で約23万組(平成24年は23万5,406組。厚生労働省・人口動態統計)。
私たちも一定の確率で淳貴さん夫婦と同じようなトラブルも巻き込まれる可能性があるのだから他人事ではありません。(執筆者:露木 幸彦)