東京都内の職場に毎朝電車で1時間かけて通勤をしているAさん。
その日もいつも通り自宅近くの最寄り駅に到着したのですが、急いでいたせいか駅構内の階段で足を踏み外し、捻挫をしてしまいました。
その時は痛みを我慢し、とりあえず会社に向かうことにしましたが、翌朝、捻挫をしてしまった足の痛みが我慢できなくなり病院へ行くことにしました。
このように通勤途中でケガをしてしまった際の「ここだけは押さえておきたい労災保険のポイント」を3つご紹介します。

目次
(1) 健保証は使えない
通勤途中にケガをした場合、健康保険(健康保険被保険者証)は使えません。
なぜなら、健康保険は仕事(業務上)や通勤以外の理由でケガなどをした場合が対象であり、業務上や通勤途中にケガなどをした場合は、労働者災害補償保険(労災保険)が対象になるからです。
労災保険は、労働者であれば正社員、パート、アルバイト、派遣労働者など名称に関係なく適用されます。
つまり、社会保険のように労働者の中で、加入している者と加入していない者がいるわけではなく、会社に雇われている労働者であれば、たとえ1日だけのアルバイトであっても、その者が通勤途中にケガをすれば労災保険が適用されるのです。
したがって通勤途中にケガをして病院に行く場合は、病院の窓口で健保証を提示するのではなく、まず最初に「通勤途中にケガをしたこと」を病院に伝えることが重要になります。

(2) 可能であれば労災指定病院を選ぶこと
労災の場合は、病院選びもポイントです。
なぜなら、労災の指定を受けている病院(労災指定病院)と労災の指定を受けていない病院があり、手続きの手間がかなり異なるからです。
労災指定病院の場合は、労災専用用紙を病院に提出さえすれば、窓口で本人が治療費を負担する必要はなく、あとは病院が直接、労働基準監督署とやり取りをすることで手続きが完了します。
一方、労災指定を受けていない病院は、病院が労働基準監督署と労災専用用紙のやり取りを直接できないため、本人が治療費をいったん全額、病院の窓口に支払わなければなりません。
その後、労災専用用紙に医師から証明をもらったうえで、領収書等を添えて労働基準監督署に直接申請することで治療費が返金されるという少し複雑な手続きになります。
ただし、返金される額は、あくまでも労災保険が適用される範囲に限られます。
そのため、自由診療で労災保険が効かない治療を受けてしまったケースでは、全額返金されないこともあります。
また、申請の際に必要となる医師の証明代は、残念ながら返金されません。
(3) 通勤途中のケガでも労災の対象外になることも

通勤途中であっても通勤経路を逸脱していたり、又は通勤を中断した際は、その間及びその後の移動は労災保険の対象となる「通勤」とはされません。
例えばよくあるケースが、帰宅途中に同僚と飲みに行く、あるいは服などを買い物に行くといったように通勤とは関係のない私的行為の過程でケガをしてしまうケースです。
このような私的行為については、私的行為時間中はもちろんその後の通常の通勤経路に戻った移動も通勤とされないため、その後ケガをしても通勤災害として認められません。
ただし、食料品を買うためにスーパーに立ち寄る場合や病院に診療を受けに行くなどといった「日用品の購入その他これに準ずる行為」については例外的に、通常の通勤経路に戻った後は通勤として認められています。
このように通勤経路を逸脱、もしくは通勤を中断してしまった場合でも通常の通勤経路に戻った後については例外的に「労災保険の対象となる通勤」として認められるケースがスーパーや病院以外にもいくつかあります。
判断に迷う個別の事案については会社の所在地を管轄する労働基準監督署の労災課の窓口に相談してみると良いでしょう。(執筆者:山口 直)