「遺言」というと、人によってさまざまなイメージがあるようです。
ドラマで出てくるような、資産家のおじいちゃんが亡くなった後に引き出しから「遺言」が出てきた! というシーンを想像する方も多いのではないでしょうか。
しかし、〈遺言 = お金持ち〉ではありません。
そういうイメージをお持ちの方もいらっしゃると思うのですが、遺言は財産の多い少ないに関わらず、相続トラブルを防ぐ1つの手段にもなります。
「うちはお金持ちじゃないから関係ない」とは思わずに読み進めていただければ幸いです。

目次
遺言の種類
遺言にはいくつかの種類があるのですが、先程のドラマのワンシーンのような、引き出しから出てくる遺言は、おおかた「自筆証書遺言」というものです。
自分で書いて、手元に残しておく、代表的な遺言の形です。

法的には、自筆証書遺言にはいくつかの要件があり、
(2) 自筆(手書き)であること
(3) 本人署名・捺印があること
を満たしておく必要があります。
ただし、これ以外にも保有財産を特定できるように、きちんと財産目録をつけてくとか、不動産の表記を正しくしておくとか、必須ではないけれどきちんとしておいたほうが良いこともあります。
もうひとつ知っておいたほうが良い遺言の種類として、「公正証書遺言」というものがあります。
こちらは公証役場で作成するもので、法的な要件も厳格です。
公正証書遺言を書く場合、内容はともかくとして、利害関係のない人2人以上を証人として遺言作成の現場に立ち合わせなければなりません。
これがネックになって、公正証書遺言を作っていないという方も多いのです。
公正証書遺言の場合、公証人に払う手数料、証人を弁護士や司法書士に依頼する場合の手数料等、費用はかかりますが、書いた内容を実現させる可能性が最も高い遺言になります。
もうひとつ「秘密証書遺言」というものもありますが、あまり多くないのでここでは割愛します。
なぜ遺言を書くのか?
遺言がある場合、相続発生の際の財産分割を原則遺言の内容どおりにします。
遺言がない場合、相続人の間で分割協議を行い、誰がどのくらい相続するのかが決まります。
協議がうまくいかない場合は法定相続分で分割することになります。
要は、相続人同士の話し合いで決めてほしくない場合や、法定相続割合での相続をしてほしくない場合、法定相続人以外に財産を渡したい場合等は、協議分割や法定分割よりも優先される「遺言」がなければいけないのです。
遺言を書いたほうが良い人
法定相続人がいて、遺された財産に関して相続人同士が争う可能性が極めて低い場合は遺言がなくても大丈夫です。
例えば、相続人が1人しかいない場合には、全財産がその1人に受け継がれますから、トラブルになる可能性は極めて低いといえます。
相続人が2人以上いれば、争う可能性がゼロにはなりません。
普段は仲の良い兄弟姉妹でも、お金が関わった瞬間喧嘩になることだってあります。
そういうことを考えると、ほとんどの人が書いておいた方が良いということになりますが、特に以下のパターンはトラブルになりがちですので、遺言の作成を検討したほうが良いです。

1. 子供がいない
→ 親が亡くなっている場合、配偶者と兄弟姉妹が相続人になります。
兄弟姉妹のうち誰か1人でも亡くなっている場合、代襲相続人として甥や姪が登場することも。
親戚づきあいの薄い関係者同士での分割協議は難航することが多いです。
2. 複数いる子供のうち、特定の子に生前贈与をしている
→ 相続では公平でも、贈与分を合わせると不公平な分割になるので、トラブルの元凶です。
生前贈与していることが他の相続人にバレていなければ、あまり問題にはなりません。
しかし相続発生前3年以内の贈与は相続税を計算するときに調べますので、5年以内くらいの贈与はたいていバレます。
通帳等に振込履歴が残っていれば尚のこと。
3. 財産の大部分が不動産で、相続人が複数いる
→ 世の中に全く同じ不動産はありません。場所や用途によって評価も違います。
1つの不動産を複数名で共有することも可能ですが、売却等、何かしようと思ったときに全員の意見が一致しなければなりません。
ですから、今後の管理のことを考えると、不動産を共有名義にしておくのは避けておきたいのです。
「誰がどこをもらうのか」が喧嘩の元。遺言で予め指定しておいたほうが丸く収まりやすいのです。
ご自身のケースに当てはめてみて、相続時にトラブルになりかねない材料はないか、ゆっくり考えてみましょう。
小さなものでも、予見できるトラブルはその種を摘んでおいたほうが安心です。遺言はその種を摘む1つの手段です。(執筆者:鈴木 みゆき)