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米中貿易摩擦を整理します
昨年は米中貿易摩擦が一気に高まりました。
二つの大国の中で今何が起こっているのか整理してみましょう。
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まず7月に米国は中国からの輸入品に対して、知的財産の侵害への制裁措置として追加関税を発動しました。
7月に続き、8月、9月と3度に渡る追加関税の発動は合計2,500億ドル(約27兆7,500億円)に上ります。
中国も対抗措置として3度で合計1,100億ドル(約12兆1,000億円)の追加関税を発動しました。
7月
米国 340億ドル 産業機械・電子部品など818品目 追加関税25%
中国 340億ドル 産業機械・農産品など545品目 追加関税25%
8月
米国 160億ドル 半導体・鉄道車両など279品目 追加関税25%
中国 160億ドル 自動車関連・鉄鋼製品など333品目 追加関税25%
9月
米国 2,000億ドル 家電・家具・食料品など5,745品目 追加関税10%
→2019年2月末まで猶予
中国 600億ドル 液化天然ガス・中型飛行機など5,207品目
追加関税%または10%
株式市場は下落を続ける結果に
こうした中、12月に行われた米中首脳会談では第3弾の関税措置の発動を90日間猶予すると発表され、いったんは緊張緩和ムードが漂いました。
しかしカナダで中国通信機器大手ファーウエイの孟晩舟副会長が逮捕されると一気に事態は緊迫しました。
容疑はイラン制裁を逃れようと米国金融機関に虚偽の説明をした詐欺容疑でした。
これに対し中国国内でカナダ人国籍の人物が拘束されるなど報復とみられる動きもあり、米中貿易摩擦の長期化を懸念した株式市場は下落を続ける結果となりました。
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米中がここまで対立する要因
米中関係がここまで対立する要因としてはどのようなものがあるのでしょうか。
1. トランプ政権の誕生
一つ目に挙げられるのがトランプ政権の誕生です。
トランプ大統領は、選挙戦のなかで白人低所得者層の不満を受けて生まれた大統領です。
低賃金や失業に苦しむ白人低所得者層の不満や怒りのほこ先が向けられているのは、移民として流入しているヒスパニックだけでなく、安価で輸入されている中国製品に向けられています。
11月に行われた中間選挙を控えて、こうした不満を受けたトランプ大統領が対中国への圧力を強めていったものと言えます。
2. 技術覇権をめぐる争い
二つ目に挙げられるのは技術覇権をめぐる争いです。
当初、米中貿易摩擦のテーマは製品やサービスなど貿易そのものが中心でした。
しかしここにきて技術覇権をめぐる争いが新たなテーマとなっています。
中国は13億人の人口を抱え、個人情報を国家が自由に活用できる国です。
ネット通販企業アリババの登録会員数は6億人を越えます。
ハイテク企業育成戦略「中国製造2025」を掲げ、膨大なビッグデータをもとに技術開発を進めており、米国は強い危機感を抱いています。
副会長が逮捕されたファーウエイは「中国製造2025」の重点分野5Gの先導役の企業です。
5Gは人工知能(AI)や自動運転技術のベースとなる技術で軍事技術への転用の可能性も指摘されています。
ビッグデータやAIの活用が脚光を浴びる中、その主導権争いが激しさを増していると言えます。
2月末までにどのように進展するか注目
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米中貿易摩擦では世界の経済成長に大きな影を落とします。
いまや米中だけでなく世界中の製品やサービスは国境をまたいで複雑に交錯しています。
保護主義が強まり、自国の貿易圏の中での取引の制限を強めたり、別の貿易圏をまたぐ際に高い関税を掛けたりすることは円滑な交易を妨げ、世界全体の経済成長の足を引っ張ることとなります。
米中貿易摩擦の問題は、情報技術の覇権争いを含めてより複雑になっています。
まずは交渉期限とされる2月末までにどのように進展するか注目されます。(執筆者:相川 隆)