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株初心者用:小売業の月次業績をヒントに投資している方に向けて

今回の投資エッセンスは「小売業の月次売上高を見る時は、水面下の利益もしっかりイメージしよう!」だ。
イオンやローソン、良品計画など、月次の売上高実績を公開する小売業の会社は多い。
そして、その内容に応じて株価もよく変動する。
しかし、株価の反応を見ていると「これはさすがに上がり過ぎ・売られ過ぎでは?」と思うことも多い。
今回は小売業の月次売上高をテーマに、投資先を選ぶ上での注意ポイントを説明したい。
12月の月次売上高好調 ナルミヤ大幅高
東証2部に上場する、子供服の販売を手掛けるナルミヤ・インターナショナル。
この会社の株価は1月7日に7%超上昇した。
きっかけは前営業日に発表した2018年12月度の月次売上高だ。
12月度の売上高は全店で前年同月比16.7%増、既存店で10.2%増と、前11月度の成長率(全店9.4%増、既存店3.8%増)をそれぞれ上回った。
これにより、「今期の業績は好調なのでは?」との期待が高まり、ナルミヤの株価は大きく上昇。
この日の東証2部指数の上昇率である3%弱を上回る上げ幅となった。

しかし、水面下の利益率悪化が不安…
ナルミヤは2018年9月に東証2部に新規株式公開(IPO)した会社で、売上高は順調な成長を見せている。
しかし、収益性には不安がある。
営業利益率は2017年2月期の8.2%から2018年2月期の5.2%まで低下している。
ナルミヤは上場したばかりなので過去何年もの業績は見れず、従って長期的な利益率トレンドが確認できないことから「利益率が低下傾向にある」とは断言できない。
ただ、5.2%というと子供服業界大手で競合でもある西松屋チェーンの利益率(4~6%)とほぼ同水準。
投資家目線では、ナルミヤの強みのひとつが薄れているという不安材料となる。
月次売上高にも懸念が

ここで2019年2月期12月度の月次売上高に話を戻そう。
リリース内では売上高が伸びた背景として、冬物商品のセール販売がうまくいったと説明している。
小売りでは、この「セール販売」は要注意である。
仮に営業利益率が5%(直近のナルミヤと同水準)の企業が、セール期間中に全商品を1%引きで販売したとしよう。
人件費や仕入れ値などコスト面ではなんら変化がなかったとすると、単純計算で商品1個当たりの利益は20%減ることとなる。
この場合、値引きが成功、つまり販売促進効果により利益が増加したといえるのは販売数が25%以上増えた時のみだ。
もちろんこの例は値引きの利益インパクトをイメージするための簡単な例であり、現実には全ての商品が一律で値引きされるケースは少ない。
ただ、ここで肝に銘じたいのは
ということ。
そして、「月次売上高リリースになると売上高の成長率にばかり目が行き、その瞬間そのリリースの良しあしの判断が甘くなりがち」ということだ。
ナルミヤの場合、直近の利益率低下と、12月の売上高成長がセール販売によるものという事実を踏まえると、今回の月次リリースを受けての7%超の株価上昇は、少々楽観的過ぎるのではと思う。
月次売上高を見る時は、利益率を左右する要素も確認しよう!

水面下の利益をイメージするとは具体的にどういうことなのか?
1. 会社の営業利益率の推移を確認
商品の利幅自体に限定して調べたいと思ったら、売上総利益率も参考になる。
そうすることで、売上高が増えた時の利益の増加幅に関するざっくりとしたベース感覚がつかめる。
2. 今期の支出計画も確認
決算説明会資料の中で、
「人員を1割増やします」
「店舗の新設・改装に20億円投資します」
といったように、その期の費用に関する計画を公表している会社は多い。
これらを確認すると、
「来期以降は投資の効果が出てきて、利益率は上がっていきそうだ」
といったように、利益率のぼんやりとしたイメージが生まれる。
また、ナルミヤの月次リリースで説明した通り、商品の価格の変化も重要だ。
値引きをすれば需要が増えるのは、理論上当然である。
問題は、それが利益の増加につながったかどうかだ。
価格の変化をにおわせる単語を見つけた際は、要注意
実際のところ、値引き効果を投資家が正確に分析できるケースは非常に少ない。
ただ、重要なのは「値引きで利益が増えるためには、売上高成長率において超えるべきハードルが存在する」という意識を忘れないことだ。
月次業績で開示される数値データはせいぜい売上高、客数、客単価。
しかし、リリース内の説明文で「セール販売」などの価格の変化をにおわせる単語を見つけた際は、要注意だ。
こういった利益率が変化するような要素を確認する癖を身に付けると、たとえ利益を具体的にイメージすることが難しかったとしても、「売上高の成長率が前月から上昇した。この株は買いだ。」という反射的で危険な投資を未然に防げるようになるはずだ。(執筆者:高橋 清志)