2018年1月に「休眠預金等活用法」が施行されたため、2009年1月から10年以上に渡って取引がない口座の預金は、休眠預金に移管され、民間公益活動に活用されるようになります。
この取引とは入出金、手形(小切手)の提示による第三者からの支払請求などの、残高に変化があるものを示すので、通帳への記帳や口座の残高照会などは、原則として取引には含まれないようです。
また法律の対象になるのは、普通預金や通常貯金だけなく、定期預金、定期貯金、定期積立なども含まれるようです。
例えば定期預金は普通預金より、金額が多くなりやすいうえに、長期に渡って預けておく場合が多いため、これからは注意が必要になりそうです。
ただ次のような理由により、休眠預金より「休眠保険」や「休眠確定拠出年金」の方が、大きな問題になると考えており、また対策が必要になると思います。
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複雑な生命保険の普及により、現在の日本は休眠保険が発生しやすい

預金以外で日本人にもっとも身近な金融商品は、死亡保険、医療保険、がん保険などの、生命保険ではないかと思います。
この生命保険の保険金を受け取れるのに、請求を忘れて受け取っていない状態を、個人的には休眠保険と呼んでおります。
休眠保険が休眠預金より問題と考える第一の理由は、現在の日本は構造的に、休眠保険が発生しやすいからです。
大手の生命保険会社は長期に渡って、「主契約」の終身保険と、「特約」のさまざまな保障を組み合わせた、複雑な生命保険を販売してきました。
このような生命保険を購入した方が多かったため、どういった状態になった時に、保険金が受け取れるのかを、理解していない方が増えてしまいました。
また例えば認知症などの病気により、保険金の請求が難しくなるケースや、配偶者を亡くした後は単身世帯だったため、どんな生命保険に加入していたのを家族が知らないというケースが、高齢化により増えております。
ですから現在の日本は構造的に、休眠保険が発生しやすいのであり、生命保険各社が2014年の夏頃以降に、高齢の契約者に対する調査を実施したところ、約20億円の休眠保険が発生していたようです。
休眠保険の状態が長くなると、保険金の請求権は時効で消滅する

休眠保険が休眠預金より問題と考える第二の理由は、保険金の請求権には時効があるという点です。
預金の場合は休眠預金になっても、所定の手続きをすれば、払い戻しを受けられます。
それに対して生命保険の保険金の請求権には、原則3年という時効があるため、休眠保険の状態が長くなると、保険金を受け取れなくなるのです。
生命保険会社によっては保険金の請求権が時効で消滅しても、保険金の支払いに応じる場合があるようですが、応じてくれなければ保険料の払い損になるのです。
終活で生命保険を整理しておけば、休眠保険は発生しにくい
終活のひとつとして、使っていない預金口座の、早めの解約を提案するウェブサイトを見つけました。
生命保険についても終活のひとつとして、必要性の低いものは解約しても良いと思うのです。
例えば子供はすでに独立している、また配偶者には年金と預金があるため、当面の生活には困らないという状態であれば、自分が急に死亡したとしても、経済的に困る方はいないと考えられます。
そうなると相続税が発生する可能性のある方を除いては、死亡保険を解約しても問題はないと思うのです。
また新聞を見ていたら、お葬式代くらいの保険金が支払われる、シニア向けの死亡保険の広告が掲載されておりましたが、保険料として支払うお金を、早いうちから貯蓄しておけば、わざわざ新たに加入する必要はないはずです。
このようにして加入する生命保険を整理して、スリムな状態にしたうえで、保険金の受取人になる家族などに対し、加入している生命保険の保障内容を伝えておけば、休眠保険はかなり防止できると思います。
休眠確定拠出年金の状態だと、必要な給付金を請求できなくなる

企業型の確定拠出年金を実施している会社を退職した場合、会社や各従業員が拠出した掛金と、その運用益で構成された「個人別管理資産」を、所定のところに移管しなければなりません。
例えばすぐに再就職しない場合や、専業主婦になった場合には、脱退一時金の支給要件を満たす方を除き、iDeCo(個人型の確定拠出年金)の口座を開設し、そこに個人別管理資産を移管します。
退職してから6か月以内に、このような手続きをしなかった場合、その個人別管理資産は現金化され、国民年金基金連合会に自動的に移換されるのです。
このように国民年金基金連合会に自動的に移換され、放置されたままになっている個人別管理資産は、休眠確定拠出年金と呼んでも過言ではないと思います。
その理由としてiDeCoの口座を開設して、そこに個人別管理資産を移管しないと、老齢給付金を受給できる年齢に達したり、障害給付金を受給できる障害状態になったりしても、これらを請求できないからです。
これに加えて個人別管理資産が、国民年金基金連合会に自動的に移換されると、毎月51円の管理手数料を取られ続けるため、個人別管理資産は目減りしていきます。
使い切れなかった個人別管理資産は、死亡一時金として請求できる
企業型の確定拠出年金は2001年からスタートした、企業年金の中でも新しい制度です。
それにもかかわらず国民年金基金連合会に自動的に移換され、放置されたままになっている個人別管理資産は、2016年3月末時点において、1,428億円もあるというデータが、新聞の記事に掲載されておりました。
このような休眠確定拠出年金を発生させないためには、退職したらiDeCoの口座を速やかに開設して、そこに個人別管理資産を移管するしかありません。
また個人別管理資産を使い切る前に、死亡してしまう可能性があるため、残高は死亡一時金として請求できるという情報を、家族に伝えておくべきだと思います。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)